第15話 無難にまとめよう(俺基準)
行商のおっちゃんが『俺、関係ないムーヴ』を醸し出しているので、面倒事の矢面に立っている俺、クルトンです。
どうしてこうなった。
まずは村に入って村長さん宅、そこで改めて事情を説明。
時系列順に客観的に。
俺の感想、私見などは後々面倒くさい事の原因にもなりかねないので注意して伝えます。
「申し訳ございませんでした。監査官をお呼びになられてもこちらに異議もありません」
と村長さん。
ここで言っている監査官は商業ギルトで商売以外のトラブル交渉、場合によっては荒事もこなす専門員で、タフなネゴシエーターであると共に人間嘘発見器である。
スキルなのか行動心理学からくる事象の解析技術なのかとにかく監査官には嘘が通じない・・・らしい。
会った事ないが恐ろしい。
監査官を呼んでも文句言わないって事は最大限の誠意を表す一種の意思表明。
この言質を取っただけで9割がた面倒事は片付いたと感じた。
行商のおっちゃん・・・カイエンさんもこれを聞いたら早々に村長さん宅前を間借りしてテント張り始めた。
カイエンさんはこの村にも寄っている行商人、家の村に来る前、往路では必ずここに寄るそうな。
復路は手紙やちょっとした配達頼まれた時だけ寄るらしい。
だから大事にはしたくなかったし、かといって無かったことにもできず俺が交渉の矢面に立ち、ギルド員の自分ではなくコルネンに急いで向かっているクルトンが時間的損害を受けたって事にしたいらしい。
無かった事にしてしまうと、商人として舐められる事もあるらしいから仕方がない。
苦しい、詭弁ですけどね。
ええ、でも分かりますよ、その方がこの子達5人にとっても良い事でしょうから。
この子供たちは皆10~12歳で背伸びしたいお年頃。
俺たちも稼いで村の、家の役に立ってやるぜ!とあんな所業に突っ走ったとか。
そこに至るキッカケは何だったのか?
ノリか?ノリでやったのか?
深い積雪時の通行や急な勾配坂が多い山間部、水場が少なく途中の休憩が困難な地域なんかは現地ポーター雇わないと厳しい街道もある様で、
そんな場合は案内人として報酬を求める事は往々にしてあるし何ら問題ではない。
むしろ商業ギルド員であれば対価を払うべき事案である。
しかし、今回はそんな特殊な事情でなければ成り立たない案内人の仕事を全く必要ないところで野盗よろしく金品を強要した事に問題がある。
子供であってもお忍び中のやんごとなきお方の馬車相手にこれをやったら首が飛びかねない。
子供ではなく父親の。
今のうちに分からせてやらないと何時か本当に命にかかわる事になりかねない。
この辺の教育はかなりうるさい。
子供に優しい世界とはいえ悪人がいないわけではないし、そんな奴らなら逆にタカってくるだろう。
この事を客観的に分かり易く子供たちに諭してやると、みるみる青ざめ皆泣き出した。
両親と抱き合って号泣している子供もいる、ってか皆そんな感じで一応被害者のはずの俺の方が落ち着かない。
まさにカオスである。
俺、悪くないよね。
そうならない様にこれから話し合うんだと皆を宥めて、ようやく俺が被った損害をどうするかに話が移る。
ぶっちゃけ賠償はどうでもいい。
だが、ここでそれを言ってはいけない、大人の事情である。
ここで無難に金銭での賠償を提案する。
子供とその両親が絶望した様な顔になる。
交易都市コルネンまで約半日と、比較的都市に近いこの村でも日常生活では殆どお金を使う事がないので十分なお金の蓄えなど無い。
カイエンさんとの取引も、減ってきたとは言えまだまだ物々交換が多いそうだ。
まあ、そんな顔にもなるか。
でも話は最後まで聞いてね。
その日は村長さんと各家庭の事情を考慮した賠償額の調整、交渉して翌日は諸々の後始末、そのまた2日後の早朝ようやくコルネン向かい馬車を進めた。
当然俺はシャドウボクシングしながらのジョギングである。
振り返るともう小さく見える村の方ではまだ手を振り続けている子供たちの姿が見えた。
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