第298話 資産
お守りのつもりで渡した宝石について、意図しない形で深読みされてしまい少々戸惑っている俺、クルトンです。
そんなつもりは無いんですけどね。
面倒だし。
「周りの者達がどう見るか、だからね。
こればかりは誤解されてしまう様な事してる君が悪いよ(笑)」
左様でございますか・・・でも俺が持っていてもカバンの中で死蔵されるだけだし・・・。
「なら、預かっておくよ。君の資産を当家が代行して管理するといった落としどころで良いんじゃないかな。
資産登録した後に現物は王立博物館にでも預かってもらおう、そう手続きすれば良いだろう」
「君からこの宝石を管理する為に『手続きを任された』実績だけでも当家にとっては十分なメリットがあるからね」
生暖かく俺を見ながら伯父さんがそう言ってくる。
メリットですか?
「もちろんだ、魔獣殺しの英雄からの信頼を得ている様なものだからな。
その内にベルニイス国から『救国の英雄』の称号も賜るのだろう?
ん、分からない?大丈夫間違いない。
あの戦士の国での『英雄』の称号はこの国で言えば貴族以上のステータスだ、国王陛下もお前の引き留めに頭を抱える事になるだろうよ。
そんな『英雄』から得た『信頼』だ、金には換えられない財産を貰ったようなものだぞ」
今度はテサーク様が向かいの席から俺の肩を叩いて告げてくる。
とても良い笑顔で。
しかし俺とベルニイス国との関係も知っているのか・・・。
まあ、とりあえず一度受け取ってくれるらしいからアレキサンドライトを箱に戻して改めて蓋をする。
ではどうぞ。
スッとテーブルの上で箱を滑らせるように伯父さんの前に押し出すと、特に畏まった様子も無く受け取り「ヒューミス、じゃあ頼むよ」とスルーパス。
ヒューミスさんは顔を青くしながら「冗談でしょう?」と伯父さんを睨むが、当の伯父さんは特に何か思う様子も無く「何か?」みたいな顔で見返している。
伯父さん、俺でもそれは酷いと思う。
でも、
箱には特定の人しか開けれない様に施錠の付与を施していて、開錠の為にこれから伯父さん達を登録するし、
更に箱ごと盗まれても後追いできるように位置情報を確認できる発信機の機能も付与されているからタブレット状の受信機も渡すし、
そして、もし箱を破壊されてもけたたましくブザーも鳴るから、取りあえず手続きが終わるまでは何とかなるんじゃないかな。
「大丈夫だよ。盗まれたところでクルトンが王都にいる間は何とでもなる。
まあ、早急に手続き完了しないといけないのは変わらないけどね」
意外と肝っ玉が大きいのか、危機意識が希薄なのか。
「何度も言うけど大丈夫。
盗まれても人の命が失われるわけじゃないんだ。どうにでもなるよ」
ああ、伯父さんは無神経な訳ではないんだ。
人生で取り返しのつく事と付かない事の線引きがしっかりしているんだな、『生きている』それが何よりも伯父さんの価値観の最上位に有るんだ。
それが他人の財産でもってのはどうかと思うけど。
「はあ、分かりました。
今からでも王城に行ってきましょう、護衛の為に使用人を何人か連れていきますから後の事はお願いしますね。
・・・では、インビジブルウルフ卿、これから準備してまいりますのでこれで失礼します」
そう言って早速ヒューミスさんは部屋を出ていく。
お急ぎの所すみません。
この箱にヒューミスさんも登録しますので、そんなお時間かかりませんから少し待ってください。
侍女が開けてくれた扉を通った瞬間に俺から声を掛けられ、慌てて戻って来るヒューミスさん。
ダバダバしている。
ホントすみません、直ぐ終わりますんで。
その後も色々話をした後、準備を終えたヒューミスさんが部屋に戻って来ると俺も一緒にお暇、お屋敷を出る。
「すみませんね、護衛まで任せてしまって」
いえいえ、お気になさらず。
今、護衛の名目でヒューミスさんと馬車に乗っている。
ポムも一緒だ。いや、君は外走った方が良いんじゃない?
王城に戻るつもりだったし、当事者の俺が一緒に居た方手続きスムーズに進むだろうし。
「そうですね。
ふふ、魔獣殺しの英雄に専属で護衛してもらえるなんて自慢出来ますわ」
はは、そう言ってもらえれば。
王城に到着した後に資産管理部門へ赴くと、さほど時間もかからず登録申請手続きは終わった。
ただ申請が終わっただけなので登録が完了したわけではない。
早ければ明日にでも現物の価値を査定しに来て、その後に確定するそうな。
だけども先に相談しておいた方が良いだろうと、査定が終わり登録が完了した後は王立博物館へ管理を任せたいと申し出る。
そうすると今度は奥の接客コーナーに通され別の担当者が出てくる。
話しを聞くに王立博物館は基本王家の資産で運営されているそうで、故に金銭的価値に関係なく質の高い芸術品や学術的に希少なサンプルなどが展示されているとの事。
しかも驚くことなかれ入館料は無料だ。
すげえ、国王陛下見直した。
早速其処に俺の資産、アレキサンドライトの管理、展示を申し出ると資産登録は完了した後であれば、今回なら希少性の高い宝石と聞いているので問題ないだろうとの事。
「ですので一度博物館の鑑定士も立会って審査、査定を行いたいのですがお時間如何でしょう?」
え、今ですか?
「もし可能であれば・・・、直ぐにでも準備させますので。
ええ、勿論インビジブルウルフ卿のご都合を優先して頂いて構いません」
早く済むならこっちも有難い、ヒューミスさんにも確認しこのまま審査してもらう事にする。
「おお、では早速!
直接博物館へ向かった方が早いでしょう、馬車を用意させます。
少々お待ちを!」
担当者がだいぶ張り切ってるな。
「ソフィー様が既に手を回していたのかもしれませんね。
こうなる事を予想して博物館以外の施設にも何かしらの通達がされていたのかも・・・」
そんな都合の良い事が・・・と一笑できないところがもどかしい。
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