第192話 信条

赤い鞍をグリフォンに装着し無駄にやる気になっているデデリさんを見て逆に冷めてしまっている俺、クルトンです。


俺が拵えたあの赤い馬具は戦闘用のそれです。

なぜにここに来るのにそんな好戦的な装備で来たんだ。


「何が有るか分からんだろう」

いや、そうですけども。


地面に到着する寸前そう言って、”フワッ”と羽をはばたかせると衝撃をほゞほゞ殺して着地したグリフォン。

おお、すげえ。

調教のきめ細やかさが見て取れる、デデリさんはあんな雑なのに。



「相変わらず無茶してるわね、こんなのどこで飼うつもりよ」

あ、パメラ嬢もいた。


タンデム仕様になっていないのに鞍の隙間に座ってデデリさんの背中にしがみついてる。

何かコアラっぽくてホッコリするな。



いやいや、そうじゃない。

パメラ嬢、無茶してるのは貴方でしょう。

その馬具は一人用ですよ、安全装置もそれ前提で拵えてるんですから勘弁してください。

デデリさんも安全意識無さすぎですよ。


「何もなかったから問題ない、そんなことより今はそのスクエアバイソンだ」

そんな事あるんですけどね、加護持ちはこれだから・・・まあ、仕方ないか。


で、この牛スクエアバイソンていうんですか?


「ああ、別段珍しい牛でもないんだがな。

ただポンデ石切り場の奥の森のヤツだろう?ここまでデカいのはあそこにしかいない」

グリフォンのポポから降りながらそう言う。



へーそうなんですね。


「このデカさだからな、あの森を探せば割と見かけるんだが・・・。しかし連れて帰ってくるなんてな、聞いたことないぞ」


いや、蜥蜴共に襲われててですね、成り行きと言いますか。

「難儀な事だな、まあそれは良いだろう。

で、どうなんだ騎乗動物としてのお前の評価は」


うーん、微妙ってのが正直なところですが、俺が付与した足輪、鼻輪ありきでしたらとても優秀ですね。


「ほう!詳しく聞かせてもらおうか」


それは後にしませんか?

ここで止まってしまっては皆に迷惑が掛かります、とりあえず進みましょう。

かなりの速度で移動できるとは言えグリフォン程ではないのですから予定を狂わす訳にはいきません。

明日の夕方までにはコルネンに到着したいのでこの話は今日の野営の時にでも話しましょう。


「そうだな、もっともな事だ」


そう言うとデデリさんはポポに跨りサッと上空へ舞い上がる。

まるで動きにムラ、淀みがない。訓練された動きだ、美しくさえ思える。

髭モジャだけど。



パメラ嬢はというと当たり前の様に俺の馬車に乗りこみ、狸を見つけたらしく早速モフりながらシンシアとおしゃべりしている。


いつの間に。


取りあえず進もう、明日の予定を狂わせない為にも。



「なあ、クルトン、こっちの方が問題だったんじゃないか?陛下からもそう言われたんじゃないか?」


陛下には俺から報告はしていません、宰相閣下が報告されているはずです。


デデリさん、パメラ嬢が合流したのと野営最後の夜になる(予定)なので箱庭の中で焼肉パーティー開催中です。

勿論お酒も振舞います、明日に支障が出ない程度ですけど。


スクエアバイソンは草をモッシャモッシャ食んでおり、マイペースにお食事中。

やっぱり餌少なくて済みそうだな。

あんなに走ったのに食べる量が少なくて、排泄する量もすこぶる少ない。

超高効率騎乗動物、すんごい利点だよコレ。


他の人は昨日、今日で俺が狩った野豚と鹿を捌いて鉄板でジュウジュウさせてます。

特に昨日狩った野豚のバラ肉は特製ダレに付け込んでいたから焼いた時の香りが暴力的で匂いだけで腹が減る。

そして濃い目の味も相まって酒が進む。


この雰囲気の中、本来スクエアバイソンを中心に話をするつもりが俺のハウジングの話に速攻切替わった。


「さっきサムエリドから聞いたがトンデモないんじゃないか、このハウジングとかいうものは。お前はどこを目指して何をしたいんだ」


サムエリドさんというのはシンシアの護衛の騎士さん達をまとめている小隊長さんです。

ハウジングの件で宰相閣下とやり取りしていたあの人でもあります。



必要な力だったんですよ。聖別された方々の命をこのハウジング、箱庭の機能で担保する為に。

完全にコントロールできる領域が必要だったんです。


「必要だったからって手に入れられる力じゃないだろう?もっとソフィー嬢に出張ってもらえば良かった・・・お前は善良で正常な常識を持っているはずなのに目標に向かう時の優先順位の付け方が我々と大きく異なる・・・予測できんぞ」



・・・デデリさん、それは違いますよ。

皆が許容し、諦めている犠牲を俺は容認できないだけです。

その生き方を貫くために俺は力を求め続けてきたんですから、目的の為に正しく振るわれる力であれば出し惜しみなどしません。

これからもそれは変わりませんよ。




「・・・まさしく来訪者の振る舞いだな」

そう呟くと新たにカップへ酒を注ぎ一気に飲み干した。


ああああ、そんなもったいない飲み方~、そのウイスキー高いんですよぅ。

もっと味わってですねぇ・・・、



「強者は弱者を守る盾とならねばならん!」

おう!突然どうしたんですか?


「力なき者は盾の役目を果たせず理不尽な暴力に蹂躙されるのみ!」

「よっ!!」


パメラ嬢が合いの手入れてる。

しかも手馴れてる。


「我がタリシニセリアンが交わした来訪者セリアンとの盟約は!」

「「「はっ!!」」」


護衛の騎士さん達も加わった。

いや、テンポ良いな・・・それで?


「この世の理不尽に抗う事、それを諦めぬ事!」

「「「「やっ!!」」」」


何かコレ学校か何かで必修にでもなってんの?

妙に手慣れてんだけど、パメラ嬢含め騎士さん達の合いの手が。


「人の身でありながら力を求め限界を超えるその者のみが、盾となる為の第一歩を踏み出せる」

「「「「「パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ・・・・」」」」」


デデリさんが拳を天に掲げて満足げにポーズをとってる。

何なのこれ?



「ただの羊飼いだった男、初代タリシニセリアン国王陛下が来訪者セリアンよりこの地の平定を任され、その後建国した際の演説の一節です。我々騎士団の信条でもあります」

サムエリドさんがそう教えてくれます。


え、そうなの?

知らんよ俺、騎士だけど。

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