第220話 将来
皆で執務室に戻って来た。
肩を落としている陛下をチラチラ見ている俺、クルトンです。
あれから陛下は口数少なくションボリしている。
幼少の頃は特に体が弱く、持って生まれた強力な能力の影響で生活するのも大変だった事から、日頃騎士団の面々には護衛や基礎体力をつける為の運動の指導、倒れた時なんかの介抱など結構迷惑をかけてきたらしい。
既に騎士団の人員はその時代から代替わりしているので、当時の状況を知る現役騎士はデデリさん位らしいが、それでも献身的に自分を支えてきてくれた『騎士団』へのあの行いは自己嫌悪に陥るには十分だっだようだ。
「力に溺れるとは・・・儂にはすぎた力じゃったのう」
まあ、何と言いますか・・・王笏の仕様検討時点でロルシェさんの提案を採用しておいてよかったですね。
あの状態ですかさず治癒魔法を使えましたから。
「そう・・・じゃな。
ロルシェ、恩に着る。あの時のお主の提案が無ければタリシニセリアンの資格を失いかねなかった」
「もったいなきお言葉」
重い、今までになく重い雰囲気。
「ドンマイ!俺なんかレイニーさんを殺しちゃうところでしたよ(テヘペロ)」
なんてジョークはとてもじゃないが言えない。
「しかし、クルトン。そう考えるとあれだけの力を持ちながらお主の今までの振る舞いは正しく英雄のそれじゃな。
儂も見習わねばなるまい。」
「力持つ者の正しい行いだ、今更だがもっと誇っても良いのだぞ」
「・・・大きな力を持ちながらその影響を正しく理解している。
まるで英霊が憑依している様な振る舞いだ、19にしては出来すぎの様な気がするがな」
いや、はい、その・・・話題を逸らす為に俺の話に持って行こうとするのやめてください。
あからさますぎますよ、俺じゃなくても気づきます。
「ははは、そう言うな。まあ、おかげで少しは気が紛れたわい」
はあ、そう言っていただければ。
「では、王笏は宝物庫に厳重に保管する事としましょう。
国難のその時まで眠っていてもらうのがこの王笏の正しいあり方でしょうから」
宰相さんが陛下に提案します。
「そうじゃのう、ちと寂しいがそれが良かろう。
だが、それの手入れは儂がする。
せっかく拵えてもらった王笏じゃ、眺める位は問題なかろうて」
「まあ、それくらいなら・・・」と宰相閣下は苦笑い。
フンボルト将軍も「その際はお手伝いいたします」と王笏に興味がある様だ。
初期設定が必要だった事から分かる様にあの王笏は陛下しか扱う事が出来ない。
陛下が崩御された場合は、初期化をした後に継承者へ再度初期設定をしなければならない。
一応その手順は取扱説明書にかなりの容量を割いて詳細に説明してある。
セキュリティーの都合と王笏から放たれる強力な魔法の出力に対してのリミッターを設ける為に使用者本人の生体情報とリンクさせ、今であれば国王陛下へ最適化されている状態だ。
その辺は補助具の腕輪に刻んだ付与術式との標準化を図って、後のあらゆる道具へ展開できるように工夫したところでもある。
うん、『標準化』は工業製品であればとても重要な概念。
コスト低減、生産量の向上、ノウハウの継承も標準化を前提にした設計思想でないと効率がすこぶる悪い。
一握りの天才、凄腕職人の作る物は工業製品ではなく、芸術品、又は工芸品みたいなもんなんですよ。
それはそれで価値の有るものでしょうが世に与える影響は一瞬だけです。
一定の品質、性能を誰が作っても確保できるってのが工業製品たる条件の一つ、それが一般人の生活を支える糧となり経済を回し、国力を継続的に増強していくのです。
「「「いや、お前からそう言われてもな」」」
自覚はしています。
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執務室に戻って来てからも内謁はまだ続く。
ポムはいい加減眠くなったようで部屋の隅で丸くなっている。
「次の案件だが、クルトン、お前はあと1年もしないうちに開拓村に帰るんだったな?」
はい、そのつもりです。
腕輪の量産の件が完全に立ち上がった後になりますが、村で開拓作業を優先して行うつもりです。
そう、農作物の栽培は妹たちが嫁ぎ、作業を行う人員が減るまでは家族たちに任せて俺は開拓、主に農地の拡大を行うつもりでいる。
森や荒れ地を開拓するのであれば、スレイプニルクラスの大きさの動物でも土地を荒らすような悪影響を与えることなく作業できるだろうし、頑強な体を持ちクラフトスキルを扱える俺にしかできない事も多いだろう。
当初目標としていた妹たちの結婚資金は十分な金額を確保できたし、騎士、魔獣討伐の報酬もほゞ手付かずで残っているから、これを原資にロバや馬、開墾用農機具の為の金属素材の買い付けも問題ないはずだ。
お金の有る今のうちにコルネンで必要になる素材を準備し、出来るだけ効率よく開拓、開墾作業を行いたいし、魔獣対策の為の防護壁やトラップなども整備したい。
後は村の区画整理や道、上下水道の整備などのインフラを整える土木工事事業の立ち上げ。
やる事、やれる事は山のように有る、そしてどれも何年もかかる大きな事業だ。
「・・・開拓事業が成功に大きく前進することは私達も歓迎するところだ。
だが、どうだろう。その事業は国に任せてもらえないだろうか」
どういう事でしょう?
「お前が思い描いている開拓事業・・・話を聞いているともう都市計画だがな・・・それは企画の立案と、設計をお前がやるにしても作業そのものを国が音頭を取って進めていきたいのだ」
・・・俺の故郷を王領の飛び地にでもしたいのですか?
「いや、勘違いするな。
お前の故郷はカンダル侯爵領で変わらない、王家が召し上げる事も無い。」
「これ、丁寧に説明するのは誠意の表れともいえるが、クルトンが疑心暗鬼になっては本末転倒じゃ。儂から要点だけ伝えよう」
陛下が宰相閣下の話を遮り割って入る。
「クルトン、お前がやろうとしている故郷の開拓事業は今後国が主体となり進めよう。予算も人員も十分に確保し、現状の村民にも追加で負担はかけさせん。
むろん追い出す様な事もない、今まで通り。ただ開拓のペースが速まるだけじゃ」
して、その心は?
「お前は村の開拓事業から離れ、直々に国の仕事に携わってくれ。
国、王家が主導してきたあらゆる事業に対し騎士として、元老院として影響力を発揮してほしい。
それにより国が栄え、結果として開拓村への利益にもつながると『儂が』確信している」
「影響力を発揮してほしい」とは、なんかボヤっとした言い回しですね。
俺は確かに色々できますが・・・、
俺の力の質はそんな広範囲に影響を与えられるものではないですよ。
「力の所持者たるお前が言うならそれが真実なのだろうが、我々からすればそうは見えないのだよ。
何ものにも囚われずに己を貫き通す・・・この一点だけでも、現実としてそれが出来るだけでもお前に比類する者はこの国におらん。
・・・すでにお前は世界の特異点、可能性の起点として機能し始めているのじゃよ」
難しい事を言いなさる。
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