第222話 会談
次の日、大事な仕事に向かう俺、クルトンです。
本日は『来訪者の加護』持ちの方との初顔合わせになります。
今回は執務室ではなく王城内にある王家のプライベートスペースに有る少し大きめの東屋での打ち合わせです。
予定では16時から始まり会食を含め凡そ2時間の予定。
屋外で、しかも2時間という加護持ちの方からするとかなりキツイ条件下での会談、打ち合わせになるので大丈夫なのか聞いてみると、何でも先方が望んだことらしい。
上手く腕輪の効果が発揮されているという解釈で良いのだろうか、それでもちょっと心配。
一応、俺が待つつもりで早めに到着し、そのまま会場に案内されると既に二人の見知らぬ方が談笑していた。
一緒にチェルナー姫様、アスキアさん、ソフィー様に国王陛下、宰相閣下もおられる。
因みにフンボルト将軍はこの会談の警護の為に将軍直々に警邏業務に加わっているそうだ。
邪魔だから大人しくしてた方が良いと思うんだけどな。
しかし待たせちまったか。
「おお、クルトン。思いのほか早いではないか、そんなに急がんでも良いのだぞ」
はい、ええ、そうなんでしょうけど・・・皆さん既にお揃いですか?
この7名の他にも文官らしき人が周りに7、8人いる。
その他にメイドさん他多数・・・意図せず俺の気配察知が仕事をしてしまい落ち着かない。
「皆先ほど揃ったところですわ。ささ、早いですが折角ですから会談を始めてしまいましょう」
そう言って皆が立ち上がり俺の前を開けると、加護持ちと思われる方2名が前に進み出る。
「はじめてお目にかかります。ヤロー・ストデニー男爵で御座います、以後お見知りおきを」
「ネヘット・ズワテリウー公爵嫡男テサークの三女ヘリザンテーマで御座います」
これはこれはご丁寧に、クルトン・インビジブルウルフで御座いますです、騎士であります。
恐縮してペコペコ頭を下げる俺。
この世界に生まれ19年、未だに頭を下げる癖が抜けない。
「それでは・・・」とソフィー様から促され、皆が東屋中心の円卓状の席に着く。
出入り口があやふやな屋外の東屋で円卓、これ上座が分からなくて厄介なんだよなあ、と思っていたら陛下がチョコンと真っ先に座り、そこが起点となり慣例に沿って自然に皆が座りだす。
ここでの俺は騎士爵、一番末席になるのだけど・・・、
なんで陛下の右隣りやねん、上位3番目の席やぞココは。
チェルナー姫様やソフィー様より上座なんて落ち着かんわ!
陛下に向かって左に座らせられる俺に対し対面の末席にはアスキアさん。
スマンのう・・・伯爵家嫡男様を末席に追いやってしまって。
本当に俺こういうの気にするんで。
ねえアスキアさん、席交換しません?ほら、遠慮しないで、姫様の旦那さんになるんですから。
「今回の会談では間違いなくインビジブルウルフ卿は最重要人物です。席順の問題と言うよりそこに居なければ上手く話しが進まないのです」
どういう事だってばよ!
「これから話題となる『腕輪』について、会談が始まるとすべての発言が記録されます。
しかも権限の大きな人物であればあるほど記録される情報も多くなります。
具体的には発言内容以外にも誰に向かって発言したか、示した指の先は誰だったか、発言中の態度、腕を組んでいたとか頬杖をついていなどの所作も記録されます」
ああ・・・それでこんなに周りに人が居るのか。
書記さんなのね、でも情報漏れるんじゃない?こんなに居ると。
でもなんでそんな細かい所まで。
良く分からん、どういう事?
「言葉以外、特定の者のみが理解できるサインなどのやり取りで、
結託したもの同士が意図的に会談の結論を誘導した場合、後追いで検証できる様な証拠を残す為です」
アスキアさんからの丁寧な説明。
いつも解説有難う御座います。
撮影機材なんて無いもんな。
なのに魔法が有るからそうせざる得ないのか、お目にかかったことは無いか『洗脳』とか『思考誘導』とかの魔法が有っても不思議じゃないしね。
ん・・・という事は俺が疑われてる?
「疑ってはおらんが大事な会談となるのだ、後でケチを付けられたくないであろう?
加護持ちへの誠意の表明でもあるしのう、我慢せい」
はっ、国王陛下の仰せのままに。
「ではここから会談を開始します。進行は私、元老院議長のソフィーが務めます、異議はありますか?」
「「「「「異議なし」」」」」
とうとう会談が始まりました。
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会談の内容は検証してもらっている二つの腕輪の現状確認に始まり不満点、改善の希望などの聴取。
気付いた些細な事でも話してもらい書記の方に記録してもらう。
俺の方は新素材の現状の性能、実際の量産に移行した場合のコストや生産量、随時検証した後のアップデートの方法についての案を説明し意見を頂戴する。
製造装置の試作機も持ってきているので近々お披露目できるだろう。
それから未だ前世の記憶に引っ張られた俺の常識と、この世界の一般常識との齟齬で気付く事が出来ない細かな事を教えてもらい順調に有意義に会談が進んでいく。
そしてハウジングを使用した最終検証作業についての手順の確認、懸案事項や誤解を解消、不安を払拭させる為の説明を始めます。
ちゃんと計画書も作ってきました。
抜かりはありません。
「まず、私の『ハウジング』の技能について説明させて頂きます」
最大で1ha程の土地に素材、材料を準備し人用ビオトープを形成、そこで意図的に変化させる環境へどう対応するか、出来るかを検証、表面化していなかったであろう問題点をあぶり出し随時腕輪に改善を施していきます。
「あの・・・よろしいでしょうか?」
開始早々ヘリザンテーマ姫様が控えめに挙手なさいました。
はい、どうぞ!
「私はこの『量産試作1号機』を検証させて頂いていますが、これで完成では問題あるのでしょうか?
私はこれで十分と感じるのですけれども」
・・・そうですね、それで今のところは『完成』でもいいのかもしれません。
ですがそれで不十分な方もいらっしゃるかもしれません。
なので薬の臨床実験と同じで今できる限り、最大限の検証を行う必要があります。
命にかかわる事なのです、「あの時こうしていれば」などという事はあってはなりません。
「ここまでしたんだ、これ以上はどうしようもない」と言える状態で製品を送り出さないと、この事業に関わる人たちの尊厳が『利己的な正義』に汚されるかもしれないのですから。
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