第196話 「・・・禁じ手を使うか?」

サラサラ、サラサラ。

ペンが走る音しかしません、居心地が悪く目をキョロキョロさせている俺、クルトンです。


静かすぎる。

あれからカンダル侯爵様は口を閉ざし2部ある契約書それぞれに期限、解約の内容を書き足しています。

お付きの文官にさせればいいのにと思うが何かへのけじめと思っているのか真剣な顔で黙々と書き記しています。



サラサラサラ・・・「内容を再確認してほしい」


書き終わったようです。

では拝見いたしますです、ハイ。


フムフム、問題ないと思います、サインしちゃいますか。

サラサラサラ・・・ハイどうぞ。



「・・・では私も」

サラサラサラ・・・・。



「立会人として俺もサインしよう」

サラサラサラ。


ああ、デデリさんは立会人でしたか。

これは頼もしいですね。


「ではお互い1部づつ保管する、追加で記載した通り契約の期間は1年間で特別申し出が無い限り自動更新となる」


申し出を伝えるにはどうしたら?

俺は元老院での役職が有るので最悪そこに伝えてもらえれば大丈夫ですけど。


「私の場合はそうだな・・・屋敷に直接来てくれ、私が不在の時でも対応する様に家令へ話を通しておく」

承知仕りました。



「ではデデリ卿、これで宜しいか?」


「ああ、問題ないだろう。まあ、何か有ってもお前にはどうにもできんがな(笑)」


「否定できんところが辛いな、わざわざ自領に問題を抱え込んだ様な錯覚すら覚えるよ(笑)」


2人で「はっはっはっはっ」と笑っている。

実は仲いいんじゃね?



まあ、無事契約は済んだってところか。

次はスクエアバイソンの運用方針を決めましょう。


櫓を乗せて哨戒の騎士さんと一緒に自領を巡回させたいんでしたっけ?

「そうだな、デデリ卿からの提案では遠方をグリフォン、コルネン近辺をスクエアバイソンで、との事だった。

私もこれに異議はない、とても有意義な事だと思う」



ならそうしましょう。

じゃあ櫓の設計を進めますよ。


櫓と言ってもスクエアバイソンの体高自体が4m位有るのでそれに1m位嵩上げする台を乗せる様なイメージ。


地上5mにプラスして乗員の目線1.7m位か、6~7mの高さから警戒監視を行う。

低く感じるかもしれないがそれでも障害物が無ければ実質9km程度先を見渡せる感じ・・・だったはず。

この星?が地球と同程度の大きさならだけど。


当然移動しながらなのでその気になれば自動車ほどの速度の中その職務をこなすことになる。

揺れ防止の機能を充実させないとひどい事なるだろうな。

忘れない様、仕様に盛り込む為にメモしておこう。


何気に乗り降りし易い様にギミックを設ける必要もありそうだけどトップヘヴィーになってバランスを悪くしたくも無いから出来るだけ軽く作らなきゃならんし、横転したりすることも織り込んだ安全装置も必要だろう・・・。


何気に難易度高くね?

付与に頼った解決方法じゃなくて物理的な機構その物の完成度を上げてかないとどうにもならんぞ。


横転した時なんか櫓は無事でもスクエアバイソンにダメージ集中してしまったら本末転倒だし。

かといって櫓に乗ってる人の安全も確保しないといけない。




「そうよなあ、言われてみればあれ程の速度であの高さから投げ出される事もあり得るのか」


十分危険に思えますがそれくらいならこの世界の、且つ十分に訓練した騎士さん達なら命に係わる怪我はしないと思う。

それはそれで凄い事だけど。


ただ最悪スクエアバイソンの下敷きなんてのも有るかもしれない。


『最悪』を想定したらキリが無いのだけど何処で妥協するかの線引きが難しい。

命にかかわる事だからなおさらだ。


「乗員に訓練させるしかないだろう、それこそ何かの時は出来るだけ安全に飛び降りる訓練を」


ああ!そうか、哨戒業務なのだから此方からわざわざ接敵する事はしない事を前提に、騎士のフルプレートメイルではなく専用装備を装着してもらおう、エアバッグ内蔵とか落下速度軽減の付与とか施したそんな感じの装備。


うん、なんか光が見えてきた。



いや、よく考えろ俺。

間違いじゃない、間違いじゃないけど・・・・、


「仕事増えてんじゃん!!」


暇なのよりは良い、けど納期が偏りすぎだ。

俺が一人だけで出来る仕事は構わない、力技で何とか出来る。

でも材料の確保とかパン屋の手伝いとかシンシアの指導とか他の人と関わる仕事はどうにもできん。


・・・禁じ手を使うか?

箱庭内の時間経過を早めてそこで目途が付くまで俺一人で出来る仕事を熟せば何とかなるか?

・・・なるな。でも現実世界での俺の寿命が縮むのは避けられないようだ。

数日、数週間、数か月だったとしても時間経過の度合いによって稼いだ分の時間が相対的に削られる。


うん、コレは無しだな。

リアルで(わずかでも)早死にしますなんて言われたら・・・この案は却下です。

俺長生きしたいもの。


腕輪の改良は継続するとしてまずは王笏の始末をつけるか。

その後にデデリさんの馬車の設計、姫様の馬車の製作・・・・。

開き直ってキリキリ働こう。




取りあえず今日こそは下宿先に帰らないとな。

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