第295話 来訪者の亡霊
はい、ハウジングで治癒魔法協会建屋をすっぽり包み込んでおります。
人を含めた全ての物質が紐づけされ俺の支配下にはいりました。
念の為隣接している診療所も一緒に。
準備が整い悪い笑みを浮かべている俺、クルトンです。
受付嬢のお孫さんは”キョトン”としていますが「何が起こっても問題ありませんから安心してください」と伝えます。
改めてこの建屋は凄まじい、幾ら資金をつぎ込んだんだろう。
ここまでする必要有ったのかな、もう少し生きたお金の使い方も有ったと思うんだけど。
ただ積み上げただけに見える床、壁の石材はおそらく土魔法師や付与術師達が腕を振るったんだろう、かなり強固に接合していてまるで鉄筋コンクリートの様で、更にビッシリ彫り込んだ付与魔法で室内の気温が季節ごとに快適な温度に調整される様になっている。
そして壁を通過する指向性を持つ魔力(魔法も)は拡散、霧散する様になっていて効果だけで言えばディスペルに近い付与が施されている。
マジ幾らかかったんだよ。
正直とても参考になるので情報をコピーしてスキル群に記憶させる。
何でもできる様に勘違いしそうになるが俺のスキルの素はゲームの仕様に準じているから、こういった生活に密着した使い方の術式や技法などは後追いで学習していく必要が有るんだ。
「?」
受付嬢のお孫さんがまだキョトンとしたまま俺を見ている。
さて準備は完了した、そろそろ動き出す。
”ブン”
ほんの一瞬、瞬きにも満たない僅かな時間だが建物全体が細かく揺れ鼓膜より先に脳へ音が到達する。
「なんだ?」
敏感な人が何人かこの現象に違和感を盛った様でキョロキョロしているが実際の変化に気付く人はまだいない。
まずはここまでとして、気付く人が出るまで俺はそこの椅子にでも座って待たせてもらおう。
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俺の体重をかろうじて支えてくれている椅子を心配しながら、受付から見えるフロア内の様子を眺めていると次第に外が騒がしくなる。
それに気付き窓の外を見た人が声を上げだすと、ほとんど時間を置かず建屋内でも叫び声ににた悲鳴が上がり段々パニックに発展していった。
「キャー!」
「ヘアァーー!」
「た、たすけてくれぇぇ・・・」
「来訪者様、なにとぞ・・・なにとぞ」
何だか死を覚悟した人まで出てきたみたい。
やりすぎたか?
でもこの世界の人達ならこの高さから飛び降りたところでちょっとした怪我程度で済むから構わないだろう、しかもここには治癒魔法使える人いっぱいいるし。
そもそも無防備に飛び出すような事がない様に、今は扉も窓も開かない様に俺がロックしているからな!
「インビジブルウルフ様ぁ!飛んでますぅぅぅ!!」
ええ、そうですね( -`ω-)キリッ。
受付嬢のお孫さんも御乱心。
「『キリッ』じゃありません!安心なんてできませんよ!貴方なんでしょう?!何とかしてくださいぃぃ!!」
大丈夫ですよ。
「大丈夫じゃないですぅぅ!」
揺れている訳でも、床が傾いている訳でもないのに皆大げさだと思う。
窓の外見なければいいのに。
さてさて、じゃあちょっと奥の部屋に伺うとしよう。
ポシレマギエさんに俺の相手を押し付けた『室長』とかいう輩の所まで。
”コンコン、コンコン”
返事が無い。
”コンコン、コンコン”
慌ててここに逃げ込んだのは索敵で確認している、だから居るはずなのにな。
まったく、今日はせっかく礼儀を遵守して扉から来たって言うのに。
俺は扉のノブに手を当て、そのままゆっくり押し込むと”バキ”という音と共に鍵が壊れ、扉が静かに内側へ倒れる。
「ヘア?!」
間抜けな声を上げる室長殿。
ああ、腰を抜かしていたのか。
それでも何とかしようとジタバタしたんだろう、書類が床に散乱している。
「初めまして?ですよね。
クルトン・インビジブルウルフ騎士爵です、お見知りおきください」
今回は一人でいた『室長』に挨拶します。
初対面での印象とっても大事、だから挨拶はしっかりする。
「な、何をぬけぬけと!貴様の仕業だろう、一体どうするつもりだ!!」
「?」
小首をかしげて惚けてみる俺。
「知っておるぞ!こんな事が出来る者など『来訪者の亡霊』であるお前しかおらんだろうがぁ!!」
「こんな事?」
今度は逆方向に小首をかしげて惚ける。
”グラ、グラ、グラ”
そしてチョット揺らしてみる。
「ヒッ、なんなんだ!何がどうなってるんだ!」
おや?もう俺など目に入らないかのように錯乱なされておられる。
マジやりすぎたか。
どうやら俺の足元で腰を抜かした『室長』はアワアワ言ってるだけで、これ以上会話になりそうもない。
結構ビビりだなこの人。
ここに来るときに覗いた部屋ではポシレマギエさんがすんげえはしゃいでたんだけど、それと比べても反応がかなり残念。
でも、さっきまでチムチム歩いてたのにあの全身を使ったはしゃぎっぷり見ると、多分あの人(ポシレマギエさん)身体強化の魔法使えるよね?
それはともかく・・・まあ、こんなもんで良いか。
少なくとも俺とこの浮遊城と化した治癒魔法協会の騒動は暫く王都市民の記憶に残るだろう。
後は不特定多数の方々が噂を膨らませてくれるだろうから、この辺でお暇しよう。
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その日の出来事は大勢の市民に目撃されたが、被害は一切なかった為に衛兵が目撃者、治癒魔法協会関係者への事情聴取をするだけで終息した。
しかし地下を含めた治癒魔法協会建屋その物が高さ10m程の宙に浮き、暫くの後にまたピタリと元に戻ったこの現象はかなり衝撃的で、後に治癒魔法協会内部からの噂がもとで『来訪者の亡霊』の仕業として王都内で長く語り継がれていく。
そしてこの時治癒魔法協会内に居た人は、初めて宙に浮かんだ新人類として歴史に刻まれる事となった。
クルトンの名を除いて。
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