第288話 「マジで防ぎようがないんですけど」
暫くの間、お付きの侍女さん達含め俺たち全員に振舞われたお茶をすすりホッコリしている俺、クルトンです。
紅茶ではあるそうだが、いつもここで飲んでいるものより香りが高く、そのかわり苦みや独特の風味は控えめで温度も少し低めだ。
これなら濃厚なクリームの後味を邪魔せず、余韻を残したまま綺麗にフェードアウトさせるだろう、とても上品な紅茶。
「大変美味しゅうございました」
俺がお茶を入れてくれた侍女さんにそう告げると「有難う御座います」と言いながらお代りくれた。
こちらこそ有難う御座います。
「それで今日が最終日でしたがどうでした?」
ロールケーキを食べながらのソフィー様からそう問いかけられ、イエレンさんと俺とで説明を行う。
パジェ自身は身体能力に特出した物は無いが、今まで報告した通りその技能の効果は絶大で・・・
古代の中央処理装置と思われる設備へアクセス、操作する事が出来る能力で間違いなさそうだとの事。
この演算機能を利用するだけでも相当な恩恵を受ける事が出来るだろうとの事。
古代の通信インフラ設備はおそらく我が国外にもある為、その調査も必ず行うべきだという事。
これだけの処理を行っているのにパジェの脳、意識、人格に影響がない事から設備へアクセスする能力に特化していて、処理の負荷は設備が受け持っているのだろう・・・つまりパジェはある意味代償無しで能力を発揮できているという事。
そして古代の遺産の能力がパジェの能力の上限を決めている状態だという事。
だからこそ、古代の遺産は出来るだけ無傷で発掘し、延命させる処置をするべきだという事。
今までと重複する内容も含めて報告する。
「最初は遠見の魔法の強化版くらいにしか思っていませんでしたが・・・国の在り様が変わってしまいますね。何度聞いても危険な能力だわ」
今はナッツ棒をモグモグしながら眉間のしわを深くするソフィーさま。
「ですので少なくとも成人までは能力を秘匿し、王家の庇護下において頂きたいのです。
幾ら国への貢献著しくとも強硬派の貴族へ情報が流れれば、『国益の為』と言う正論でパジェの人生が取り上げられてしまうかもしれません」
幼少期から国家のネジの役目を求めるのは酷ですし、ある意味虐待です。
そうですね・・・例えばパジェの精神に負担が掛かって鬱状態にでもなれば『危険なボタン』を一時の感情でポチッとしてしまうかもしれません。
「『ポチッと』って言うのがいまだに分からないけど?」
引いた弓の弦を弾いてしまうという事です。
「どの位の影響出そうなのかしら」
分かりません。
だからこそ慎重でなくてはならないのです。
どの位危険かが分かればパジェに教育する過程で適切な時期にその旨を伝え、コントロールできるのでしょうが今は『恐ろしい物が有るかもしれない』と言う不明確な恐怖と付き合って行かなくてはならないのですよ。
「そうね、太古の大災害では天から巨大な槍が何本も降ってきた事が有ったそうだから・・・今までの話を聞くに、この天の槍とパジェの能力との関連性も疑ってかかった方が安全ね」
何気に大気圏からの質量兵器ですか。
マジで防ぎようがないんですけど、ソレ。
「では、王家の庇護下での教育については陛下に上申します、正しい選択をして頂けるでしょう。今は姉さまも目を覚ましている時間が長くなった事ですし間違いは起こらないはずよ」
そう言って場を締める。
これで一旦パジェの能力の検証作業に一区切りがついた。
後はイエレンさんが論文にまとめ王家に献上する事になる。
本来であれば同じ鑑定の技能持ちとの間で、更なる検証を重ねて論文の質を上げていくらしいのだが、パジェがまだ小さい事と想定される能力の危険性を考え情報を知る者を制限するみたい。
一応検証した事実は記録されるがそれ以外は秘匿され、これ以降は公開の時期も含め情報の取り扱いが王家へ委ねられる。
いずれにせよ国王陛下にはパジェ一家が幸せになる選択肢を選んで頂きたい。
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翌日、コルネンへの帰還の準備を本格的に進める為に王都内の素材の卸し業者を回っている。
王都への往路は俺自身護衛を請け負っていた事も有り軽装な状態で馬車も引いてこなかった。
しかしコルネンへの復路はテホア一家も一緒に行く事になるのでそう大きくならずとも馬車を1台拵えておきたい。
ムーシカ1頭立ての馬車を。
以前デデリさんに作った物の廉価版と言ったイメージで、しかし箱馬車ではなく幌馬車、幌もテントの様に上に捲り上げる事が出来る窓を作って風通しも良く、乗ったまま景色を眺める事が出来る様にしたい。
今回は特殊な付与は施さないが、板バネのサスペンションとベアリングを使っての足回りは同じ仕様にする、乗り心地はマジ大事。
木材、布、革、金属素材を一通り注文し明日修練場へ届けて貰う様に依頼、ベアリングと板バネ、車軸用の金属素材だけは今日の内に拵えておきたいので持って帰る。
ムーシカに素材を括り付け、手綱を引いて修練場に向かい歩いていると鍛冶工房の前で声を掛けられた。
「おおい、クルトン卿!話が有る、すぐ終わるからちょっと寄ってけ」
鍛冶ギルド本部長のシベロさんだ。
この人毎日違う工房に居るんだよな、毎回違う工房で槌を揮ってる。ギルド長なんだから本部で書類仕事有るんじゃねえの?
呼ばれた工房に入ると窯の熱が入り口にも伝ってくる、この工房は結構熱こもるね。
「はは!その分窯の熱も下がらねえんだ、こんなとこは良し悪しだよ」
へえ、そうなんだ。人には厳そうだけど大丈夫なのかな。
「でだ、大した話では無い・・・無くは無いな。
お前さん達が開発した青銅の合金、あれ正式に『チェルナー鋼』の商標取れたってよ、良かったな(笑)」
おお!!そうですか、やっとですね。
王族絡むからもっとサクサク承認まで進むと思ってたのですけど結構かかりましたね。
「おうよ、これでやっと『チェルナー鋼取扱い工房』の看板出せるよ、ホントやっとだよ」
そう言って鋳造で作ったのだろう、さっき言ってた『チェルナー鋼取扱い工房』と表示されている看板を指さす。
これ重すぎて床に置いてるんですか?
ダンビラ状のクソ重たそうな看板が、俺から工房に向かう入り口付近の床、かなり邪魔な所にべた置きしてある。
「いやあ、丁度お前を見つけて良かったよ。
台車で運んでる最中傾いちまってな、そのまま床に落ちちまった。
こんな感じでべた置きなると手を引っかける所ねえから持ち上げらんねえんだ。
床に傷つけても良ければ何とでもなるんだがよ、あっちまで運ぶの手伝ってくれよ」
まったく、穴の一つでも空けておけば良いのに。
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