第284話 身に潜む脅威
あれからテヒニカさん達にザックリした今後の予定を伝え、コルネンに向かう準備を進めて貰う様に話をしました。
今回の王都滞在も終盤になり色々な仕事の成果を総括する必要が有るなとふと思い立つ俺、クルトンです。
補助具としての腕輪の件も確認し、量産に移行する為に作業者への教育もほぼ完了し、製造施設の増設も決定したとの事。
都度行うアップデート、その為の付与術式の改良専門部門の立ち上げも何とか間に合ったらしい。
しかし付与術師良く集まったな。
ここで誤解しないでほしいのは根本的にこの国の付与術式の専門家は俺よりも優秀である事だ。
俺のアドバンテージは前世のゲームを含むアニメ、小説など人の空想をコンテンツ化したその情報をある程度記憶として持っていた事、それだけだ。
アイディアとして一旦付与術式に具現化すると付与術師はより効率的に、使用方法や付与する商品に最適化した形態へと改良してくれる。
しかも効果の目的がしっかりしていれば時間もさほどかけずに改良するし、なんなら刻む付与術式その物のデザインが芸術的なセンスを感じる位にその腕前は見事なもので、こればっかりは経験と才能が物を言う仕事。
スキル任せの俺とは明らかに一線を画すものだ。
「こればっかり何年もしていますからね、当たり前ですよ」そう言って今回腕輪の仕事に携わる付与術師は大体が30歳代。
これから脂がのってくる職人さん達、とても頼もしい。
この準備が粛々と進むと、以前話題に出ていたチェルナー姫様初の外交、ベルニイス国への腕輪親善大使の計画も本格化してきた。
なので移動で使う俺謹製馬車を引く為のスレイプニル捕獲の必要性も増してゆき、次に優先される俺の仕事は騎乗動物捕獲になる・・・だろう。
ゴーレムでも良いのかもしれないがまだ信頼性と言う意味で懸念が払拭できていない、国外で運用する事にもなるので技術の漏洩も心配だし。
捕獲作業は対価も十分に受け取っているので(俺の法人の口座に振り込まれるので金額は良く見ていない)文句は無い。
ただ一番の懸念であり困難だった対象の索敵作業が、マップの能力が解放された事により難易度が格段に下がった事でかなりイージーモードになっている。
調教できるかは別問題だけども計画も立てずにただ捕獲して行けば野生の個体数に大きく影響を与えてしまうだろう。
狂ってしまった生態系を元に戻すのは時間も労力も憂鬱になるくらいかかるし、何より一度手を入れてしまい、コントロールを試みた自然は人が管理しない限り確実に人類へ牙をむく。
俺の経験ではないが前世でもその事は常識の様に言われていた、この世界でもおそらく当てはまるだろうし。
故に繁殖事業は急ピッチで進める必要が有る、貴重な騎乗動物の飼育方法の研究、実務のノウハウの蓄積は早い方が良い。
王都内を色々確認して回っていると、さて時間だ。
今日は午後からパジェの技能検証が有るから王城へ戻ろう。
・
・
・
昨日作り置きしておいたおやつのパウンドケーキとフロスミア(リバーシー)を持って後宮に伺う。
2回目以降は侍女さん用に別でケーキを用意して行ったところ、検証作業中にお世話をしてくれる侍女さんが増えた。
特にお願いしないといけない面倒事など無いから、彼女らは俺たちの脇に常に待機して量が減ったカップにわんこ蕎麦並みのスピードでお茶を注ぐマシンと化している。
お陰でお腹がカポカポです。
「ほうほう、という事はここを通ってお空に行くわけだね」
「うん、そう。お空だけじゃなくて揺れる地面に寝転がって遊んだりもするの!すんごく揺れて面白いの!」
イエレンさんの持つ技能からの鑑定結果と、今行っているパジェからの聴取内容を俺の前世の記憶と照合する。
俺の持ちうる知識からの想像でしかないが、パジェの能力は人工衛星を操る事がメインではなくてどうやらこの世界にある集中制御装置の様な設備にアクセスする能力みたい。
その証拠に上空からの俯瞰視点以外も特定の地域の地震計、温度計、気圧計の値、海の波の高さや湖の水面の変化についての情報が把握ができるし、極めつけはどこかの大陸にある古代兵器と思われる格納施設の警備、稼働情報や、その開放の為のパスワードを含むサーバー(の様な)情報媒体にアクセスする管理者権限も持っていたみたい。
試せないので聴取から想定した仮説、可能性にとどまるが・・・
「何か戦争でもあったらマジでこの子だけで終結するんじゃね?」と、その可能性に思い当たった時にはさすがの俺も生まれたばかりの子鹿の様に震えたよ。
しかも検証作業が終わって侍女さん含め皆と一緒におやつを食べながら和やかムードの中、パジェと一局フロスミアで対戦すると明らかにおかしい事に気が付く。
パジェのコマを打つ間隔が異常に短く、誰と対戦しても勝率100%なんだ。
本人は「ここにコマを置けばいいの」と頭に浮かんだとおりに指しただけの様だが「なんかの演算処理装置と思考が繋がってるんじゃねえか?」と、こちらについても俺の震えが止まらない。
なのでソフィー様の所でイエレンさんと今後の方針の件で本格的に打ち合わせを行う事にした。
・
・
・
「ふむ、貴方の提案を鵜吞みにする訳ではありませんが、その可能性を前提にパジェのこれからを考えないと・・・取り返しがつかない事になってからでは遅いですからね」
「ええ、先ほど披露して頂いたインビジブルウルフ卿の仮説は最悪の事態を想定してですが、万が一にでもそれが現実になれば世界がもう一度崩壊する可能性を否定できません」
・・・よく俺の突飛な仮説を真剣に議論できるな。
正直一蹴されて終わってもおかしくないと思っていたのだけれども。
「宰相閣下から聞いていますよ。
まだあなたに伝えていない王家の秘密を知れば私たちの態度も納得できると思いますがね」
イエレンさんは?
「これでも私は学者、研究者です。
無視しても良いと思える可能性の話でも、無視できるその根拠が示されなければ選択肢から外しません」
「とにかくパジェの能力は古代人の遺産が世界にまだ残っている以上、規格外で大変危険です。
パジェ自身は脆弱な子供ですがもたらす力の効果は・・・クルトン、貴方の揮う力とは規模が違いすぎるのでしょう?」
質もですね。
一瞬のうちに天文学的な火力が解き放たれるかもしれません。
何度も言いますけど試す事が出来ないので仮説の域を出ませんが。
「どうしましょうか・・・王家に迎え入れ相応の教育を施すのが最良でしょうかねぇ?」
「それが最善かと思います」
そう相槌を打つイエレンさん。
しかし、ご両親の事も配慮しないと。
パジェはまだ小さい子供です、これからの常識的な人格形成の為にも彼らの処遇はセットで検討しないと問題になりますよ、きっと。
パジェの成長、その反抗期に『ポチッとな』とかされたら国一つくらい消滅するかもしれませんから。
「改めて考えると笑うしかない位に恐ろしいわね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます