第261話 カルキュレーションとメモリー

細かな仕事を片付けていき、今はじっと機会をうかがっている俺、クルトンです。



実は何度か治癒魔法協会には忍び込んd・・・ゲフンゲフン、見学に伺った。

都度帳簿は確認してスクリーンショットも撮って随時ノートに印刷、プサニー伯爵様に引き渡している。


そう、責任ごと引き渡している。


結構なギミックに守られている帳簿もあったがそれはほら、俺の認識阻害は超優秀だから。


本気になればこの世界の事象の影響を受けないくらい強力だから、ギミックの役割も無視してサクッと開錠、全部拝見させて頂きました。


中身は暗号に近いような言い回し、数字も沢山有ったので正直良く分からなかったがプサニー伯爵様は

「これがあの協会の限界ですよ、国の財務官僚を舐めるなと言いたい。

脱税の証拠だと言わんばかりではありませんか、しかもアルゴリズムが古すぎる(嘲笑)

我々にかかったら秒で解読されますよ」


すげえな、この国の官僚。


「勘違いしないでください、プサニー伯爵家が特別なんです。

幼少から小数点含めた30桁以上の四則演算を暗算で難なくこなしてきたそうですよ」

プサニー伯爵様の職場に帳簿の写本を届けた際に受付してくれた青年がそう解説してくれる。


はー、とんでもないな。

やっぱり敵には回さない様に注意しておこう。



あ、因みに腕と膝の痣はも大丈夫ですか?

「え、ああ、まあ痛みは既に引いてますけど痣がなかなか消えなくて・・・ってなんで知ってるんですか?」


まあいいじゃないですか、じゃあちょっと治療しましょうか・・・ハイハイ、ハイどうです?



青年の肩に手を乗せ魔力を体に巡らせる。

腕、膝以外にもあった痣の原因、老廃物にも似たそれを散らし、体を巡らせ代謝後の排泄物として処理できるように促す。


青年が左の袖をまくり「おお!消えてる、凄い。え?本当に?」とか言ってるが無視してプサニー伯爵様の仕事が一段落するのを待つ。




「お待たせしました。一応解読は問題ありませんでしたがどうも一部情報が足りませんな。

まだインビジブルウルフ卿の鼻から免れている物がある様だ」


ほう!そうなんですか、コレはいけませんねぇ。

もう一度見学に行ってきましょう。



「ええ、お願いします。

しかし・・・騎士の仕事が忙しいのは承知していますが税務の仕事も手伝っていただけませんか?

偶にでいいのですよ、1年に・・・そうですねぇ七日間程手伝っていただければ十分見せしめ連中をつるし上げれるでしょうし、そうだ!税務官に任命する様に取り計らいましょうか?

それなら令状なくても家宅捜索できますよ」


いや、この国の税務官どんだけ権限持ってんだよ。

前世の国税徴収官並じゃねえか。

国民に対してなら武力装置の騎士団よりよっぽど凶悪だよ!


「お願いしますよー、本当にヤバい組織の息の根止めれるんですよー、騎士で税務官ならアイツらも早々手出しできないと思うんですよー」

プサニー伯爵様がしつこい。


仕事に誠実なのは美徳だが管轄外の仕事でこうも巻き込まないでほしい、俺はもうすぐ故郷に帰るのだから。


「年に七日間、七日間だけ出稼ぎ来てくださいよー」

何度も引き留めてくるプサニー伯爵様を振り切って退出、今日はこのまま治癒魔法協会に見学行こう。


もう少し探さないとならない書類があるからね。



やって来ました治癒魔法協会本部。

この本部の脇には診療所も併設して有って意外と人の往来が激しい。


診療所を覗いて見ると治療に従事している治癒魔法師や事務の人達はとても人当たりが良く、患者の人達との関係も良好に見える。


いつだって現場の人は一生懸命だよな。


サッと診療所を眺めた後に早速本部にお邪魔する。

むろん認識阻害全開でだ。


この本部は防犯対策が結構キツイ。

受付をはじめとして、入口から中に向かって歩く廊下などは職員がいるフロアのどこからでも人の出入りを確認できる間取りだ。

だいたい20人ほどの職員が常に人の出入りを監視し、床は絨毯が敷かれているのに人が裸足で歩いても”カツン、カツン”と足音がなる様に絨毯の下に付与術式が刻まれている。


俺の認識阻害はそんなトラップにも影響を与えず中へ向かって進む。

俺の能力で一番稼働率の高い認識阻害は今でも習熟度が上がっているらしく、今では俺だけが別次元に居る様に意識すれば壁もドアもすり抜け、警備員の脇を通り目的の部屋に一直線に向かって行ける。


索敵も併用し、怪しい動きをする人が居ないか常に気を配りながら目的の部屋へ到着、そのまま中に入ると索敵で確認済みの人たちが書類仕事をしていた。



ここは以前も確認した部屋、特に隠し部屋や隠し金庫みたいなギミックで隠蔽されている様な事も無く、4人いる人たちそれぞれの机の引き出しも拝見させてもらい一応調査は完了した部屋だ。


なのになぜまた来たのかと言えば、

(一番奥の部屋で警備も厳重なのに重要な書類が全然なかったんだよな・・・)

そう、無かったんだ。


今回はプサニー伯爵様の言葉を切っ掛けに「そう言えば・・・」と違和感を覚えた事を思い出してここに再度確認しに来た。


何も無ければそれで良い、別の場所を探すだけ。

違和感の理由が判明すればそれで良い。



ハウジングを展開しこの部屋を中心に領域を設定、本部を覆い人も地下も、建屋の上空も設定できるギリギリの範囲全てを俺の支配下に置く。


あらゆるものが俺に紐づけされ、この建屋の地下に食い込む基礎の内容や、建設当時に書かれたんだろう屋根裏の落書きなど、あらゆる情報が筒抜けになり確認するが、見逃したであろう証拠の手がかりになる様なものが見つからない。


俺の勘違いかなぁ、でもなんか足りないってプサニー伯爵様いってたしなぁ。





俯いてどうしたものかと次の行動に移そうとした時、部屋にいる壮年・・・30歳位・・・の女性が上長と思われる男性に話しかける。


「室長、昨日の会議では協力国から補助がどの位になるか話は出なかったのですか?見込みだけでも確認したいのですが」


ん?協力国ってなんだ。


「こちらが渡す情報次第で・・・との事だ。これでは実質契約なんぞ無いも同じだろうに、完全にこちらを舐めているな」


「足元を見られては堪りませんから強気で交渉するしかないでしょうね。

しかしいくら何でも腕輪の設計図を持って来いとは・・・事情を全く知らないのですかね、彼方は」


「知っていてもまずは無茶を言ってくるのが向こうの交渉術だよ、面倒だがそう言うもんだ」


「それで設計図なんて入手できるんですか?陛下肝いりの事業で尚且つあの狼が主導している事業だそうじゃないですか」


「ああ、今のところは絶望的だな。

どう言う訳か腕輪の事は広く存在を公開しているが製造方法や技術資料となると一切情報が出てこない、正直お手上げだ。

それにうちはそんな諜報活動をする為の組織でもないしな」




話しの内容もかなり気になるが、この室長と会話をしている女性・・・よく観察しているとこの会話をしながら報告書を作成している様だが要所要所に書いている数字がおかしい。


数字その物ではなくて、なんでその数字を資料確認することなくスラスラ報告書に書き込めるんだ?

しかも関係ない会話を続けながら、まるでその数字が全部頭の中に予め入っている様な・・・。


これは技能持ち確定だな・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る