第285話 根回し

俺の仮説について真剣に議論してくれる事は有難い。

痛いヤツと思われずに済んで正直ホッとしている俺、クルトンです。



「では今後の検証作業は今話した仮説の裏取り、証明に注力するようにしましょう。

クルトン、貴方はもう直ぐ王都を離れるのでしょう、大変かと思いますがこの件には最後まで付き合って頂戴ね」


「限定的な機能の確認しかできないでしょうからさほど時間もかからないでしょう。

改めてご協力お願いします」


ソフィー様、イエレンさんからそう言われ承諾する。

ついでにパジェと遊んだ時の事で気になった事を報告します。



多分古代人の遺産に演算装置が有りますね。

パジェはそれにもアクセスできる様な仕草をしてましたから土木関連の設計なんかにはかなり力を発揮すると思いますよ。




「演算装置ですか?」

ソフィー様がピンときていない顔で俺に聞いてきます。


簡単に言えば計算する装置です。

そうですね・・・過去のデーター、パジェが気象に絡む情報を収集できればそれをもとに暫く先の天気も予測できるかもしれませんよ。


天気予報だね。


「本当ですか?そんな事が可能なのですか」


今だって”西の空が暗いとじきに雨が降る”とか予測してるじゃないですか。

素となる情報を広い地域から大量に集め、解析、過去のデータと突き合わせて予測の精度を上げていく。

その日だけをピンポイントで見れば外れる時も有るでしょうが、ある程度の期間で見れば日照時間も降水量も予測に近い結果になると思いますよ。


なんたって世界の理を操るまでに進歩した古代人の遺産を使用しての天気予報になるんだ。

もしかしたらわざわざそんな事をしなくても、専用の機能が既に有るかもしれない。


そんな生活に直結する使い方であれば、パジェも窮屈な生活を強いられることなく自由に能力を発揮しながら過ごせるかもしれない。


「仰られる様な精度で天気が予測できるのであれば、もうそれは軍事技術ですね」

イエレンさんがボソリと呟く。


そうかぁ、そうなっちゃうかー。

ままならないものだ。



次の日、プサニー伯爵様へお願いしていた紹介状を持参しある人の所へ向かっている。


王都でも少し寂れた雰囲気のある所、居酒屋魔の巣にほど近い一見ただの民家に見える建物。


一応ドアに小さな看板に相当する板はかけてあり、ここが診療所である事が分かる。


”コンコン、コンコン”

「こんにちはー」


そう中に声を掛けると、

「空いてるよ、入って来な」

中から女性の声で返事が有った。


では失礼して。

・・・ノブが無い、どうした事だ?って引き戸かよ。


何だか懐かしい感覚を覚え中に足を踏み入れる。



「おや?久しぶりだねぇ。魔獣殺しの英雄が何の用だい、あまりいい話じゃなさそうだけど」

そう言う割にはニヤニヤしながら俺に話しかける。

カウンターから出てきて俺に近づいてくると横にいるポムをモフりだした。


この人は、腕輪の検証作業時にクラスナさんのお付きだった産婆さんだ。


名前はパルトさん。

お歳は聞いていないが日本人の感覚でぱっと見で50代、なのでこの世界で言えばおそらく実年齢は70前後だろう。


この方は産婆さんだが治癒魔法師でもある。

実力そのものは十分だったことも有り、プサニー伯爵妻であるクラスナさんの産婆さんへ抜擢された。


元々治癒魔法協会に入会していたが肌に合わず脱会、その後個人で開業した気骨のある方で、ここ王都内の事情を考えるとかなり特殊な人なんだよな。



カウンター越しの椅子を勧められ、そこに座るとプサニー伯爵様からの紹介状を渡し、早速本題を話す。


何故かポムはパルトさんの横で丸くなっている。

うん、そこの方が寝心地良いんだな。



「治癒魔法協会から除外されていると言いますか、不遇な対応を受けている治癒魔法師を紹介してもらえませんでしょうか」


眉がピクリと上がり「理由を言いな」と続きを促される。



昔の事は知りませんが最近・・・自体治癒魔法協会の存在を知ってからさほど経っていないのですけど・・・この組織の存在意義が揺らいでいませんか?

外から見ていると何だか本業そっちのけで政局ごっこをしているというか。


いや、本業は現場の方達がしっかりやってると思うのですよ、上層部が変なメンツで各所に喧嘩売ってませんかね。


俺が懇意にしてもらっている貴族様達も表立って批判はしませんけど、なんだか歯切れの悪い言い方する事が多くて。


「まあねぇ・・・貴族より治癒魔法師の方が希少だからねぇ。

上層部にも立派な人は居るけど搦手で実権の無い役職に閉じ込められてるから身動きとりにくいし」


あれ?協会の事悪く言わないんですね、意外。


「私は脱会しちまったけど仲の良い同士は未だあそこで頑張ってるんだよ。

愚痴を吐き出しに今でも良くここに訪ねてきてくれる、暇な私にゃ有難い事さ」


なるほど、いい仲間に恵まれたんでしょう。

でも、それでもあそこと袂を分かつ理由が有ったんでしょう、今は聞きませんけど。



話しを戻します。

端的に言ってこのまま治癒魔法協会の自浄作用を期待しても現状に変化は訪れず、遠くない将来に組織そのものが修復不可能なくらい末期的な状況になると思うんです。


「・・・」


なので彼たち自ら害悪となる”原因”を排除してもらう為に、俺が新たな治癒魔法師の団体を立ち上げようと思いまして。


それで治癒魔法師を探していると、そう言う事です。


「なんであんたが新しい団体を立ち上げると協会の連中が”害悪”を排除するんだい?

その辺が分からないんだけど」


”害悪”って言っちゃってる、まあいい。

俺が力で協会を解散させたり、乗っ取ったりして”原因”排除しても後々面倒なんですよ。


「まるでそれができる様な言い方だね・・・そうさね、出来るんだろうね」

目を伏せて諦めた様な仕草でそう言います。


まあ、とりあえず人員を確保して国の補助金に頼らなくても良い様な組織を目指すつもりです。

収益化するのは色々と障害有るでしょうけど、お金の問題なら最終的に国に泣きつきますから。


「本当に『自由騎士』ってのは羨ましいねぇ、好きな事が出来て(笑)」


どうせならその称号、最大限利用しますよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る