第67話 【噂】巨狼の幻影
ガヤガヤ、ガヤガヤ
「エールをもう一杯くれ!」
「こっちは鶏モモ唐揚げ追加だ!タルタルソース付き!!」
「野豚のハムカツ、2皿頼む。1皿はとんかつソースたっぷりで!」
「野豚のスペアリブだ、3皿だ!」
「あ、いらっしゃい!悪いわね、席がいっぱいで。あそこに相席でお願いできる?」
ガヤガヤ、ガヤガヤ
ん、お前この店は初めてか?
ほう、コルネンが初めてか、
そうか、あんまりキョロキョロしてると懐狙われるからもっと用心しとけよ。
いや、俺が心配する事じゃないな、その装備見ればあんたが弱くないのは十分わかるよ。
ああ、なんだ探している人がいる?
ん〜人探しなら俺は役立たずだぞ、店のマスターの方が良いんじゃないか?
うん?いや、聞かれた事には分かってる範囲で応えてやるよ。
別にチップもいらない、そんなセコイ奴は少なくともこの店にはいないぜ。
なんたってインビジブルウルフ御用達の店だからな、ハハッ。
おおう、なんだよ急におっかねえ顔しやがって。
え、探してるのは『巨狼の幻影』?
・・・インビジブルウルフの事だろうなぁ、間違いなく。
何処で会えるかって?うーん。
いや、教えねえって訳じゃなくてな、俺もこの店の奴らもそのインビジブルウルフの世話になっているもんだから迷惑かけたくねえって言うか・・・。
あんたの目的によるな。
なんで探してるんだ?
ほう、『腕試し』か。試合を申し込みたいと?
んん〜無理だな。
死にはしないが相手にされんぞ、そもそも。
その理由でこの街に来たって事はあの話を聞いてきたんだろ。
ほら、『二つ脚の魔獣』デデリ大隊長を拳で沈めたとか、王都のフンボルト将軍を地面に逆さまに突き立てたとか、ソレ聞いてきたんだろ?
「そんなのはデマだって事を俺が証明してやる」ってな感じで。
おっ、図星だったか?
いやいや、からかっちゃいねえよ、その噂が流れてからお前さんみたいなのが度々来るんだよ。
おう、お前さんが最初じゃねえぞ。
そいつらがどうなったかって?
どうもなってねえぞ、パメラ嬢に一捻りされて帰って行ったよ。
ああ、パメラ嬢ってのはパリメーラ・サンフォーム姫様の事さ。
あーパメラ嬢の事はよく知ってるんだな、そうそうデデリ大隊長の曾孫さ、しかも直系の。
そう、直系に恥じないべらぼうな強さの嬢ちゃんさ。
今はここの騎士団にいるんだ。
そのパメラ嬢をしてインビジブルウルフには手も足も出ねえんだ。
・・・悪い事は言わない、考え直せ。
おい!そうじゃねぇよ、試合申し込めばパメラ嬢と手合わせできるって事じゃねえよ。
もうちょっと考えろよ、相手にされないって事だよ、まったく。
しかたねえな、まずはここの飯を食って落ち着け、俺が一食おごってやる。
「チキン南蛮定食二つ、タルタルソースたっぷりで!」
運が良かったな、今日はタルタルソースが有るんだ。
日持ちしないし手間が掛かるからな、なかなかお目にかかれないんだぞ、タルタルソース。
「はい、お待ち、エールもいるんだろう?」
姉さんにはかなわねえな、有難うな、ほら冷めないうちに食っちまえ、美味いぞ。
ほら(笑)、そんなガッツくなって。
そうだろう、美味いだろ。
これもインビジブルウルフが教えてくれたレシピでな、コルネンじゃどの飯屋も味がワンランク上がったって感謝してるんだ。
ん?意外か。
けどもよう、あいつの本職は宝飾職人だからな、その辺勘違いするなよ。
まあ宝飾職人も料理にゃ関係ないけどよ。
腹が膨らんで落ち着いたか?
・・・でだ、お前さんの真正面、カウンター席の奥から2番目に座ってる大男が見えるか。
見えない?そうか、もっとしっかり、意識して、集中して・・・どうだ?
そうだな・・・、なら椅子の下の影が見えるか?
やっと見えたか、あいつがインビジブルウルフだ。
いいか、よく聞け。
お前は視界に入っていたはずのあの”大男”に今まで気付けなかったんだ。
分かるよな?
試合で対面していたとしても、突然見失うんだ。
目の前からいなくなるんだよ。
そして意識の外側から・・・あの巨狼が襲い掛かってくるんだぞ。
そうなったらやられた事にも気づかねえってもんだ。
・・・ようやく理解したか。
そうだ『インビジブルウルフ(見えない狼)』の称号は伊達じゃねえ、”あの”国王陛下から直接下賜された称号だ。
良かったな、一番最初に俺に声かけて。
タルタルソースにもありつけたし運が良いぜ、あんた。
いいさ、気にすんな礼なんて、なんかあったら俺も寝覚めが悪いしな。
ん、俺の名前か?
『カイエン』だ、コルネン周辺の村を回ってる行商人だよ。
また会う事が有ったら声かけてくれよ。
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