第299話 煌めく金緑石
馬車の用意は思いのほか早く整ってスムーズに移動する事が出来た。
只今馬車に揺られ、ポムも含めた皆で王立博物館に向かっている俺、クルトンです。
担当の方も同乗していて、しきりに「博物館の展示物の質が上がる」と上機嫌。
「本当に待ち焦がれておりました。
ソフィー女公爵様からお話を聞かされておりましたが、正直本当にそんな事が有るのだろうかと段々疑い出してきたところでしたので」
「ははは」と担当してくれているおっちゃんが笑いながら話してくれる。
「やはりソフィー様でしたか」
ヒューミスさんの想像が当たりましたね。
取りあえずは査定してもらって品物を引き渡せばそれで終わりだ。
都合の良い事にソフィー様から話を受けだ段階で準備は進めていた様だから、さっきの書類の手続きより込み入った事は無いだろう、だからチャチャっと済ませたい。
そして馬車は順調に進み程無くして目的地の博物館に到着した。
既に先ぶれが済んでいた様で、館長直々の出迎えを受け応接室に案内される。
「インビジブルウルフ卿は当館へは初めてで?」
ええ、恥ずかしながら。
王都へは何度か来ているが忙しくて伺う事は今までなかった。
「お時間が有ればこれを機会にぜひ見て回ってください。
希少ではある物の未だ使用用途が見つけられない鉱石も何点か展示されております。新しい発見が有るかもしれません」
なるほど、前世のレアアースなんかそんな感じだもんな。
特に触媒で使用される様な物だったら、今の時代で用途を発見するのは無理だろう。
半導体の様な世界の様相を変えてしまう程の素材が発見されたとしても、それを利用する環境そのものが整っていない。
正しく活用できないんだ。
そんな話をしながら、展示物の説明を受けながら少し遠回りをして歩いて行く。
防犯の為に柵越しではあるが、正直これだけの展示物を無料で見学できるのは凄い事だと思う。
「すべてを解放している訳ではありませんよ。
ここの扉の先からはより希少価値の高い物を展示していますので、事前に申請頂いて許可された者しか入室できません、無料ではありますが」
扉の脇に立っている警備の方に一言二言何か告げた後、館長はその扉のノブを回して俺たちを中に促す。
今までの物との比較になるがかなり地味な展示の仕方で見栄えはあまり良いと感じない。
でも、ここは柵が無く展示物を間近に確認できる。
「本当の意味でここが当館の目玉になります。
インビジブルウルフ卿から管理を任される予定の宝石もここに展示されるでしょう」
なんかヤベエもんがあちらこちらにある。
鉄の塊に見えるコレは・・・燃焼室内部も露出する位壊れてるけど小型の蒸気機関?レシプロエンジンだよな、クランク軸がちゃんと有る。
あれは辞典?中身を見ることは出来ないがかなり汚れた外観でありながら魔力の密度が凄い。
なんで魔力が・・・。
「ほう、それが気になりますか?
展示物脇の説明文にもある様に研究の結果『魔導書』であると結論付けている書物です。
2~6ページで一つの魔法が記録されていて、発動させるとページの消失に合わせて魔法が放たれる様です。
まあ、誰もそれを起動できなかったので解読できた書物の前文を要約してそのまま転記しただけなのですが」
ほうほう、魔導書とな。
王笏を作った事で魔法の放出方法に目途は付いているが、今のところそれなりの材料と結構複雑な付与を必要とする。
少なくともこの『魔導書』なら材料に高価な素材を使う必要は無さそうだ。
使い捨てらしいけども。
ちょっと、いやかなり興味がある。
「遺跡から何冊か発見されたそうなのですが、そもそも朽ちていたので研究中にボロボロになってしまって。
展示に耐えうる程度の・・・形を保てたのがその一冊だけなのです」
まあ、当然だよな。
見つけられただけでも奇跡の様な事だ。
「ではこちらにどうぞ」
資産の査定の為に次の部屋に案内される。
名残惜しいがまた来れば良い。
次は時間を取ってしっかり見学しに来よう、そうだ申請が必要って言ってたな。
忘れない様にしよう。
・
・
・
審査と査定は粛々と進み何事も無く完了した。
したのだが・・・、
「どうしましょうか・・・」
俺たちに同伴してくれている資産管理部門のおっちゃんと館長が頭を抱えている。
今回管理をお願いする俺が持ってきたアレキサンドライト、これその物の価値もそうだがそれ以上に俺が彫った付与術式が問題になるらしい。
「軍事利用されかねませんなぁ・・・どうしましょうか」
なんで?と思ったが「この大きさの宝石に動く絵を収める事が出来る付与術式なら、音や手紙の内容を記録する事など造作も無いのでは?
情報量からしてどうなんですか?」
との館長の指摘。
鋭い、そしてよく気が付いたな。
確かに動画に比べ音声、静止画は圧倒的に情報量が少ない。
この付与術式を利用して音声又は指令文等の文字情報を記録させれば伝えられる情報はべらぼうな量になる。
そう、今まで羊皮紙という限られたスペースに手書きしていた量より遥かに多い情報を付与術式にして送れる。
完璧では無いものの暗号化されるという副産物もあるし。
「管理、保管は問題ありませんが展示については王家から判断してもらいましょう」
館長がそう言ってこの話はここまでとなった。
俺としては管理してもらえればそれで構わない。
運用を丸投げできれば。
でも・・・確か同系統の付与術式を彫った『幻影石』をベルニイスに贈っちゃてるよなぁ。
大丈夫かなぁ。
「まあそれは・・・あそこは付与術式の技術力があまり高く有りませんから気付かれないと思います・・・多分」
館長さんが自信なさげにそう話す。
一応トラップも盛り込んだ術式になってるから、俺も大丈夫だと思ってはいますけどね。
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