第297話 派閥

二杯目のお茶と茶菓子をいただき、ようやく落ち着いてきた俺、クルトンです。


伯父さん達との話は始終穏やかに進んだ。


聞いたところによると第一夫人の2人の息子さん、殉職した夫の前バンペリシュカ伯爵の血を継ぐ方達は既に成人していて、長男は役人として、次男は近衛騎士として王城で働いているとの事。


「彼らもお前を見かける度に挨拶に行こうとしていたらしいが、王家の意向で動く者達から窘められた様でね。

今後顔を合わせる事も有るだろうから、その時は力になってやってくれ」


ええ、分かりました。


伯父さんの頼みですから無下にはしません。

いつ魔獣の被害を受けてもおかしくないこの世界、家族の繋がりはとっても大事。



この二人の他に、伯爵家の跡取りにはなれないがヒューミスさんとの間にもうけた伯父さんの実子(男子)が一人いるそうだ。

学校の教師になりたくて今は大学の寮で生活しているそうな。


王都の大学なのだが全寮制らしく、講義の無い日でないと帰ってこなくてちょっと寂しいらしい。



バンペリシュカ伯爵家は王都民で王都内の土地は持っているが領地は持っていない。

つまり伯父さんやヒューミスさんの王城での仕事の給金とテサーク様の年金、王都で貸し出している土地の賃借料での生活だそうで、使用人に給金を支払うとそんなに贅沢ができる訳でもないとの事。


実際領地を持っていない貴族はどこもそうらしい。


伯父さんは『騎士』は引退して、今は騎士団事務所で人事の仕事をしている。

「人事の仕事と言っても結構広範囲でね、各部署から要望に応じた人員の補充、配属先の決定から怪我で引退せざる得なくなったり、殉職した元同僚たちの後始末、穴埋め人事にも関わったるするから・・・。

そんな時は中々に辛いものがあるよ」



本来人事の采配を握るなんて言ったら、組織の中ではかなりの権力持ってるはずなんだけど騎士団ではちょっと違うみたい。


貧乏くじを引くような感覚なのかもしれないな。




そんな伯父さんに朗報です。


「ん、朗報?」


脇に置いていたいつものバックをゴソゴソして木で拵えた箱を取り出す。

実は私、偶然こんな物を持ち合わせておりまして・・・。


蓋を開けると、そこに差し込んだ光が時間差で外側に放出されて明るさが増したような錯覚を感じる。


「ッ!」

ヒューミスさんは速攻気付いたみたい。


「ほう!見事なものだな。

儂は宝石に詳しくは無いが当家に不相応な物という事だけは分かる」



おや?年の功でしょうか。

テサーク様が俺の初動を潰しに来たみたい、侮れん。

これがどんな物かは知らないはずだが、アスキアさん、レイニーさんの件を知っているのだろうか。


伯父さんは首を傾げてキョトンとして「コレはどういった物なのだ?」と不用意に俺に話を振って来た。

しめしめ。



「これはアレキサンドライトと申しまして、おそらくこの国にはここに有る現物一つしか存在しない希少な宝石で御座いますです、ハイ」


だって俺が作りましたから。


「ふむ、私はこの手の知識に疎くてね。

ヒューミス、君から見てこれはどうなの?」


「・・・」


「どうしたの?」



ヒューミスさんの目が険しい。

突然降って来た災厄をどう凌ごうかと思案している、と言った感じか?


「インビジブルウルフ卿、どういった意図がおありで?」

ヒューミスさんからそう問われるが正直特別な意図が有っての事では無い。


これは魔よけ、お守りの様な物なのだ。

『インビジブルウルフ』と懇意にしている者、家である事に対しての目印の様な物。



実は補助具の腕輪の製作時に特例で認められていた『特定地域内での自治権』を俺が持つ事への終了のお達しが未だに来ていない。

『補助具量産品の完成度が一定の品質に至るまで』という終了要件を建前上満たしていないとの解釈だ。

建前上・・・そう、つまりは王家の都合。


つまり一介の騎士である俺が、極々限られた区域内ではあるものの独裁者と言われてもおかしくない権限を今この時も国が担保してくれている。


何を言いたいかと言うと、条件次第ではあるが生殺与奪を合法的に俺が握れる、そう言った権限を未だ持っている、又は一度でも王家からそういった権限を任された実績がある俺と懇意にしている証となる。


俺しか作れない物(宝石)だから(今のところ)偽造も無理だし。



一般的な読解力を持っている者であれば、少なくともこの宝石を持っている者と敵対しない様に立ち回るだろう。


単純に面倒事が減ると思う。



「そうか・・・思ったより厄介な話だね」

ん、なぜに?


「先に聞いておくけどクルトンはどこかの派閥に入っていたりするかい?」


派閥とな?

聞いた事は有りますがそんな明確に有るんですか。


「まずは王族派と公爵派と言うのが有ってね、でもコレは問題でもなんでもないんだよ。

そもそも公爵家は王族が暴走しない為のリミッターとして機能しているから。

問題はその他、国教派と協会派」


ややこしい。

『国教派』は宗教がらみなのは想像つくが『協会派』ってのは?


「治癒魔法協会と太いパイプの有る貴族連中の派閥の事さ」


うわぁ、言われてみれば有ってもおかしくないよな。

治癒魔法師は貴族より希少って言う位だからそれなりの利権を持ってるだろうからね、ってか持ってるし。



「細かい説明は割愛するけど、君がホイホイこんなものをバラまいていると新しい派閥を立ち上げるんじゃないかって警戒されるよ?

各派閥が取りこぼしている貴族たちを、王族派陣営に引き込む呼び水としての派閥として。

それで我が伯爵家もその政争に巻き込まれるかもしれない、そういった意味で厄介だと言ったんだ」



はい、良く分かりました。

取りあえず面倒くさいって事ですね。

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