第65話 時計の注文
ようやく馬具の仕様も決まり、まったりお茶を飲んでいる俺、クルトンです。
一通りの話とその後の雑談、デデリさんからのグリフォンの自慢話が終わりお暇しようと腰を上げたところフォネルさんから呼び止められました。
「それでなクルトン、この前言ってた時計なんだが具体的にどういったものだ?いや、時を刻む道具というのは分かってる」
あの塔の天辺についてるでっかい奴だろう?とそんな認識。
この世界ではそれが普通ですよね。
うん、懐中時計の件ですね、ちょっと試作品見てもらいましょうか。
バッグの中から木箱を取り出し開ける。
緩衝材に埋もれた布の包を取り出してテーブルに置いてからそれを開き試作品を見せる。
これは腕時計の試作品です。
懐中時計はこれより二回りほど大きなものになるでしょうが大凡のイメージはこんなもんですね。
「手にとってみても?」
どうぞ。
「ほうほう、この針が動いて時を刻むわけだな、しかし精密な・・・」
ちょっと動かしましょう。
自動巻きの機能が振動で働かない様に機構部の間に挟んでいた緩衝材を取り去り、リューズをつまんでゼンマイを巻く。
静かに秒針が回りだしました。
「コレは・・・素晴らしい。」
・・・フォネルさんはこんなの好きなのですか?
「ああ、大好きでな。小さい頃は運河の跳ね橋が動く頃合いに母上にせがんで良く見に行ったものだ」
ほうほう、ではこんなものはいかがでしょう。
鍛冶、宝飾、木工スキルをフルに使って仕立てた箱を机に置きます。
手慰み・・・ではありませんが時間が空いたちょっとの時間を利用して少しづつ、こっそり作っていたものです。
こちらはゼンマイではなく魔法陣で魔力を供給し謎モーターを動力にしている、ある意味永久機関を搭載しています。
蓋を開けてみてください。
「・・・では」
蓋を開けると金属を弾く音で奏でられる音楽が鳴りだす。
曲は前世で有名だった『エリーゼのために』
「おおおおおお!」
オルゴールと言うものだそうです。
そんなに複雑な機構ではありませんがなかなかの物でしょう。(ドヤ顔)
チマチマ作っていたとはいえ手は抜かなかったのでシックな感じでありながら宝石に比類するかと思える佇まい。(俺補正含む)
いかがですか、良い曲でしょう?
「いくらなら譲ってもらえる」
ん?ああ、そうですね・・・売り物にするなら銘を入れるので大金貨1枚と言ったところでしょうか。
ちょっと高いか?
「頂こう」
即決ですね、いや有難いんですけど。
俺の技術を安売りするつもりはありませんが音の出る箱って珍しいんですか?こんな値段で購入いただけるって事は。
お貴族様なら直ぐにとはいかずとも音楽隊を呼んで演奏させるから需要は微妙かなと思ったんですが。
音楽隊の生演奏の方が質は断然上ですし。
「珍しいというか初めて見たな、ただ需要はあると思う。蓋を開けるだけで奏でられる音楽・・・女性への贈り物に最適じゃないかね?」
そうかもしれませんね、演出としてはなかなかでしょう。
・・・母さんにでも送ってみるかな。
「と、言う訳でもう一つ設えてくれないか」
お求め頂いたのを奥様にプレゼントするのではないのですか?
そうなのかと思い込んでましたが。
「コレは私のものだ」
・・・では、仕様を決めましょうか。
それはお持ち頂いて構わないので、ここで銘を彫らせてください。
あ、もうちょっとこの部屋使わせてくださいね。
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奏でる曲と外装のイメージを聞き希望納期を確認する。
なんでも来月奥様の誕生日との事で、その1週間前までとのこと。
結構ギリギリだったんだな。
今年は何にするか悩んでたみたいで、間に合えば懐中時計もその候補に入っていたとか。
デデリさんもオルゴールには興味がある様でこちらも1個注文を頂いた。
フォネルさんからの懐中時計についてはカサンドラ宝飾工房の受注開始に合わせてそこに注文してほしいという事、腕時計は姫様のお披露目の後になる旨を伝えて修練場を後にする。
良い人脈と良い商品が有ると営業が楽でいいな。
カサンドラ工房にも恩を返せそうだし。
色々仕事が詰まってきているが腕時計の材料選定は始まったばかり。
しかし試作品が問題なく稼働、機能したことから魔法陣の種類、それを刻む部品の選定、仕分けやデザインも決定しているので納期はまず問題ない。
最悪希望の金属が揃わなくてもゼンマイや針をヒヒイロカネ、その他をミスリル、ステンレス鋼、表ガラスと機構部をスケルトン仕立てにする為裏蓋を超高品質ダイヤモンドで構成する超々高級腕時計が作れる。
前世じゃダイヤモンドだけでも1億円程度では手に入れる事など不可能な代物だ。
これに下賜される予定のアダマンタイトやオリハルコン、軽量化の為に使用したいチタン合金材の使用が叶えばより付加価値が上がるだろう。
宝飾職人クルトン最初の大仕事、名を売る最大のチャンス。
下世話な話だがこれが軌道にのれば故郷の開拓村の事業が失敗しても俺の稼ぎで俺達一家が食いっぱぐれる事はないだろう。
姫様、国王陛下、アスキアさん、俺たち一家の利益が合致しているとても良い状況。
絶対に成功させねばなるまいて。
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