第194話 スクエアバイソン

関所前でスクエアバイソンと鬼ごっこしている俺、クルトンです。

4tトラック程の巨体が軽々と跳ねる様に疾走するさまは獣というより怪獣です。



シンシアはセリシャールさんにお願いして先に下宿先の叔父さんのところへ馬車ごと誘導、帰宅してもらっています。


俺はというと・・・、

スクエアバイソンに危険が無い事を証明する為に俺の調教塩梅を披露する事になりました。


正確には今ここで調教を行い、上達していく過程をリアルタイムで見てもらっています。



その為の鬼ごっこです。


俺が逃げ回りスクエアバイソンが追いかける。

その途中で唐突に俺が『止まれ』、『伏せ』、『待て』、『おいで』など言葉を発し、最初は通じなかったその号令がジェスチャー交えた俺の躾で徐々に形になっていく。


そのたびに騎士さん達からは「おおー」と歓声が上がりこのスクエアバイソンは制御された獣である事が証明、認知されていく。

うん、今のところ非常に上手くいってる。



暫くすると鬼ごっこの『ルール』を理解したのか、俺に追いついた時には優しく肩に鼻先を押し付けてから逃げ出した。


前から感じていたがこの世界の獣の知能はかなり高い。

その分狡猾ではあるが。


ポム、狸も俺が困る様な無茶な振る舞いを決してしないし謁見の間でも慣れてたとはいえ人に怯えず吠える事も無かった。

ムーシカだけはマーシカが生まれたばかりの時に限り自衛のために色々吹っ飛ばしてたけども、子供を守る為に最初敵認定していた俺を後に利用した狡猾さは間違いなく高い知能が有っての行動だ。



このスクエアバイソンもその例に漏れずかなりの早さでこちらの言葉を理解し躾が進んでいく。



その結果を見て

「大きすぎるから街中に入れることは出来んがクルトンが管理するなら問題ないだろう」

そうデデリさんが判断を下した。


やったね、第一関門突破。

今はスクエアバイソンが俺の側で伏せの体勢で寛いでる。


その姿を見て「そうだ」と唐突に思いつき、木材とステンレスワイヤーでデッキブラシ状にした手入れ用ブラシを製作。

蚤、虱殺しの機能を持たせるために雷の付与を施すとゴシゴシ体をブラッシングする。


大きい体の為にそれなりの時間が掛かるが当の本人はとても気持ちよさそうだ。

時々蚤の駆除の為”バチッ”っと紫色の光が走るがそれすら気持ちが良いようで大人しくされるがままになっている・・・ん、どうやら寝てしまったな。



「・・・こんな無防備に寝てしまうのだな。初めて見たぞ」

昨日もこんな感じでしたよ?

ああ、騒いでて見てなかったんでしょうね。


「しかしこれからどうしようか、さっきも言ったがデカすぎて街に入れることは出来ん。この辺に相応の厩舎を立てるにしても直ぐにとはいくまい。

お前が四六時中世話をするわけにもいかんだろうから厩務員も雇わないとならないだろうしな・・・」


そうなんですよね。

それで早速お役に立てる仕事ないですかねぇ。

ここに止めておくより準備が整うまで動き回らせた方が良いと思うんですよね。

勿論、酷使させるつもりはないので緩~くですけど。


「そうだな、その方が良いだろう。利益を生み出し続けていればそれだけで歓迎されるからな。

しかし・・・どうだろう、今思いついたんだが鞍ではなく櫓を乗せて移動式の物見台として巡回、監視業務に騎士団が活用するってのは?

俺のポポは確かに優秀だが如何せん1騎では限界がある。

これだけ大人しい獣なら一般の騎士でも十分扱えるんじゃないか?」


うん、良いんじゃないでしょうか。

一緒に馬鎧でも装着させれば超重量級の騎馬としても十分活用できるでしょう。


「お前以外誰も止められんな(笑)

この件は早速領主に伝えてこよう、騎士団で活用させてもらえるなら厩舎も厩務員もこちらで準備させるから正式に契約させてくれ」


おお、丸投げして良いんですか?

有難い、ぜひお願いします。


ある程度見通しが付いた。

今日はとりあえずここで野営しよう。



次の日の朝、早速騎士さん達がこちらに向かって来た。

馬車も1台向かってきている。


索敵で確認すると・・・馬車の中には4人。

シンシア、フォネルさん、セリシャールさん・・・もう一人は知らない感じだけど雰囲気からしてカンダル侯爵様なんじゃないかな。

なんとなくセリシャールさんと似た雰囲気が有るから。



馬車が到着すると御者ではなく先に馬上で待機していたパメラ嬢がマーシカから降りて馬車の扉を開ける。


案の定4人が馬車から降りてきた。


因みにデデリさんはこのタイミングに合わせて空から降りてきた。

こんなところはキッチリ合わせんのな。

多分同じ侯爵だから同格であることを見せないといけないんだろう。


遅くも、早くもなく2人同じタイミングで場に登場する様に。




序列を気にするって事は野外ではあるがここは正式な場という事か・・・良く見ると騎士の中に線の細い体躯でペンとノートを持って待機している人が居る。

書記の様だ、これからの会話は記録されるんだろう、注意しないと。


となるとここでスクエアバイソンの使用について契約を結ぶのかな。




周りの騎士さん達から「カンダル侯爵様がいらっしゃいました」と小声で連絡を受け、一緒に片膝をつき迎える。

俺たち側に立つデデリさんはそのまま仁王立ちだ。


ん?

何か動きが無いなと思い、ちらっと馬車の方を盗み見るとスクエアバイソンのあまりの大きさにだろう、カンダル侯爵様目を見開いて固まっているみたいだ。


それに気づいたであろうデデリさんが先に声を発する。

「早々に足を運んでいただき感謝する、早速で悪いが騎乗動物の確認と契約を済ませてしまおう。

その為にインビジブルウルフ卿は昨日からここで足止めを喰らっているのでな」


「はは、そう急かさないでくれよ、デデリ卿。

・・・いやはや、これほどのスクエアバイソン。

いやいや、まずは挨拶からだな、噂は散々聞かされていたが私は『魔獣殺しの英雄』に初めて会うんだからね」



はいはい、サクッと済ませましょう、挨拶。

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