第262話 諜報

1人の女性の『記憶』にアクセスする手段を確認している俺、クルトンです。



先の尋問の時に確認した通り俺のハウジング内では対象者の行動をコントロール、この場で言えば自白をさせる事が出来る。

特別な手順を踏むことなく俺の意思だけで可能になる恐ろしい機能だ。


この女性にそれを使えば多分目的は即完了するだろうが、犯罪を犯している事が確定していない以上、それを使用しての情報を提示したところで『国の機関』であるプサニー伯爵様が在籍している組織が受け入れてくれるかは微妙だ。

物証でもないし。



話しは前後するが今の一連の流れから、俺は彼女の記憶の中にプサニー伯爵様が求めている情報が有るのではないかと睨んでいる。


つまり彼女自体が生きた帳簿みたいな役割をしているんじゃないかと・・・フンボルト将軍のニアファイズ侯爵家は直系男子に人間メモリーの様な『ギフト』を受け継ぐらしいから、それに似た技能持ちなんじゃないかと。


なので自白させる事無く直接彼女の記憶にアクセス、情報を盗み見る事が出来ないか俺が持つスキル群、ハウジングの機能を確認しているが・・・かなり厄介だ。


まあ、当然だな。

PCのストレージ、SSDに記録させている生情報である二進数そのままの数字の羅列を見せられたところで解読できないのと一緒だ。

OSに相当する翻訳ツールでもないと俺たちが意味有る情報として認識できない。


気絶している人の意識に潜り込み感情を感じたり直接覚醒を促すのとは難易度が違いすぎる。


何か方法ないかなぁ・・・



結局何もできないまま場を離れ、翌日プサニー伯爵様に結果を報告する。


「・・・と言う訳で怪しいのは怪しいのですが、ちょっと現状手詰まり感が有ります。

この国の倫理を曲げれば情報を引き出す事も出来ますが・・・特に王家はお望みにならないでしょう?陛下から直接騎士爵を叙爵されている俺がそれに抗う事も問題が有りますし」


「ええ、そこで踏み止まって頂いたのは賢明な判断ですね。

惜しくは有りますが今までの物証だけでも向こうを揺さぶるには十分な情報ですから、まずはこれで良しとしましょう」


分かりました、じゃあ今回の仕事はここまでという事で。

それでですね、仕事と関係ないのですすけどリーズンボイフ君は元気ですか?


「ええ!それはもちろん。この前などはグルングルン寝返りで移動出来る様になりました、流石奇跡の子ですな」

デレデレだ。

第6子でもあるし健康な来訪者の加護持ちとなれば将来国の有力者の子女との婚約に納まらず、分家して新しい貴族家として認められるかもしれないしな。


「そんな元気なリーズンボイフ君にですね・・・」

カバンをゴソゴソして先日拵えた玩具を取り出す。


「コレは?」


手に持って振ると音が出る玩具です。

今のリーズンボイフ君なら自分で振れるかもしれませんね。


ドーナツ状の持ち手にディフォルメされた兎の顔が付いている通称ガラガラを渡す。

ちゃんと表は厚手で柔らかい白いタオル地で覆っていて振ると”カラン、コロン”と軽やかな音が優しく鳴り響く。


勿論リーズンボイフ君の力に負けない様に頑丈に拵えた。


それを手に取り確かめながら静かにガラガラを振るプサニー伯爵様。

振る動作に合わせて”カラン、コロン、コロローン”と響く音に耳を傾けた後に俺に軽くだが頭を下げる。


「有難う御座います・・・息子が生まれる際にはこれ以上ない位にお力を揮っていただいた上にこの様な品物を」


え、いや、赤ちゃん用のおもちゃですし、そこまででも・・・。


「いえいえ、これでも今まで子供用の玩具は一通り見てきた自負が有ります。

この大きさでこれだけ手間のかかった物はそうは有りませんよ。

リーズンボイフは果報者です」


はい、あ、有難う御座います?



次は宰相閣下にお目通り頂きこの前確認した治癒魔法協会内での会話について報告する。


あの気になった会話を全てそのまま。


「不穏な動きだな、バカな事はしないと思うが関係各所の警備は強化するようにしよう。

まったく本業に注力していればいい物を、何をしようとしているのか」


ちょっかい出してるのはやっぱりネズロナス教国ですかね?


「分からん、今や各国の間者が入り乱れているようだからな。間者同士のいざこざも増えているしな」


あ、そうなんですね、もしネズロナス教国だったら先日洗い出した間者以外に協力者がいる事になるんでちょっと心配だったんです。


「まあ、居るかもしれんがな、何とも言えん」


じゃあ情報も報告したし、後の事は任せて俺は帰るとしよう。



その後は先日話を付けてきたテホアとイニマの訓練を開始したりしながら5日間経過、その間の空き時間を使ってこの前造ったゴーレム、これをもとに小型化してそれこそ虫の大きさまで縮小した物を作った。


諜報活動用として。

正直治癒魔法協会のあの女性も、あの時の会話もいまだに気になる。今後に何か影響与えてきそうな感じがするんだ。


だから少しでも情報を入手する為に、音声収集用の機能を搭載したムカデ型のゴーレムを作成。


そう、盗聴用ゴーレムの完成だ。



治癒魔法協会の建屋に施されている数々のギミックを躱し音声を収集する為に過剰かもしれない機能を盛り込んだよ。


うん、とっても大変だった。

俺がその原理を知らない前世の技術を再現する為には世界の補完機能に頼るしかなく、つまりは大量の魔力を必要とした為、開発時間が思いのほかかかった。

魔力回復するまで次工程に移れない様な事が度々起こったからね。


諜報用ムカデ型ゴーレムには収音の他に録音機能も付けてはいるが容量に限界が有る。

だから収音した音声を離れた建屋外、別の場所でリアルタイムに聞く事が出来る様にした。

この際に問題になるのが音声の伝達方法。

最初は従来からある音声を遠くに飛ばす魔法を利用しようとしたが、治癒魔法協会の建屋その物が魔力を遮り、みだす何らかの機能を有していた為、魔法に頼る事は諦めた。

これで良ければ簡単だったんだけど。


だから魔力を使って自作の極超小型発電機を動作、その発電された電気を利用して音声を電波に変換する術式を通し発信、受信側も同じ原理で音声を復元してスピーカーに出力するという魔力のあるこの世界では非効率でアホみたいに面倒くさい方式になった。

しかもこの為だけに、これでしか使い道ないだろうと思われるコンデンサとか半導体と同じ機能を発揮させる付与術式を開発しなければならず地味に時間が掛かった。

一定出力の電気を持続、安定して出力するのは雷撃の魔法では無理だったから。



『電波』は魔力やギミックに影響されないのが分かったのは新しい発見だが、これが広く認知されてしまった後には対策を打たれるかもしれない。暫くは秘匿する必要が有るだろう。


取りあえずはまた宰相閣下に報告してこよう。

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