第223話 「中々食えない青年ですな」
箱庭での検証実験の必要性を鼻の穴膨らませながら力説している俺、クルトンです。
脇に居るポムも一瞬”ビクッ”となりました。
万が一事故が起こり腕輪の不備を疑われる様な事態になった場合、来訪者の加護持ちの味方のつもりでいる『利己的な正義を振りかざす迷惑な輩』(長いな)が無尽蔵に湧いてきて、腕輪製造に携わる人たちを言論と暴力で攻撃しだすかもしれません。
それが原因で腕輪製造の事業そのものが頓挫する事が無いとも限りません。
”あの”ロミネリア教開基の際も似た様な事が起こったと聞いています。
第三者からでも「現状ではこれ以上の物は作れない」そう判断してもらえるような域まで完成度を持って行かないといけないのですよ、コストの兼ね合いもありますが直接命にかかわる品物とはそう言う物です。
「そこまでする必要があるのでしょうか?」
有りますね、の事業の主導権をタリシニセリアン国が握る事を良しとしない国家、組織がこういった人たちを先導し、情報工作を仕掛けてきたら・・・、
一番最初にそれに対処、抗うのは国でも、騎士団でもなくこの製品、腕輪その物に備わる信頼と信用です。
「・・・」
出荷された時点で『腕輪』の評判、信頼、信用は独り歩きしていくのです。
身に着けた加護持ちの方が評価する内容を我々がコントロールする事は出来ませんし、してはなりません。
故に製品に対する疑念、不信感を微塵も抱かせない様に腕輪製造に関わる我々は、製品の評価、その最低ラインを常に上げていく不断の努力が常に求められる・・・そんな先が見えない茨の道を進んでいかなくてはならないのですよ。
うん、俺良い事言った。
「・・・来訪者の加護持ちである我々にとってこの腕輪は正しく希望なのです。
であればいち早くこれを普及させ同じ境遇の仲間を救う事を優先させる事も間違いではないと思うのですが」
ストデニー男爵がそう仰られる。
分かる、分かるよ。
でも物理的に不可能、いや、必要以上に工程を前倒しするのは無意味なんだ。
「お二人の今のお姿を拝見すれば現状で問題ないだろうとの判断、そのうえで気が急いているのは理解致します。
しかしこの腕輪を製造するにあたっては様々な準備が御座います。
必要な素材を確保してからの製造拠点までの輸送、使用可能な合金へ精錬するだけでも時間が掛かりますし、単純に作る人手を確保しなければなりません、そしてその製造装置を操作する為に訓練する期間も必要です。
特に作業の習熟度は品質に直結致します、手は抜けません」
量産開始までに必要な時間、物理的にどうしても短縮できない工程が有るんだ。
その準備が整うまでの時間を無駄にさせない為にも、さらに完成度を高める事が今回の検証作業の趣旨の一つでもある。
スタートはじれったいかもしれないが結果的に広範囲、多人数の人達に安定的に腕輪が供給されるんだ、どうか理解してほしい。
「なるほど、私たちは今まで自分が生きる事に精一杯で大局を俯瞰する事が苦手の様です。
陛下のご承認も頂いている案件ですし、インビジブルウルフ卿を信じて任せましょう」
同じ加護持ちのチェルナー姫様が助け舟を出してくれる。
マジ感謝、だって皆俺より爵位上なんだもの。
言葉を選んで説得するの大変なのよ。
「「姫様のご意向であらせられれば」」
やっぱり有能な上司がいると仕事が早く済むね。
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ここから仕切直してハウジングの機能と行う検証の内容を説明再開します。
「それでは改めてお配りしました計画書の内容に沿って説明させて頂きます」
内容を順に説明、都度質疑応答の時間を設け誠実に対応していきます。
「ちょっと・・・申し訳ございませんが専門的な内容は良く分からなくて・・・。
この『大気中の魔素含有量の変化に伴う機能保証限界値の確認』と言うのはつまりどういう事でしょう」
相変わらず控えめに挙手されてヘリザンテーマ姫様が質問してくる。
この人、立ち振る舞いは控えめなのにグイグイ来るんだよね、根っからの貴族って感じ。
いや、公爵家ご令嬢だから当たり前か。
取りあえず質問に答える。
「それはですね、斯く斯く云々でありまして・・・」
「私は問題ないが肌が弱く金属にかぶれてしまう人も居るでしょう、赤子なら尚更。
そういった場合の対処はどうなされますかな」
「量産初期はともかく貴族ともなれば意匠を凝らした物、例えばミスリル製の腕輪も欲しくなると思うのです。追々で構いませんのでオーダーメイドの工房を立ち上げる事も検討頂きたい」
「万が一のスペアなどはどうお考えで」
ストデニー男爵からの質問、要望にも丁寧に返答していく。
検証の趣旨から外れる質問なんかもあったが有用な時間を過ごせたと思う。
思いのほか腕輪の機能が優秀だったのだろうか?
食事を挟み2時間を超える会談であったのにもかかわらず、チェルナー姫様含む加護持ち3名の体調が崩れる事も無く無事終了した。
国王陛下の方がよっぽど疲れた様で途中から船を漕いでいたよ。
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「思想、思考に甘さは有りますが中々食えない青年ですな」
「ほう、そう感じるか?因みにどの辺がそう感じさせる」
「貴族であれば会話で言質を取らせないのは当たり前の事ですが彼は・・・そうですな、会話で発する一言毎に目的があるのでしょうな。
故にその目的に誠実で純粋で、それ以外を些末なものと勘違いさせる。
易々と言質を取らせると思ったらそれが撒き餌になっている事が多々有りました。
悪意を持ったものではなく、こちらの意図を跳ね返すと言いますか・・・鏡、そう鏡ですな。
此方の思惑の分だけ跳ね返ってくる、そんな会話でした」
「フム、厄介じゃの」
「まったく(笑)、気付いた時にはこちらが独り相撲を取っておりましたからな」
「それ程の御仁であれば早々に鈴を付けなければ(妻を娶らせなければ)御しきれなくなるのではないでしょうか?」
「まあな、以前からその話は進めておるのだがデデリが首を縦に振らなんだ。
どうしても曾孫を第一夫人にしたいらしい。
国家を今まで支えてきた一人であるからして、あやつの意向を無下にするわけにもいかんでな、参ったわい」
「精霊の加護持ちを降嫁させる気ですか!そんなものは鈴でもなんでもないでしょうに!
周りへの影響が想像できませんわ・・・ああ、恐ろしい」
「案外首輪になるかもしれんぞ、あの狼に臆することなくモノが言える女子(おなご)は儂の知る限りパリメーラの他に叔母上しかおらんからの」
「あら?、私の事をまだ”女子”と認めてくれるのですね(笑)」
「こんな恐ろしい男が居るはずなかろう・・・」
「ふふっ、私には誉め言葉ね」
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