第263話 仕込み

今日も午前中はテホアとイニマの訓練を行い午後は予め予約していた宰相閣下との打ち合わせに向かう俺、クルトンです。



いつも袈裟懸けにしているバッグには拵えたばかりのムカデ型ゴーレム(原寸大)3機とスピーカー付きの操作機が入っている。


今日はこれを作った目的を説明するのと、献上して有効に使ってほしいとお願いする為だ。


そう、お願いする。

ここらあたりで対応を国に任せ、治癒魔法協会のきな臭い話しとは俺は距離を置くつもりだ。


カウンターとなり得る新しい組織の立ち上げの為に人材の確保やスポンサーとなる協力者を募る。

一応王家の許可を取ったうえで水面下で、間違っても治癒魔法協会に悟られる事なく事を進めたい。


何年かかるか分からないがスタートが遅れればゴールへ到達する時間も後ろにずれていってしまう。


コルネンに戻ったらとにかく取り掛かろう。





”コンコン、コンコン"


「クルトンです」と告げると内側からドアが開き、中に入ってバッグから物を取り出すと早速要件を切り出す。



説明を始めると・・・。

「・・・ちょっと待ってもらえるか、適任者を呼ぼう」

そう言うと宰相閣下はお付きの方に耳打ち、その人が部屋を出ていく。

その適任者を呼びに行ったんだろう。


「この様なものは完成する前に一報欲しいんだがな、こちらの準備もあるし」

ああ、すみません、そうですよね。


そして暫く雑談にも似た話をしているとドアがノックされ、待っていた人が到着した。


入って来たのは特に特徴のない中肉中背のおじさん、でも特別な技能を持っているんだろう何故か顔の印象が記憶に残らない。


視線を外してしまうと顔の印象が急速に薄れていく。

記憶に頼ったらダメな奴だな、二度目に会っても説明なければ初対面と勘違いしてしまう。

念のためマーカーを付けてマップと索敵に登録しておこう。


「名前は明かせんが王家の裏方で活躍してもらっている者だ。

今回は特別に引き合わせたのだから口外してはならんぞ。

では早速このゴーレムについてこの者に説明してもらえるか」


はい、では一応取扱説明書は準備してきたのですけど・・・あ、そうですか。

記録に残すのはマズイと、ええ、では資料全部お渡ししますね、その後の処理はお任せします。


じゃあ、資料無しで説明しますので。




その後、一通り機能の説明を終えたところで名無しのおっちゃんから宰相閣下に声が掛かる。


「宰相閣下、魔力の影響を受けずに会話、音声を拾う事ができるとの事でしたが信用なされるので?

一応確認は必要かと思いますが・・・」


「まあこういった創作物に関してはインビジブルウルフ卿を信頼している、今までの実績からしても間違いないだろうな。

しかしお前の話ももっともだ、試しに治癒魔法協会にそのゴーレムを放ってみたらどうだ?

説明ではもしもの為に自壊機能も盛り込まれているとの事だったし、何か有っても証拠は残らんのだろう」


「そうで御座いますね、これが説明頂いた通りの物であれば我々の仕事の成果も格段に上がりますし・・・うん、早速試してみましょう。

インビジブルウルフ卿、引き続き操作方法をご教授いただけますか?」


はい、ではこの操作盤からですね・・・



その場での現物を使用しての操作も実習して取り扱いは問題ないだろうと判断し、引き渡す。


早速今晩放ってくるそうだ、電波の届く範囲内の宿屋を出来るだけ多く確保するとの事で慌ただしく退出していくおっちゃん。


何だか色々小難しい事を言ってはいたが、新しいおもちゃを貰ったみたいに足取りがウッキウキしてたのを俺は見逃さなかった。



前世で言う所のタブレット状の操作機には王都の地図が登録されている。

合わせて俺のマップ機能と索敵からの情報も登録、地図とリンクさせているから治癒魔法協会の建屋内の間取りもバッチリ、建屋内は3Dデータの様な立体地図に切り替えて目的地(部屋など)を指定、後はそこにゴーレムが自分たちの判断で経路を選定し自走していく。


カメラ機能を盛り込むのは大変だったので地図と座標を合わせた誘導方法にするしかなかったから『ラジコンを操作する』って感じじゃないんだけど問題ないだろう。




俺もこのタイミングで退出し部屋に戻る。

これで仕込みは一通り終わった。


この件に関して王都でする事はコルネンに帰る当日に治癒魔法協会へ挨拶に寄るだけ、そして面倒事に巻き込まれる前に出発する。



これからは暫くテホアとイニマの訓練に注力して、日程が調整ついたらパジェの能力調査に立ち会う予定。


合間を見てレイニーさんの武具の仕様を確認、製作とニココラさんに頼まれている指輪の製造装置を持ち込んで・・・ウリアムさんには腕輪の件でいっぱいいっぱいになるだろうから頼めないよなあ。

コレは機密がうるさい訳でもないから別の工房にニココラさんから話を付けてもらった方が良いだろう、凄腕宝飾鑑定士なんだから伝手も有るだろうし。


まだ王都に滞在する事になるが粗方仕事の始末は目途が付いた。

何といっても本来の一番の目的、腕輪の試作が終了、量産に見通しが付いた事だけでも十分な成果だろう。


先の通りテホアとイニマ、そしてパジェの件が目途付けば早速コルネンに帰ろう。

テホアの家族たちと一緒に帰る事になるから商隊に便乗した方が良いだろう、ザックリのスケジュールだけでもポックリさんに確認してもらおう。


うん、段々実感が湧いてきた。

俺の出稼ぎ生活もそろそろ終盤、故郷の村に戻って農作業しながらこれからの計画を立てていこう。


テホアとイニマの件に目途が付けば遺跡巡りも兼ねて国を旅するのも良いじゃないか。


王命に従い国の現状を見て来よう。

新しい発見がある事を期待して。

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