第287話 外界の四肢
作り終えたロールケーキを保冷の付与を仕込んだバケットに入れている俺、クルトンです。
生クリームタップリ目で作ったロールケーキ、既に今からおやつの時間が待ち遠しい。
ちょっとお高めな茶葉も持参して皆と楽しもう。
初回以外は問題無く後宮への入場を果たし、侍女さんに案内されいつもの部屋に通される。
今日はポムも一緒だ。
部屋に入ると早速「おおう!ポム!ポムぅ!!」とパジェはポムによじ登ろうとするが中々それができず、結局ポムの方が焦れて伏せの状態になり「早く乗れ」と言わんばかりにメンチを切っている。
そんな一幕もあり、ポムに乗ってご満悦の状態でパジェの能力検証を進めます。
何をやるにも楽しんで、これ大事。
今回はまずパジェとフロスミアで対戦する。
パジェVS侍女さん2名含む俺ら合計4名で。
で、結果は俺たちの惨敗。相変わらず全く勝てない。
リバーシーの世界チャンピオンでも無理じゃね?だってパジェの思考時間が俺らの体感でほぼゼロなんだもん。
俺らがコマを指したら速攻指してくる。
しかも全てのコマをマスに置く前に決着つくなんてよっぽどじゃね、こんな負け方ってあるの?
因みにイエレンさんは自分の対局も含め技能鑑定をずっと起動し続けていた為、開始早々ダウンした。
なのでこの検証作業で初めて俺の治癒魔法を受けたのはパジェじゃなくてイエレンさんだった。
うん、想定外。
しかしフロスミアを用意した俺にも責任が有るだろう、スマぬ。
その後対局をしながら四則演算に始まり、俺の記憶にかろうじて残っている微積分、イエレンさんは統計学の話(多分、だって何言ってるか全然わからなかったもの)などをパジェに質問したが、そのどれにもタイムラグなく回答してくる。
パジェ本人が言うには別に自分が考えている訳ではなくて、頭の中に湧いてくる言葉をそのまま伝えているだけ・・・みたいな事らしい。
イエレンさんの感触では今までの経緯も踏まえ、これでパジェの能力に見当が付いたみたい。
曰く、恐らく古代の遺産、当時のインフラ含むほぼ全ての制御を統括している中央処理装置へのアクセス能力ではないかとの事。
何なら軍事関連施設にも繋がっているかもしれない。
この中央処理装置が管轄していたであろう太古の国家の領地に限定してみたいだが、前世の近代通信網を連想させるインフラを掌握できる様だ。
勿論人工衛星(便宜上こう呼ぶ)に関して言えば管轄している区域を飛び越えて映像情報を取得できる。
ただし俺のスクリーンショットの様に第三者へ分かる様に出力する術が無いし、通信網の端末に相当するスマートフォンやパソコンなどのインタフェースが有る訳でもないので全てパジェからの口頭での説明、やり取りのみになってしまう。
「それでもかなりの能力ですよ。
古代の遺産頼みという事では有りますが、少なくとも現在の我々では再現できない力を限定的にでも手に入れた事になる」
となると、今度は遺跡とか古代の遺産の”可能性”が有る物の保護を陛下に上申しないと。
意識せずに破壊しちゃうかもしれませんし、多分ですけど古代のその国家の領地は現在の国境とは違うんでしょうから他国への働き掛けもしていかないと片手落ちになりそう。
調査の最中に下手したら越境攻撃の準備と捉えられかねない。
それに古代の遺産のどれがパジェの能力に影響している物かが判断できていないので、それこそ片っ端から保護していく必要ありそうです。
でないとパジェの能力が時を経る度に縮小して行ってしまいます。
まあ、対応年数(少なくとも1万年は経過している)はとっくに過ぎている設備なんでしょうからあまり期待して頼る事も控えた方が良いんでしょうけど。
「仰ることは分かりますが、その能力を我が国の発展に寄与してほしいと願う者は多いでしょうね・・・であれば時が来るまで秘匿すべきですね、この能力については」
優しいまなざしでパジェを見つめるイエレンさん、目に映っているその姿が自分の子供達と重なったんだろうか。
「国王陛下ならこの子の人生を取り上げる様な事はなさらないと思いますが、周りの貴族どもは分かりません。
・・・インビジブルウルフ卿なら既にお気付きでしょう?条件さえそろえばこの国の者達は『自己犠牲』に対して、特に男子は何の躊躇もせずに勤めを果たそうとします。
ですから、先日の話の通り王家に迎え入れるのが一番良いでしょう、少なくとも成人するまでは王家の直接の庇護下に入るべきですね」
俺とイエレンさんが話しているうちに侍女のモーンさんとの対局も終わった様で「次は誰?!」と俺たちを見てくるパジェ。
よし、フロスミアは一旦コレでお終いにしておやつにしよう。
今日はロールケーキを作って来たんだ。
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検証が終わり今日もイエレンさんと一緒にソフィー様の下へ向かう。
ポムもパジェに付き合ったからか少し疲れた様に俺についてくる。
あの後のロールケーキは大変好評で、耳ざとい侍女さん達何人かがおすそ分けを待ちきれずに「お呼びになられましたか?」とか「パジェの着替えをお持ちしました」とか何だかんだ理由を付けて部屋にやってきた。
ソフィー様の分は死守しておやつタイムも、その後の検証も無事に終了。
そして丁度今ソフィー様と対面したところです。
「お待たせいたしました、ロールケーキで御座います」
速攻皿に盛り付け献上する俺。
「あら、有難う。
あれ以降なかなか私へパウンドケーキが届かなくて忘れられてたのかと心配してたところよ」
はい、忘れていた訳では御座いませぬ。
今まで守り切れなかったので御座いまする。
「あら、そう。
では早速戴きます(ムグムグ)・・・まあ、これはこれは」と一口食べた後にお付きの侍女さんへ「今日のお茶は姫様から頂戴したものを入れて」と指示、何やら侍女さん達も慌ただしく動き出す。
「ごめんなさいね、いつものと入れる温度も茶器も別なものだから準備をしていなくてね」
そのお茶と一緒にロールケーキを食べたいのだろうが待ちきれない様でそわそわしているソフィー様。
それまでナッツ棒食べます?
こんなところにも気が利く俺、超紳士。
そしておもむろにカバンから取り出すナッツ棒。
すぐさまソフィー様は手を伸ばすが「ハッ!」となって手を引っ込めた。
「このロールケーキの後に頂きます」
ひっこめた手にはしっかりナッツ棒が握られていた。
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