第219話 来訪者の従者
護衛の騎士さんとメイドさんにお願いして昨日俺が泊まった部屋から一抱え程の木箱を持ってきてもらいます。
あ、小間使いのような事お願いして申し訳ございません、ありがとうございます。
そう感謝を伝える俺、クルトンです。
箱を受け取り中身を取り出します。
「おおおお、それが!」
陛下が王笏を掴もうと手を伸ばしますが、それを避ける。
これからやる事の説明が先です、落ち着いてください。
「手に取る位良いじゃろうに~、儂が依頼した品物なのに」
色々初期設定が有るんです、これが上手くいかないと今までの苦労が水泡に帰します。
俺たちの労力が無駄になるんです、気を付けてください。
「そこまで言わんでも良いじゃろうに」
シュンとする陛下。
マジで勘弁してください、新規登録の手順を間違えると工程が後戻りして現状復旧だけでエライ大変なんですよ。
「お、おう。それはすまなんだ」
陛下を宥め、王笏の初期化が間違いなくされている事を確認してから俺の魔力を流す。
初期設定の一番最初の作業、自己診断機能の起動を行い、ここで陛下に声をかける。
「この魔銀の持ち手を握ってください、初回は両手でぎゅっとです、はいそうです」
陛下が俺の指示に従い王笏の持ち手を両手で握ると光の線が血管を這うように手に浮かび上がる。
袖で見えていないが肩口から心臓までこの光の線は届いているはずだ。
「!」
「おい!クルトン、大丈夫なのか!?これは!!」
「陛下!」
宰相閣下、フンボルト将軍が慌てています。
うん、俺もここまではっきり見えると思いませんでした。
でも問題ありません、ほら。
光の線は陛下の体から徐々に消えていき、今は王笏だけがボンヤリ光っている状態だ。
「・・・説明してもらおうか」
宰相閣下からそう言われ、俺のバッグをまさぐり取扱説明書を取り出す。
これに書いて御座いますです。
「取扱説明書か・・・こういったところはキッチリしているな。
ではこれに沿って説明してもらおう」
はい、では表紙を捲って頂いて最初のページは・・・。
「いや、そう言うのは省略してくれていい。説明の意図は分かるがこういつもいつも『同梱品一覧』とか『注意事項』とか説明されてもな」
あっ、ハイ、ではそこは省略させて頂きまして、更に3枚程ページをめくって頂いて・・・。
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騎士団修練場に来ています。
「うむ、なかなかの出来じゃな!!」
陛下御満悦。
向こうでは雷撃を喰らった騎士さん達が片膝をついてビクンビクンしてます。
陛下は早速雷撃の魔法を打ちたい、騎士たちは(やりたくはないが)放出系の魔法攻撃が将来悪用された時に対応が後手に回らない様に、対処方法を探り検証する為に受けてみるべきだろうとの結論となり今に至る。
「良いのう、良いのう、カッコ良いのう!!」
段々放出系の魔法を放った実感がわいてきたのか、さっきよりテンションが上がってる。
オリハルコン、魔銀、青銀、重心バランサーの為のアダマンタイト等の希少金属と、柄頭の意匠の百合の花びら、グリフォンの爪に使用したクリアダイヤモンド。
そしてグリフォンの瞳にはめ込んだレッドダイヤ。
とにかく素材はこれ以上ない物を使い、機能も十全に発揮するように配置に拘ってデザインされている。
であるからして・・・
「陛下、早く治癒魔法を試してください。騎士たちが可哀そうで御座います」
そう進言する俺、優しい。
「そうじゃな!では」
今まで王笏を掴んでいた場所より拳一つ下へ握り直し、魔力を王笏に込めると百合の意匠から淡い乳白色の光が霧の様に溢れ出して騎士さん達を包み込む。
そしてその体に吸い込まれると、今まで膝が笑っていた騎士さん達が目を丸くしながら立ち上がる。
その姿には力が漲り、鎧に雷の跡が無ければ立つのもやっとだったその面影は微塵も残っていない。
「さっきまで意識も朦朧としていたのに・・・」
「痛みも感じなくなっていたこの体が、こんなにも力が漲る」
「来訪者の従者、タリシニセリアン・・・」
「タリシニセリアン!」
「タリシニセリアン!、タリシニセリアン!」
「タリシニセリアン!、タリシニセリアン!、タリシニセリアン!」
騎士団員さん達からタリシニセリアンコールが巻き起こる。
「良き良き」
陛下もドヤ顔で手を振っている。
どんなノリやねん。
あんたらこの人に魔法ぶち込まれたんやで。
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「良い働きをしてくれた、コレは報酬をはずまねばな!!」
未だご満悦の国王陛下。
もう少し騎士団員に雷撃の魔法放った事の重大さを認識してほしい。
今まではこれほど強力な放出系魔法をたった一人で放つ事などできなかったのだから。
ほら、流石のフンボルト将軍もドン引きですよ。
「陛下、騎士団の面々はタリシニセリアンの為であれば命を懸けますが、その象徴であらせられる陛下よりこのような・・・」
「!!、そうじゃな、すまない浮かれておった」
ようやく陛下も理解した様で、ハッとした表情のまま騎士団へ向けて頭を下げる。
「いえ、陛下!そのような事を求めた訳では御座いません、どうかいつも通りで・・・」
自分に非が有ったとはいえ、国の象徴たる国王が騎士団へ頭を下げるのは異例中の異例、フンボルト将軍が慌てて膝をつき、陛下より低い位置へ頭を持って行きます。
「いや、命を懸けて国を守護する騎士団への不義理、こうでもせんと来訪者セリアンへ申し訳が立たない」
「それくらいで良いでしょう。では陛下、執務室へ戻りましょう。
・・・此度は面倒をかけた、お陰で陛下の新たなお力を皆へ示す事が出来た、礼を言う」
宰相閣下がそう締め括り騎士団への礼を告げると、我々4人とメイドさんは執務室へ戻って行く。
その時の陛下の背中は心なしか小さく見えた。
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