第294話 必要悪?
治癒魔法協会のある意味最重要人物であろうポシレマギエさん。
無害そうな外見に警戒心を絆す様な語り口調、悪い人ではないのだろうけど一応警戒しておく必要を感じている俺、クルトンです。
そんな俺を気にすることなく話は更に続きます。
「協会のあいつ等でも見当がついたんだ、お主の情報をある程度知っていれば誰でも気づく。
結構大変じゃったんじゃぞ、あいつ等が阿呆な事をしでかす前に思い止まらせるのは。
協会消滅の危機を救った儂の功績は、後世でしか評価されんのじゃろうけどものう・・・」
「生きているうちにチヤホヤされたい」とボソッと呟くも、「へー、そうなんですねー(棒)」と、ボロを出したくない俺にはこれ以上の反応のしようがない。
けど話を聞いていると俺に感覚が近い様に思える。
俺だけじゃない、ソフィー様や他の貴族たちとも。
この話を深堀されると色々勘付かれそうなので話題の方向をチョイと変える。
「あのー、お話を聞いていると外部との窓口業務の責任者をポシレマギエさんにするだけでトラブル減りそうな気がするんですけど、どうなんでしょう?そんな話は出なかったんですか」
そう、上層部の一部迷惑な奴らが外部に認知されないだけでかなり協会の印象変わると思うんだけど。
「そう思うじゃろ?
おかしなものよなあ・・・なんで奴らはあんなにも自尊心や承認欲求が強いのか。しかも働き者と来たものだ。
害悪の種をまき散らしおって、その芽が出る前に拾い続ける儂らの苦労など見えてても何とも思っとらん。
いかんな、無性に腹が立ってきた」
ああ、ポシレマギエさん他諸々の方々の努力が有っての今の状態なのか。
なら、そいつらを協会から追放したらそれだけで問題解決しそうじゃね?解職要求(リコール)とかできないの?
「そんな制度は無い。定年か辞職、事故死でもならんと無理じゃな」
難儀なものだ。
「しかし恥ずかしい事だが、歴代で・・・いつの時代もあいつ等の様な者が居たおかげで治癒魔法協会が『組織』としてここまで発展してきたという事実も有ってなぁ・・・」
「はあ~」とため息をついているポシレマギエさんの次の言葉を待ちながら脇に居るポムを撫でる。
ポムはおやつのラムチョップを食べ終わり、残った骨をガシガシしながら大人しくしているが、相変わらず野性が感じられない。
「黎明期の治癒魔法協会は治癒魔法師同士のただの寄り合い組織でな。
それまでは魔獣の襲撃も今より遥かに深刻で、引切り無しに駆り出されるもんだから碌に休みも取れず疲弊していく者が後を絶たなかったそうだ。
だから交代で休みを取る為に皆で仕事を融通し合う事を目的として作った組織・・・つまり治癒魔法師の保護が協会の一番の目的なんじゃ」
「疲弊するほど休みが無いからのう、ほれ、だから当時の治癒魔法師には跡取りの実子が殆どいなかったそうだよ。
技能は親子で、一族で引き継がれることが多いから、これだけで治癒魔法師がなぜ希少か分かるだろう?
人類が生き延びる代償として、治癒魔法師の技能を秘めた血筋が淘汰されてしまったんじゃよ。まあ、儂の親父が語ってくれた仮説じゃがの、でもあながち間違っておらんと思う」
「そうは言っても今の治癒魔法協会は、組織の在り方そのものを改革する時期に来たのやもしれん」
・・・ここでカマを掛けてみるか。
「協会の運営に影響を及ぼす為には何が必要ですか?」
治癒魔法の技量?財力?権力?それとも協会職員の信頼?
「ん?ボヤっとした質問だが、そうさな・・・”運”じゃな。
もしかして乗っ取りを考えているのか?
悪い事は言わない、お主の力でもどうなるかは分からんぞ。
機会を見誤れば何を持ってしても無駄じゃ。
儂を見れば分かるじゃろ?」
ああ、そんな身もふたもない事を。
血筋も技能も、功績も信頼も有るのに今の閑職に追いやられている自分を見て考え直せと言ってきている。
若者の可能性を無駄に潰されない様に老婆心で忠告して来てくれてるんだろうか?多分そうなんだろうな。
今までの話しの最中ずっと展開していた索敵でポシレマギエさんが『敵判定』されることは無かった事から、全てを明かしている訳ではなくとも嘘を言っていない事は確かだろう。
さて、今この時点で協会をどうこうする事は出来なさそうだが、少なくとも俺に近づくのには相応のリスクが伴う事を、その覚悟が無ければ近づいて来るなと意思表示をしなければならない。
誰にでも分かる圧倒的な力で。
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向かいの治癒魔法協会へポシレマギエさんを送り、受付のお嬢さんに引き渡す。
ポシレマギエさんは「じゃあ、またな」と言ってチムチム歩いて自分の執務室に帰っていく。
それを見送った後、受付嬢のお孫さんがお礼を言って来た。
「今日は本当に有難う御座います。お爺ちゃんも楽しかったようで良かったです」
いえいえ、こちらこそ貴重な話を伺う事が出来て大変参考になりました。
ぜひまたお話をお聞かせ願いたいです。
「ええ、きっとお爺ちゃんも喜びます。
それと・・・先日の腰への治療有難う御座いました」
ん?何のことだ。
「お爺ちゃんは王都で一番の治癒魔法師なんです。
だけど力が強力な代わりに制約もあって・・・自分には効かないんです、治癒魔法そのものが。
だからお爺ちゃんの腰を治せる人が王都にはいなくて・・・インビジブルウルフ様なのでしょう?以前治癒魔法でこの一帯を満たしてくれたのは」
ああ、俺の治癒魔法・・・スキルなんだけど・・・で治療した人の中に居たのか、全然気付かなかった。
「姿を見せずに治療を施せる方は他に居ないと言ってましたわ、お爺ちゃんが」
ははは、それでさっきの飲み代奢ってくれたのか。
気にしなくても良いんだけどな。
それじゃあ、時間も押してきている。
最後の仕事を済ませてしまおう。
「仕事、ですか?」
ええ、ここで力を披露するだけですよ。
自分達の身に直接危害が加わるかもしれない、その可能性が有る事を認識してもらう為にね。
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