第101話 残務処理

「陛下には事情説明してるそうですが、俺の宝石を市中に流通させる危険性を認識しておいでですか?」

分かったような顔ぶりで、しかもシリアス顔でニココラさんに問いかける俺、クルトンです。



乾いた口を濡らす為だろう、カップを持ち上げた時にそう聞いた俺の言葉にビクッとして少しお茶がこぼれる。

「ええ、十分承知しております。それにつきましては国王陛下からは流通量は任せるとも言われております。

つまり私は陛下から試されているのです・・・歴史に刻まれる私の名がどうなるか」


陛下がそう言ったのなら問題ないのかな、正直俺に人を見極める能力なんて無い。

取り合えず陛下が任せると言ったなら疑う理由も無い。


分かりました、時間を見てになりますが販売をお任せしようと思います。


「あ、有難う御座います。

はあ、正直お返事いただくまでに半年はかかると覚悟しておりました、それでも断られるものかと、はあ・・・」

全身の筋肉が弛緩しているさまが分かる位ぐったりしているニココラさん。


「臆病者の私にまだこれほどの勇気が残っていたのは自分でも驚きです、ははは」

とりあえず細かい話は後日で、コルネンのカサンドラ宝飾工房を拠点にしておりますので連絡いただければ。


「承知しました。はあ、1か月以内にこちらからの希望をお伝えいたします。確認の後にお受けいただけるかご返事願います」

はい、ではこれからも宜しくお願い致します。


腰を浮かせお暇しようとするも、ふと有ることを思い出す。

これだけの大店をまとめている人ならアドバイス貰えるかもしれない。


改めてフッカフカのソファーに座り直し「ちょっと教えてほしい事が有るんですが」と話を切り出す。



「ほうほう、厩舎付きの事務所を探していると。合わせて厩務員を雇いたいと・・・フム」

どうでしょう?ニココラさんから紹介いただける伝手は無いでしょうか。


「無い事もないと思いますが・・・普通の厩舎では無理でしょうなあ。スレイプニルでしょう?今まで受け入れていた修練場の厩舎は軍馬用、荷馬車用とはそもそも大きさが違います」


あ、そうか。この世界の軍馬は前の世界で言う所の『重種』に相当する馬躰の大きさ。

スピードもそれなりに出るがどちらかと言うと高負荷に耐え、スタミナお化けの馬。

対して商隊の馬は一般的なイメージの馬で場合によってはロバより一回り大きい程度の物も有る。

修練場並みの厩舎が必要になるという事か。

そうかーどうしようかなあ。


「王都民になられたクルトン卿であれは王都に土地を所有されているのではありませんか?どうせならそこに新たに建設された方がよろしいかと

今、自由にできる資産が如何ほどかは存じ上げませんが、心もとないようであれば宝石を卸して頂けるという『約束』を担保に私共が融資致しますよ」


え、良いんですか?

あ、いえ、大変ありがたいのですが、そうですね一度その『俺の土地』が本当に有るのか確認してから改めて相談させてください。

あと、支払い済ませて幾ら残るかも口座確認したいですし。


「ええ、構いません。一段落しましたらぜひお声がけください」

ニッコリ笑うニココラさん。

カイゼル髭もそよ風に吹かれたように揺蕩っている。



ではまたできるだけ早めに伺える様努力しますので。

その際は宜しくお願い致します。


話しが終わったと分かったのだろう、狼達が立ち上がり店の前の馬車まで俺を先導した。

完全に人の言葉理解してんじゃねえか?





翌日また王城の広報部アスキアさんにアポを取る。

「はい、一昨日ぶりですね(笑)」

いや、お恥ずかしい、実は斯く斯く云々と言う訳で厩舎付きの事務所建設の手続きの為に王都民になった俺の土地ってあるのかな・・・と確認したくて。


「え、土地について誰からも何もお話が無かったのですか!」

ええ、自分も良く分かっておらず、昨日たまたま商談の際にその話になりましてですね・・・。


「少々お待ちください、ちょっとまずいですよコレは・・・」

なんか事務所内がにわかにザワザワしだした。


(魔獣殺しの英雄になんてことを・・・ザワザワ)

(王都民の戸籍管理は元老院だろう?何やってんだあいつらは・・・ザワザワ)

(陛下のメンツを潰すつもりでワザとじゃないか・・・ザワザワ)

(だから実務の重要性を理解出来ないジジイ共に権力持たせるなとあれ程・・・ザワザワ)


聞こえる、ギリギリ聞こえる音量でワザとこっそり話してるふりをしている。

なんかお腹がちょっとキュっとしてきた、面倒事になる未来しか見えない。


もう土地の賃借料払うから面倒事は勘弁してほしい。


((((奴らにインビジブルウルフの爪が振るわれるぞ))))

なんか俺に厄介払いさせようとしてないか?ここの人達。

そんな好戦的じゃないからね?俺。



暫くするとアスキアさんと一緒にソフィー様もやってきた。

女公爵様が来たって事は・・・遠い目になる俺。


「クルトン卿、ちょっと一緒に来ていただけるかしら?」

はい・・・どちらまで?

「あのポンコツ共の所まで(ニッコリ)。

インビジブルウルフがいればめったな事も出来ないでしょう。何なら間違いが有っても宜しくてよ」

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