第286話 決着の選択肢

「それで、まだ質問には答えてもらってないんだけど」

話しを戻してパルトさんが聞いてきます。


さてどう話したものかと考えをまとめている俺、クルトンです。



取りあえず俺の考えを伝える。


単純に今まで治癒魔法協会と競合する組織が無かったのがおかしかったんですよ。

これじゃあ現状に甘んじてより良い組織に進歩していく必要性も感じない、『余計な労力とコストが掛かるんだから』そう言った人たちも出てくるでしょう。


そうなると悲しい事に要らん事し出す輩が出てくるんですよ。

声だけデカい暇な奴らが。



競合相手が発足する前に、

そんな奴らが力を持ってしまったが為に、

『暇な奴ら』が色んな妨害工作をして諸々の計画を潰してきたんじゃないですか?

知らんけど。


「本気でそう思ってるのかい?良くそんな妄想ができるね(笑)」


そんな事は今までなかったと?

逆に問いかけます。


「向こうに居た時の私はそんな内情知るほど偉くなかったから知らないけどね、いつの間にかいなくなってた治癒魔法師は居たよ。その時は珍しくも無かったから気にもしてなかったけどね」


さっきのは俺の妄想としても、実際市民の皆さんには選択肢が増えるのは良い事じゃないですか。


料金なのか、治癒魔法の質なのか、設備なのか、それこそスタッフの愛想が良いとか・・・競争する事で組織の成長が促されて業界が活性化すると思うんです。


現状で言えば同じ宝飾ギルド所属の工房同士でもライバル関係にありますし、それでも状況によっては手を取り合って一つの目標に挑みます。

他のギルドも同じですよ。


悪質だったり、あまりにも運営の見通しが甘い場合でない限り業界への新規参入は歓迎すべきことだと思うんですけどねぇ。


「さっきも言ったけど治癒魔法師は貴族より貴重なのさ。そんなところは二つもいらんだろう?」


何だか意図的に治癒魔法協会を擁護する事言ってません?

もしかして俺を煽ってますか、怒らせて本音引き出そうとかそんな感じで。


「おや?年の割には枯れた考え方するねぇ。

でもそれくらいじゃないとあいつらとは渡り合えないさ、言い訳については良く頭が回る連中だから」

何がおかしいのかニコニコしながら俺に話してきます。


そうでしょうね、でも問題ありません。

さっきはああ言いましたけど力で決着付ける方法は選択肢から除外していませんから。


なんだかんだ言ってすべての問題が話し合いで決着がつくのなら、とっくの昔に争い事なんて世界から無くなってますよ。


「はは、違いない。

で、唾が付いていない治癒魔法師の紹介だったね、正直王都で私が紹介出来る人は居ないよ。

そんなのは私よりよっぽど耄碌している奴らしかいないさ」


おう、そうですか。

やっぱり本部のお膝元だと難しいか。


腕を組んで「うーん」と唸っていると、またニコニコしながらパルトさんが俺に話しかけてくる。



「あんた、いつもはコルネンに居るんだろう?

そこなら何人か紹介できると思うよ」


え、本当ですか?!

それも「何人も」ってそんなに?

治癒魔法師って希少なんですよね、そんなにいるんですか。


「王都じゃ私らみたいな鼻つまみ者は生きづらいからね、その点貿易都市だと人の出入りが多いからよそ者でも警戒され難いのさ。

治癒魔法師だって事は隠して別の仕事をしてるから、その辺には気を使ってやってくれよ」



「ちょっと待ってな、名前書いてやるから」そう言ってカウンター状のテーブルの下に潜り筆記用具と紙を取り出す。


スラスラと合計で4名の名前を書き、その紙を俺に渡してくる。

「名前だけだけど年配の治癒魔法師が見たら感づかれるかもしれないから取扱いは注意しておくれ。

あと、名前を変えてるかもしれないし、コルネンに居るとは言ったが住所までは分からない。

4人ともコルネンでの仕事が落ち着いた時に挨拶の手紙が来たっきりだからね」



「皆20年以上は前の話さ、亡くなってても勘弁してくれよ」

20年以上前にもかかわらず4人の名前がこうも簡単に記憶から出てくるって事はそれなりに親しく、大事な人たちだったんだろう。


ポツリと言って肩をすくめ、俺から視線を外して眺める窓の先は俺が帰る場所、コルネンの有る方向だった。



更に次の日からパジェの技能検証、治癒魔法協会への諜報活動で使用しているムカデ型ゴーレムの性能アップの為の改修作業、カブトガニ型ゴーレムの技術資料のまとめ、騎乗動物の繁殖設備の視察等々、残務処理の仕事を熟す一方、今の内にと引継ぎの為の資料をまとめていく。


この中でも特にカブトガニ型ゴーレムについては宰相閣下からの指示で、俺の試作をもとに鍛冶ギルド、宝飾ギルド、木工ギルドで量産に移行する為の事業を立ち上げたそうだ。


当然補助具としての腕輪の件も有って大忙しだから、他の地方都市のギルドにも手伝ってもらえるように根回しをしている最中らしい。


ぜひ将来物流の中核を担う事業に発展していってほしい。

仕方ないとはいえ(全く無くなる事は無いだろうが)馬やロバを飼育、卸す業者さんには打撃になるのだろうな。

でも、それならばこちらのゴーレム事業に業種替えしてもらっても良いんじゃないかと思ってる。

失業など出来るだけ影響を小さく抑えながら、劇的な変化が起こらない様に徐々にでよいので。


プライドとか有るかもしれないけど近代化して行くうえではどうしてもこういった問題は避けては通れないし。





さて、明日はパジェの技能検証最終日。

今回はちょっと豪華にロールケーキでも作って行こう、日持ちはしないがさっぱりしつつも濃厚なクリームを俺も堪能したい。


そう思い立つと俺はポムと一緒に王都の商店街に買い出しに出かけて行った。

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