第221話 「飽きたら帰って来い」
やけに抽象的な事を仰られる。
おそらく陛下が意図している事を微塵も理解していない俺、クルトンです。
「まあ、この話は良かろう。世界の修復が完了したその時に立ち会わなければ理解どころか認識自体出来まいて」
・・・思わせぶりな言葉を選んで適当な事言ってません?
「ははは、そうかもな」
要は開拓村の件は国が主導して進めるから、俺は別の仕事をしろと言う訳ですね。
「そうじゃ」
最初からそう言ってください。
俺も暇な訳じゃないんですよ。
「いや、それはスマンな・・・・、
いやいやいや、それを言うなら多分儂が一番忙しいぞ」
「クルトン、話を逸らすな。
話しを戻すが陛下からのお言葉の通り開拓村の件は我々に任せてほしい」
宰相閣下が話を軌道修正してくる、こんなところはそつがない。
「その代わりお前は元老院の代表、王家の名代として我が国を巡り『お前が感じた諸問題』をその土地で都度解決していってほしい」
・・・一人で?
「そうだ」
マジですか!
諸国漫遊する天下の副将軍の助さん、格さんとまではいかなくても、旅のお供うっかり八〇衛さんですらいないんですか!
「何を言っているんだお前は?
そもそもお前の旅に同行できる者などいる訳が無かろう、スレイプニルがいなくとも馬車より早く進めるそうではないか。
お前のペースについてこれる者なんぞ思い浮かばん」
いや、旅は普通ですよ、俺。
今回もちゃんと商隊に合わせて護衛の仕事完遂しましたし。
「なら誰と一緒なら良い?言ってみろ」
え、・・・うーん、誰かいるかな?
「・・・、・・・、・・・」
「ほら、いないではないか」
くっ!言い返せない。
「何も道中ずっと一人でいなければならん訳でもあるまい、途中護衛を請け負って商隊や行商と一緒に行けば良いではないか、一期一会の出会い、それも旅の醍醐味じゃろう?
儂は旅をしたことが無いからのう、お前が羨ましい」
静かに陛下が俺を諭す。
ちょっと待ってください、いつの間にかそちらの提案を受けた事前提で話が進んでるんじゃないですか?
そもそも旅になんていかないかもしれませんよ、俺。
双子への訓練もあるでしょうに。
「直ぐに出発しろなどとは言わん、
双子の件はそれなりに時間をかけて構わんから何とかしろ、出来るんだろう?
旅に出るのはその後で構わん。
頼んでおいてなんだが、いつまでもお前が面倒見なければならない状態も不健全だしな。
それに『マップ』とかいう技能を身に着けたのだろう、それが有れば世界を巡り未知へ向かって冒険したくは無いか?」
ああ、『冒険者』。
ロマンを感じるその職業、実際は危険に挑むだけのただの無職。
いや、日雇い労働者か。
前世で定年まで人生を経験し、現世でも家族がいる今の俺はそんな無鉄砲な事に心を動かされたりはしない。
「・・・こんな事を私が言うのも何だが、残りの期間で腕輪の量産の目途も付くだろうし騎乗動物の捕獲もマップを使えば一番苦労する捕獲対象の位置特定は容易との事ではないか。
この二つが粗方片付けば、曾孫の代まで生活できるくらいの収入を定期的に得られるのだぞ。
働かなくてもだ。
そもそも魔獣8頭『単独討伐』の実績、国への貢献だけで騎士の年金がエライ事なるんだからな」
「現時点での実績を換算すれば年金は私より多い位なんだぞ」と宰相閣下。
ええ、大変有難い事ですが故郷の開拓事業に財産をつぎ込むつもりでいたので。
土木工事が絡む事業の予算はハンパないんですよ。
「だからそれは国がやると言っておる。
話しをぶり返す気満々ではないか!分かって話題を誘導しておるのだろう!」
宰相閣下がイラついておられる。
こんな時に前世のお笑いのボケネタが役に立つとは。
「・・・とりあえずこれは決定事項だ、
では、騎士爵クルトン・インビジブルウルフに王命じゃ。
我が国タリシニセリアンの更なる発展に寄与する為に、そしてお前自身の見識を広げる為に、国を巡り民と触れ合いその目で現状を確認し、問題を見つけた際には解決してくるように」
・・・お言葉ですが陛下、旅を終わらせる際の定義が示されておりません。
それだと俺は一生旅暮らしになってしまいます。
そんな根無し草の様な生き方はまっぴらごめんですよぅ。
「まあ、飽きたら帰って来い」
良いのかよ!そんなんで。
・
・
・
一応、重要な話は終わり内謁はお開きとなった。
予定よりだいぶ時間が押したみたいだし。
執務室から退室すると、珍しく一言も言葉を発しなかったフンボルト将軍が声をかけてくる。
「のう・・・金ならある、だから騎乗動物と長剣を工面してはもらえんだろうか。
嫁が欲しいなら我が一族の年頃の娘を紹介してやっても良いのだぞ」
何か最後の方はマフィアの人〇売買交渉みたいな雰囲気でしたね。
ワザワザそこまでの雰囲気出す必要ありました?
すっかり萎えてしまったんですけど。
嫁の件はおいおい検討するとして・・・、
「断らんのだな」
勿論!
長剣は今回拵えるつもりでいたので構いませんよ。
「おお、そうか!では早速『儂の最強の長剣』についてプレゼンを・・・」
いやいや、そんなのはいいですから。
まずはこれに希望する内容を記載して頂いて・・・
バックから取り出した仕様書のフォームを渡し必要事項を記載、後日提出してほしいと伝える。
重量バランスや手に馴染む微妙な柄の太さなどあるのでまずは木刀でモックを製作して確認した後に製品を打っていきます。
後は付与の内容ですね。
素材によって付与に耐えられる限界値が有るので注意が必要ですが、一応欲しい付与は一通り記載してもらって構いません。
ああ、後は使用目的ですね。
儀礼、式典用とか練習用とか実戦用とか。
ただ自慢したいだけってのでも構いませんよ、人に向けられる凶器にならなければお客様の希望は出来る限り反映させます。
「うむ、ではこの『仕様書』に書いてもって来よう、明日持ってくるから出来るだけ早めに頼む!」
後、騎乗動物は何をお望みで?
グリフォンは流石にキツイかもしれません、個体数もそう多くないみたいですから。
自然界での個体数が大きく減少してしまったら森の生態系にも影響出るでしょうし。
「スクエアバイソンが良い!(ムフー)」
おお、デカいですもんね。
「スクエアバイソンの上からバリスタの投射なんぞ・・・心が震えるのう!!」
ここにもいたよ、バリスタ狂が!
何処も考える事は一緒だなぁ。
でも王都で飼育するのは大変だと思いますよ。
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