第64話 時計を作る・・・為の段取り

一心不乱に手を動かしている俺、クルトンです。


こうやって一点に集中する仕事は嫌いではない。

機械式の自動巻き腕時計を作る為に設計図を引いて今こうして作り始めている。

・・・うん、スキル全開ですよ。

前世の俺ではこんな知識も腕も無かったから『作れる事』自体が楽しい。

ありがてえ。


ぶっちゃけ自動巻きにしなくても魔素を魔力に変換、それを利用して一定速度で軸を回転させるモーターの様な物は作れる。

某ガ〇ダムのマグネットコーティング真っ青のベアリングを使用しない宙に浮いた軸受けすら作れる。

これだと摩擦でロスするエネルギーが空気抵抗しかないまさに夢の様な動力。


時計に使うのであればそれ程高出力でなくても良いからこれを使えば少ない部品で作れる。

その分故障もし難く軽い、そして何より安く作れる、多分。



でもそうしなかったのは単に俺の我がままでありロマンだから・・・だけではない。

否定はしないけど。


何故かはわからないが『意味のある部品』への魔法陣の刻印はそれだけで効果が上がる。

しかも部品がより多く連動すれば相乗効果が凄まじい事になる。


ギミックの無い馬具なんかですら各部品それぞれに魔法陣で効果や何をする部品かの意味付けの為の刻印をするだけで製品として完成した際の付与効果が跳ね上がった。


なので小さなボディに多量の部品を詰め込む腕時計ならどうなるものか今から楽しみだったりする。



自作した旋盤、フライスの加工機と出力を上げたレーザー刻印魔法を使用してサクサク材料を切削、削り出し、切断してこれまた自作のプレス機で板物部品の曲げを行い完成。



凡そ1週間で腕時計完成・・・試作品ですよ。

ガラスもありませんし文字盤と言いながらレーザー刻印で数字を打った簡素な物。

オールステンレス製の試作品です。

とりあえず動かすことが目的の試作品なのでバンドもありません。


自動巻きではありますが早く動かしたいので一旦リューズでゼンマイを巻きます。

カリカリカリカリ


・・・動きました。

この世界では必要ないかとも思いましたが、妥協はしないと決めて取り付けた秒針が文字盤上を滑るように回っています。

音もほとんどしません、急ごしらえの試作品にしては大した精度です。


大成功です。


これから先はスキル知識をもとに部品毎に最適な金属を選定し、より精度を上げてバリ取り程度で済ませた仕上げ加工を研磨まで突き詰めます。




で、ちょっと近くないですか?親方

俺の後ろから右肩越しにさっきからずっと見てます。


「・・・設計図は見せてもらえるんだよな」

ええ、それは良いんですけど俺の作り方は特殊ですからね、それを考慮して自分たちの製法を研究してください。


「当然だな、設計図が見れるだけでも段取りをかなりすっ飛ばしてる」

分かってると思いますけど最初は設計図通りに作ってくださいよ、大きさは任せますけど。

あと歯車の寿命に影響するので歯数は注意してください。


親方の目の奥から光が湧いてくるような、活力がみなぎる様な感じがします。

やっぱり職人なんですね。




初めて作った時計。

当然前世でも作った事なんて無かった。

試作品ではあるけれど、これは大事に保管しておこう。

何かの教材にも使えるだろうし。


陛下の仕事が終わったわけではないけれど、一息ついた様な気がした。



翌日、今度はデデリさんの馬具の製作。

フレーム他、通常なら金属、木材に相当する部品の殆どをカーボン繊維に置き換える為、型に生地状に編み込んだ母材を張り付け熱処理にかける。

とは言ってもスキルの炎を断熱材マシマシの炉にぶち込み、炉内温度こまめに調整しながら焼き付けるだけ作業。

通常なら結構な作業だが、スキルのお陰で時間はかかっても手間はそれ程でもない。


その工程が終わると必要のないバリなんかを削ぎ落し成型。

後はこれに付与の刻印、布を縫いこみ綿なんかの緩衝材を詰め込んで仕上げていく。


ただしその工程はデデリさんがデザインを決定してから。



と、いう事でやってまいりました、修練場。

今回は直接フォネルさんから事前にデデリさんに打ち合わせの時間を取って貰う様にお願いしたので居るはずです。


・・・今、空から降りてきましたね。修練場にグリフォンが。

まあ、ギリギリですが問題無いでしょう。


いつもの通り入口の団員さんにデデリさんとの約束の件を伝えて中に入ります。

もう顔見知りなのに顔パスさせないこの警備の団員さんには好感が持てる。

愚直に仕事を全うしている姿勢が良い。


「いつもの場所です、案内は良いですよね?」

との問いに「ええ、大丈夫です」と答え目的の部屋に向かい扉をノックします。


コン、コン、コン、コン

お約束していたクルトンです、デデr・・・

「おお、空いている、入って来い」


では、お邪魔します


中に入ると副隊長のフォネルさんも同席していた。

なんでだろう。


「デザインの件だったな、大分悩んだが式典用はこれ、戦場用はこれで頼む」

ソファーに腰掛けて早々にこう切り出してきました。


式典用の馬具はアイボリーを基調としたシックでありながら明るめの色のもの。

金糸や宝石などの光物はほぼ無いが生地そのものの編み方が使う場所によって変えてあり、且つ施したその緻密な模様は光の当たる角度によってパーツごとに色が変わる様に見える。

それはそれは手間のかかる一品。

灰色がかった、前世で言う隼の様な色調のあのグリフォンには目立たない様に思えるがそれがイイ。

鞍など最初からない様に一体感のあるデザインとなるだろう。

流石、貴族。

良いものが何か分かっている。


一転戦場用の物は真っ赤で少し大きめのガードが取り付けてある物。

勿論ガードはグリフォンの四肢、翼に干渉することが無い様に設計しており、真っ赤な色はデデリさんがそこにいる事を誇示する為にワザと選んだ色。

炎の色である『赤』は魔獣が最も反応する色、「二つ脚の魔獣」が空から急襲する事をわざわざ魔獣に認識させる為だ。



おそらくこれでMMORPGで言うところのヘイトを稼ぎ、他の団員への意識も薄れる事だろう。

体の良い囮なのだがその囮が精霊の加護持ちなのだから魔獣にとってはたまったもんじゃないだろうな。


それではこれで次の工程に進めたいと思います。

大体ですけど1か月位はかかると思いますのでご承知おきください。


お値段は馬具3式セットで大金貨50枚と伝えたところ首を傾げます。

「式典用1式じゃなくて3式でその値段か・・・安くないか?」


手は抜きませんがまだ俺の作品の価値が定まっていない状況ですから。

専門の宝飾品でもないですし。

俺が広く認められればこれから値段は上がっていくでしょうからそれで良いです。


必要とされない職人ならば逆にもっと値は下がるでしょう。


「魔法付与されている品物はそれだけで価値が上がるし、それができる職人の評価が低いなんてことは無いのだがな」


何れにせよこれから価値が定まってくるのですから焦りません。

市場での評価は俺ではなく第三者が決めるものですよ。

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