インビジブルウルフ(見えない狼)と呼ばれて～ゲームスキルはやっぱりチート～

第99話 最初が肝心

陛下からの新しい仕事の依頼、王笏の製作。

とは言っても陛下のおもちゃという事なので緊張の欠片もない俺、クルトンです。

通常なら王笏の製作を任されるなんて一世一代の大仕事なんだろうが、先に言った通り完全に国王陛下のおもちゃなので全然気楽なもの。

おもちゃとは言え今のところ魔法を放出する為にはオリハルコンが必要になる。

はて？改めて伺うがおもちゃの為に使用許可取れるのか。

「王笏じゃぞ？むしろそれくらい格の有る素材使わんといかんじゃろう」

まあ、本来ならそうでしょうね、否定はしません。

なら早速仕様を決めましょう。

どんなのがご希望でしょうか、デザイン含めて出来るだけ詳しく決めた方がその後の仕事がスムーズに進みますから。

「そうじゃのう・・・やはり威厳のあるカッコいいのが良いのう。過度に敬われるのは性に合わんが最近皆が儂をぞんざいに扱いすぎだと思うのだよ。だから威厳タップリな王笏が良いのう」

中二病全開で魔法付与は落雷(実績有るので検証の時間省ける)、意匠は陛下の紋章に有るグリフォンにしましょうか。

「分かっておるのう！・・・しかしもう少しひねった・・・こう皆をアッと言わせるものがもう一つ欲しいのう」

そう言ってチラチラ此方を見る陛下。

うーん、そう言われましても・・・アスキアさんはどう思います？

執務室に入ってからは完全に空気になってたアスキアさんに話を振る。

「え、私に聞くんですか？いきなり言われましても見当もつきません・・・まあ、そうですね・・・

いつもは見えない状態でもしもの時に呪文を唱えて手の中にパッと現れるなんてのはカッコいいですねぇ」

「おおう！分かっておるのう」

二人で「うんうん」とか言ってる、無理ですね、そんな空間を操る様な魔法なんて・・・いや、オリハルコンにべらぼうな魔力充填出来ればいけるか？

原理は研究されて消費魔力量の計算もされてたよな、確か時空魔法だったか。

・・・いや、ダメだ。

仮に出来たとしてもおもちゃの域を完全に超えてしまう。そんなの造るくらいならもっと有益な事に使うべきだ。

時空魔法に必要とされる魔力量は天文学的な数値だったはず。

ならばこの世界の魔素、魔力と言われているエネルギーが無限である確証も無い今は控えるべきだろう、どういった影響が出るか誰にも分からないのだから。

他には何か案は無いですか？

ここでロルシェさんが手を上げました。

「オリハルコンの使用許可、皆から第二の王笏製作の理解を得るにはもっと有益な魔法付与を施した方が良いと思います。それこそクルトン殿は治癒魔法もお得意だとか、ええ、レイニー卿から聞いております。その治癒魔法を付与しそれを陛下が振るえば、重い病や瀕死の者を陛下の振るう王笏で颯爽と救えばそれはそれは『カッコいい』のでは？」

「陛下の威厳も爆上がりですよ」と、たたみかけるロルシェ嬢。

「ロルシェ・・・」

陛下が静かに声を発します、ちょっとこの場の緊張感が仕事を始めました。

「おぬし天才か・・・」

同感です、陛下。

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では使用を復唱します。

王笏の材質はオリハルコン、

意匠はグリフォン、

魔法付与は落雷に治癒全般。

以上でよろしいですね？

「「「異議なし！」」」

陛下の他にノリでアスキアさんとロルシェ嬢も声を上げます。

では、これで仕様決定会議を終了します。

デザインは素案ができたら王都に送りますのでその際検討ください。

「うむ、分かった。頼むぞ」

承知いたしました。

あ、後日でいいので見積もりの依頼書をカサンドラ宝飾工房へ送ってください。

デザイン決まったら見積もり送りますので内容了承いただけたら注文書を発行いただくという手順でお願いします。

「楽しみにしておる。くれぐれも費用に見合う範囲内で存分に力をふるってくれ」

承知いたしました。

今回は腕時計より圧倒的に部品点数も少ないですし、材料も支給頂くので陛下が思っているほど費用は掛からないと思いますよ。

「まあそれは見積もりを見てからじゃの」

これで王都の仕事は終わりかな？

もう２、３日ゆっくりしたらコルネンへ帰ろう。

何気に野豚のハムも補充したいし。

宿に帰る前にお世話になった人たちに挨拶に回る。

ムーシカに乗って狼達と一緒に。

宰相閣下なんかは陛下より忙しそうだったので執務室前で合った秘書の方へお世話になった旨の伝言をお願いした。

フンボルト将軍は今日も修練場にいて相変わらず若手と乱取り稽古三昧、元気で何より。

レイニーさんにアウレイトさん、その他顔なじみの騎士さん達にも挨拶。

「今度は俺のヒーターシールドも作ってくれよ」とレイニーさんから未来の注文(笑)も受けた。

有難い、先の仕事が有るのは安心する。

あ、そうだレイニーさんには年頃の娘さんがいらっしゃるのですよね？

「ん、ああ、嫁に貰う決心がついたか？」

ご冗談を、レイニーさんには大変ご迷惑をお掛けしましたのでお詫びにこれを受け取って頂きたく。

カバンをゴソゴソして乳白色の布に包まれた物を差し出す。

それを受け取り中身を確認するレイニーさん。

布の上には淡いピンク色の宝石が有る。

「これ、高いんじゃないか？かなりデカいぞこの宝石」

ええ、それなりのお値段になりますがレイニーさんのお命とつり合うものではありません。

お詫びとして受け取ってください。お嬢様はきっと喜ぶと思いますよ。

「そうだな、あいつは綺麗な物が大好きだからな。ありがとう、娘への贈り物にさせてもらうよ」

いえいえ、どういたしまして。

・・・(･ω･)bミッション成功

そして

宝飾ギルド本部長のシズネルさんにサリス女史、

商業ギルドのポックリさんにプリセイラ皮革工房のセイラさん、

無事大きな事業が終わった事へのお礼と挨拶をして回った。

『インビジブルウルフ』の称号は王都で広く認知されているが俺の名、『クルトン』を知る者はほんの一握り。

『インビジブルウルフ』と『クルトン』が同一人物であることを知っている者はさらに少なくなるだろう。

今回挨拶して回った人たちは俺の気持ちを慮って聞かれなければその事を喧伝しないでいてくれる人たちだ。

いつまでもこの位の認知度でいてくれれば俺もありがたい。

身動きもし易いし、宝飾の仕事も探し易いだろう。

なんだかんだで良いところだったな、王都は。