第195話 自由騎士

「楽にしてくれ」

軽く握手してそうカンダル侯爵様が言うといつの間にか準備された簡易テーブルと椅子に促される。


体重に椅子が耐えられるか心配している俺、クルトンです。



”ミシリ・・・”

おう!危ない、やっぱり椅子を壊してしまいそうだ。

せっかく用意してもらって申し訳ないが土魔法でちょうど良い高さまで地面の一部を隆起させそこに座る。


「噂には聞いてはいたが魔法もたいしたものだな、これで治癒魔法も使いこなすんだろう、本当にうちの領に居てもらっていいのか?

近衛で召し抱えられてもおかしくないだろうに」


デデリさんに向かいカンダル侯爵様が問いかける。


「知ってて聞いているのだろう?陛下が公式にすることは決してないだろうに・・・インビジブルウルフ卿は自由騎士だ。少なくとも騎士団内ではその見解で一致している」


「はは、大隊長の言質は取ったからな(笑)

しかし、それなら話は早い、スクエアバイソンの件での契約の内容を詰めようか」


ん?契約は俺がコルネン駐屯騎士団とするのではないのですか。

「『駐屯』騎士団だからな、自領の戦力ではなく『国』の治安維持部隊とでもいった方が分かり易いか・・・対人ではなく対魔獣の方。

うちが国に費用を支払って守ってもらっているんだよ。

だから寝食含め基本設備関連もこちらが面倒を見る」


ほえー、そうだったんですね。

「しかもこれ程の獣、自領で保有するとなるとそれ相応の箔も付くしな」

ニヤリと笑うカンダル侯爵。


「所有者はクルトンだ・・・まさかとは思うが契約書に余計な事は書いてないだろうな?」

対照的に仏頂面のデデリさんがギロリとカンダル侯爵様を睨む。



ああ、そうか。

『推定』ではあっても自由騎士だという言質をデデリさんから取ったのは俺との契約に駐屯騎士団側が口を出さない様に牽制したって事か。


俺がどの部隊にも所属していない事を確認したんだな。

俺の直属の上長はデデリさんなど騎士団の隊長クラスではなく元老院議長のソフィー様しかいないって事を。



「そんなに睨むなよ」


「老婆心で忠告してやっているんだ、狼の爪を受けたくはあるまい。

レイニーの件は僅かに幸運側に天秤が傾いただけだとも言ったはずだ」


え、いや、その件は結果オーライだからもう良いんですけど。

心の整理が付いていたのにそんな話ぶち込まないでください、正直へこむ。

ってか俺の事を変に伝えてないでしょうね?


「心配するな、十分心得ている。

そもそも魔獣殺しの英雄を謀るなど阿呆のやる事だ。

セリシャールから聞かなくてもそれが招く結果くらいは私でも想像できる」


それを聞くとデデリさんは口を閉ざし俺の横に再び仁王立ち。


うん、俺もそれなりに前世で経験してきたから、保険の約款とか割と読む方だったから。

一応契約書の中身はちゃんと読みますよ、分からない事はちゃんと聞いて記録を残しますし。



「では内容確認してもらおう、とは言ってもさほど込み入ったことは無い、私がこのスクエアバイソンを借り受け使用する内容だ。

実務をこなす駐屯騎士団に使用してもらう」

テーブルに契約書を広げてくる。


フムフム、矛盾も引っかけも無いみたいですね。

・・・ん?契約の期間と解約の条件が入ってないですね。


「解約?」

ええ、どちらかに契約の履行が出来ない事情が発生した際、片方が一方的に損害を被らない様に強制的に解約できるようにする内容です。

違う意味合いで使う場合もありますけど。


「お前に不義理が有ったらクルトンが一方的に契約を打ち切れるという事だ、もちろんその逆もあり得るが」

お、流石デデリさん理解が早いですね。


「ふむ・・・、治安維持は魔獣からのコルネン防衛の為に何よりも優先される重要事項だ。

その職務に使用する騎乗動物の使用契約を一介の騎士の判断で一方的に解約されるのも困るのだが」

デスヨネー。



「『一介の』と言ったか!

お前は馬鹿なのか、なぜ俺が言質を取られる事を承知でお前の質問に答えたと思っているんだ?」

ん、何の事だ?



「・・・自由騎士の名はそれほど重いという事か」


「お前は騎士を経験した事が無かったのだったな。だから実感が無いのだろう、今の発言は水に流してやる。詳しくは息子のセリシャールに聞くといい」

デデリさんがそう言うとカンダル侯爵様と一緒にセリシャールさんの方を向く。



実父、カンダル侯爵様に瞳を合わせセリシャールさんが話し出す。

脇にシンシアがいる事も有るのかいつも以上にキリッとしている。


「父上、『自由騎士』と呼ばれる者を縛る事は実質できません。いつでも陛下の側に付き、自分の裁量で力を振るう事を許されます。

いえ、正確ではありませんね、そもそも陛下はその振るわれる力に干渉しようとしません。

それ程に陛下からの信頼が厚いのです」


「・・・まかり間違えばただの無法者を野放しにしている様なものではないか?それで秩序は守られるのか?法はどうなる?」


「まずその言葉がタリシニセリアンの判断を疑う不敬ではありますが聞かなかった事にしましょう・・・それで先の件ですが、どれも無意味ですね。

私が知る限りインビジブルウルフ卿は歴代で最も『自由騎士』を体現した騎士です。

故に何モノにも縛られません。

矛盾した様に聞こえるでしょうが爵位にも縛られないのです、その証拠に騎士の叙爵を受ける前よりタリシニセリアン国王陛下と直接言葉を交わす事を黙認されていたそうですよ」



「・・・分かった、これ以上は聞くまい」




(・ω・)この話、俺いる必要ある?


「他人事じゃないんだぞ(ギロリ)」

デデリさんから睨まれた。

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