第193話 「それと比べてあなたときたら・・・」
焼肉パーティーが終わってもデデリさんはじめ騎士さん達大盛り上がりしています。
明日の行程がちょっと心配な俺、クルトンです。
まだ酔っぱらうほど飲んではいませんがそろそろ寝ないと明日に響きますよ。
特に女性陣には。
「そうね今日はシンシアと一緒に馬車の中で眠らせてもらうわ」
はい、どうぞ。
この箱庭の気温調節は俺の思い通りだから厚めの毛布を敷けばテントを張らずとも外で雑魚寝して問題ないだろう。
デデリさん達もそのうち寝るだろう、俺の周りを少し遮音してっと、ではおやすみなさい。
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はい、おはようございます、良い朝ですね。
ゆっくり寝れました。
とは言っても皆はまだ寝ています。
時間的には陽が上るちょっと前、軽くだけど箱庭の外で日課の訓練をしてこよう。
今日は走力の確認の為に向こうに見える・・・1km位先かな、少しこんもりとした岩?丘まで行って何往復かしようか、もちろん全力で。
衝撃波から破裂音は出るが箱庭の障壁には遮音を施しているから皆の眠りを妨げる事は無いだろう。
一往復毎に動きを確認、修正しながら20往復位したところで皆が起きてきた。
練習始めて30分経ってないのに意外と早いですね。
あ、まだ朝ご飯準備してないや。
では今から作りましょうか。
「いやいや、今朝は私たちがやりましょう。クルトンさんは昨晩の準備を結局一人でやられたじゃないですか」
騎士さん達が気を使ってくれます。
そうですか?じゃあお言葉に甘えようかな。
馬車の外側から開けれるトランクルームから瓶に入った濃縮コンソメスープと冷蔵保管していた唐辛子を効かせたミートソース、野豚のソーセージ、パンを出す。
「これでホットドックでもお願いします」
そう言いながら土魔法で作った竈に火を入れる。
「何から何まで・・・はい、任されました。少々お待ちください」
少しして狼達にも鹿のもも肉を焼いて準備が整うと皆でタップリ朝食をとりコルネンに向かい出発した。
デデリさんはスクエアバイソンの受け入れ準備の為先行してコルネンに向かいました。
出発は一緒だったのに瞬く間に飛影が見えなくなります。
いつ見てもグリフォンの移動速度は桁違いだな、飛行に特化した翼竜なんかはこれ以上らしいから騎乗動物に加えられたら良いんだけどなあ、かなり厳しいけど。
・・・雛から育てるってのは出来ないのかな。
いや、ちゃんと事業が軌道に乗ってから考えよう、捕獲するだけで何とかなる様なもんでもないだろうから。
多分飼育するノウハウを一から蓄えないと無理だろう、そしてその試行錯誤の過程で命を落とす個体も少なくないだろう。
獣とはいえ人の都合でそんな犠牲を許容できるかと問われれば、それに頷ける程明確な覚悟は今の俺には無い。
時期尚早、いずれにせよ今は陸上の騎乗動物の捕獲に注力しよう。
ペスと狸は相変わらず馬車内でシンシアとパメラ嬢から甘やかされている。
まだ子供だがそろそろ本格的に躾をしないといけないな。
・・・狸は子供ではないよな。
今更で毎度の事だが「狸の名前を決めないとな、どうしようか?」とシンシアに昨晩聞くと、
「『タヌキ』が名前じゃないの?」
って言われた。
うん、違いますよ。
最初からタヌキっては言っていたけども。
なので昨晩からパメラ嬢と一緒に狸の名前をどうしようか相談している。
このタイミングでないとスクエアバイソンの名前も決めないまま時間が経ちそうだったのでこれも一緒にお願いしている。
俺よりいい名前を決めてくれるだろう。
うん、期待している。
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陽が沈むにはまだ早い頃合い、思ったより早くコルネンに到着した。
スクエアバイソンの件もあるので街には入らず待機中です。
「おかえり、あまりに長い滞在で向こうの騎士団にヘッドハントされたのかとヒヤヒヤしたよ」
出迎えに来てくれたフォネルさんが早速シンシアの心配をしています。
ええ、やっと帰ってこれました(笑)、でも王都は有意義で充実した滞在期間でしたよ。
ヘッドハンティングはありましたけど紳士的なもんでしたから問題なかったですし。
「それはね、クルトンが側に居たからだよ」
まあ、そうでしょうね。
向こうではセリシャールさんがシンシアを出迎え談笑しています。
本当にうれしそうですね。
「それと比べてあなたときたら・・・何か感じるものは無いの?」
2人の側に居てバツが悪く感じたんでしょう、パメラ嬢がこちらに歩いてきてそう言います。
ああ、正直とても懐かしく感じますよ。
帰ってきたんだなと柄にもなく感慨深くなります。
けど早速仕事を進めないと、大げさな話ではなく国と聖別された方々の命運がかかっている事業を抱えていますから。
「・・・そうね。ふふっ、そうよね、貴方らしいわ」
・・・そう言えば俺が抱えている仕事を知っている様な話しぶりですね?
「当り前だ、それの公開に伴って既に国中の騎士団に『警備強化』の通達が出ている、さほど時間も経たずに辺境の騎士団まで周知されるだろう。
補助具の腕輪など他国の間者が群がる情報だぞ、あえて公開して公式に間者の取り締まりを行う良い口実だしな」
デデリさんが教えてくれました。
そんな事だろうと思いましたよ。
しかし俺の平穏が担保されるのか心配・・・。
「大丈夫よ、貴方の・・・クルトンの名は伏せられるわ。
あくまでも公開しているのは『魔獣殺しの英雄インビジブルウルフ』の名よ、どういうことか分かる?
”死にたい奴だけかかって来い”って挑発してるのよ、腕輪の情報を守る巨狼にってね・・・( *´艸`)ププー」
何やってくれてんの!
宰相閣下でしょう?こんな事考えたの。
「いや、以前チェルナー姫様から相談を受けてな、俺が陛下に上申した」
デデリさん、あんたか!
「だが、『クルトン』と『インビジブルウルフ』の名前の乖離については以前からお前が望んでいた事だぞ」
・・・そうでした。
「誰かのせいにしたいが自分の顔しか思い浮かばない」
前世で聞いた事のあるそんな言葉が頭に浮かぶ。
もう何も言えない。
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