第66話 オルゴールの完成
スレイプニルのムーシカに木箱を2個のせ、それを前に最終確認している俺、クルトンです。
今日はフォネルさん、デデリさんから依頼を受けたオルゴールの納品です。
今載せた木箱は運搬用の物なので、その中に桐箱の様な外装箱に入れたオルゴールが入っています。
今回はパカラパカラとムーシカには乗らずに脇を歩いて宝飾工房から修練場に向かっています。
修練場の厩舎にいるムーシカを引き取る際に「今日納品でしたので持って来ますよ」と告げていたので到着と共に待ち構えていたフォネルさんに誘導され奥の部屋に行きます。
卸した木箱を簡易台車に乗せてガラガラと音を立てて商品を運び込み、二人の目の前で木箱を開封、装飾が施された梱包木箱をそれぞれの目の前に置きました。
前世で言う茶器でも入ってそうな箱をフォネルさんのは紫、デデリさんのは黄土色に染めた紐で緩く縛ってあります。
俺がそれぞれの紐を解き蓋を開け、別に敷いた布の上にオルゴールを取り出し確認してもらいます。
「外装から品の良い作りだ」
外はあえておとなしめにしてあります。
ただしどちらも木目が美しく見える様に材料を選定、しっかり磨きニスも何度も重ね塗りを行ってまるでガラスでコーティングされている様な質感。
まずはフォネルさんがオルゴールの蓋を開け、部屋に音楽が流れました。
「・・・・」
曲は『ノクターン』ですが・・・どうですかね?
駄目ならここでシリンダーと櫛歯を交換して別の曲にもできますから言ってください。
「いや、これで良い、これが良い」
安心しました。
ではこれで納品完了という事で。
次はデデリさんの方。
こちらの曲もド定番の『メヌエット』、いかがでしょうか。
「俺には良く分からんが・・・フォネル、妻は喜んでくれるだろうか?」
「良いと思います、素晴らしい」
2作品とも以前フォネルさんに渡した者より一回りほどデカい。
その分シリンダーを大きくして音を重ねて曲に厚みを持たせるように工夫している。
我ながら良い仕事をしたと思う。
何気に蓋の裏側にはガラスを可能な限り歪みなく平らに製作し、銀を蒸着させた鏡をはめ込んでいる。
この世界では一線を画す鏡だ。
歪みも明るさも前世の鏡に引けを取らない一品。
これを見たフォネルさんがギョッとしていた位だから大したものだったのだろう。
しめしめ。
数百年後でも仕事の丁寧さでは恥ずかしくない作品になったと思う。
最後に各作品に彫りこんだクルトン銘のデモンストレーションをして本日は終了した。
お代は俺の銀行口座に振り込んで貰う様に伝えてあるので1か月以内に処理されるはず。
このオルゴールの設計図も親方に渡してある。
懐中時計より早く市場にお披露目されるかもしれない。
そういえば親方は設計図なんかの重要情報をポンポン渡す俺を心配してくれていた。
そのうち誰かに騙されて利用されるんじゃないかって。
けど、俺にとってそれ、その情報はあまり重要なもんじゃない。
俺がここにいるのは2年間と決めている。
その後は村に戻る予定だから、俺がいなくなった途端に宝飾ギルドに不都合が生じては本当の意味で技術が発展した事にはならないだろう。
俺の望みは家族を守り幸せに暮らしていく事。
それ以上を望むことが有るかもしれないが、それ以下にならない事を最優先に可能な限り手を尽くすつもりだ。
勿論、俺を育ててくれた白狼もこれに含まれる。
あの森を守る為にも権力者、為政者への顔繫ぎは重要なんだろうなと、
最初は妹たちの結婚資金を稼ぐだけのつもりだったが・・・
もう少し今の仕事を頑張ろう、そんな考えがふと頭に浮かんでため息をついた。
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