第283話 異界の旅人

何だか思いもよらぬ方向に話が進み、一周回ってだんだん面倒くさくなってきた俺、クルトンです。



来訪者は我々新人類に世界を託し、既に去って行った人達だ。

今後どうなろうとも更に彼らに頼るなんてことは無理な話し、当然そんな事は皆も分かっている。

だからこそ自分達の力だけで1万年余りの年月国を維持してきたんだから。




だからもう『来訪者』の事はお伽話のレベルで良いと思うんですよ。

実際の所一般人はその感覚でいるし。


一旦俺が話を区切ります。



「まあ良いだろう。この件は時に任せよう」

未だ半笑いの宰相閣下も話を区切ったので別の件を切り出す。




実はですね、こんなのを手に入れまして。

バッグからゴソゴソと布に包んだ黒い石を取り出すとテーブルに置き布を広げる。


宰相閣下はその黒い石を見ると「石?お前が付与でも彫ったのか」と言いながら持ち上げしげしげと眺めています。



実はですね・・・。

宰相閣下から石を返してもらい、取り出したナイフで表面を薄く”カリカリ”と削ると以前の通りフワッと舞う削りカスがテーブルに落ちる前に霧散していった。



「何だ、コレがどうかしたのか?」

俺の技能で確認したところ魔力の結晶の様です。


「そうか、魔力の・・・魔力!!」

テーブルに手を打ち付けるのと同時に腰を浮かせ、結構な音量で言葉を発する宰相様。


ナイフに顔が近付いて危ないですよ。


「しかし、しかしだな・・・本当なのか?」

間違いないとは思いますが確認してもらった方が良いでしょうね。

置いて行きますから後で専門家に検証してもらってください。



「ああ、そうしよう。それでだ、これが間違いなく魔力の結晶だったとしてどうやって手に入れたのだ?

鉱脈の様なものを見つけたのか?」


落ちてきました。


「ん?」

多分ですけどこの前ソフィー様たちに報告した翼竜が持ってきて落としてきたようです。


先日郊外に行った時の出来事を報告する。

いつの間にか俺の真上、肉眼で見える位まで高度を下げて飛んでいた翼竜が落としていった物だって事を。



「翼竜の習性なんぞ何もわかっておらんからな、この時点でその意味を考えるのも難しいか」


そうですね、なんで落としてきたのかそもそも分からないですし。

彼らの巣の近くにはそれなりに有る石なんでしょうかねぇ。


それとも何か大事な物なのでしょうか、それなら幼竜を助けたお礼って事で持ってきたのかもしれない。


「何の役に立つかは分からんが、まあなんだ、暫く預からせてもらって良いか?

学者連中なら飛びつきそうな研究対象・・・だと思うんだが」


俺もそう思います。

研究を進めて有効な利用方法が見つかれば、将来何かの役に立つかもしれませんし。


基礎研究じゃないけど役に立つ立たないの判断は、その時代毎に意見が分かれる場合も良くある事、後の研究者や技術者に任せよう。




一通り報告も終り「忘れた頃に母上から呼び出されるかもしれん、覚悟だけしておいてくれよ」と最後に一言告げられて執務室を後にする。


お昼を食べたら今日は商隊の予定を聞きに行くつもりだ。

テホア達家族の都合もあるからコルネンに戻る為の予定を立てる為に。



やって来ましたポックリさんのお店。

「おう、今日は何の用だい?」


丁度居たポックリさんに対応してもらいます。


事情を説明し「1か月以内にコルネンに向かう商隊を紹介してもらいたいのです」と告げると「ん、ちょっと待ってろ」


そう言って店の奥に入っていく。


そして紙を紐で縛った台帳の様な帳面を持ってきて俺の前で広げながら確認し始めました。


「・・・」


悩んでいらっしゃる。

もしかして都合良い予定は有りませんか?


「交易都市だけあって今までも結構便はあったが最近ではさらに増えた。

それこそ大小合わせれば毎日どこかしらの商隊がコルネンに出発してる。

悩んでいるのはお前を帯同させるに値する商隊が有るかって事でな」


そんな、何処でも良いですよ。

護衛も熟せるし食事なんかも自前で準備しますし、ご存じでしょうけど『結界の魔法』で夜も安全に過ごせますし。


「だからこそ重要な商隊に帯同してもらった方が良いだろう?

実は3隊程あってな、どれを紹介すればいいか・・・」


ほう、そうなんですね。

実際どこでも良いんですけど。


「そうか?ならそうだなぁ・・・この商隊に紹介しようか。

ここは塩や香辛料の調味料、あとは乾物、油なんかの食材を輸送する商隊だ。

今回はいつもの倍くらいの規模になるらしくてな、護衛も募集していたしお前の氷の魔法とも相性いいだろう」


おお、そうですね。

俺もその食材に興味が有ります。

食材業者の伝手ができるようならこちらとしても有りがたい事ですし。



「なら決まりだな、向こうさんには明後日までに伝えてくるから準備頼むよ。

出発日は追って連絡するけど早くても20日後の予定だ」


了解です。

こっちの始末も綺麗にしておきますよ。



あと、いつものお土産をお願いしますね。


「分かってるよ(笑)、今回も最高の物を用意するから安心しな。

渡すのは出発の前日で良いか?」

はい、それでお願いします。



よし、一応20日間程期間があればパジェの技能検証も粗方目途が付くだろう。

後は治癒魔法協会への最後の挨拶、これも済ませる必要あるが問題ないだろう。


忘れている事無いかな?

元老院、宰相閣下には帰還の予定を伝えておいて・・・なんか色々気になった事は有ったけど俺がコントロールできることは少ない、だから今はどうしようもない。


取りあえずできる所から済ませていこう。

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