第97話 【叫び】悪意に似た善意
ふう、しかし大変なものを受け取ってしまった。
なんだかんだ言ってクルトンさんにはいつも気を使ってもらってる様な気がする。
そう言えば初めて会ったのは宿へ迎えに行った時だったな。
見つけられなかった、本当に分からなかったから宿屋の人に教えてもらったんだ。
それでも存在がかなりぼんやりに感じて
クルトン様でいらっしゃいますか?
と問いかけた後に
「え、ハイそうですけど」
と返答が有った途端に茶色い短髪の大男がその場に現れた様に感じた。
かなり驚いたが顔には出さずに城へお連れして陛下との略式謁見。
平民の出自、しかも森に捨てられていたところを開拓村の夫婦に拾われたと聞いていた。
それであれば礼儀を知らないのは当然の事、そこは何の問題も無い。
しかし陛下との言葉のやり取りを聞いていると確かな知性を感じる。
そう、陛下も言っていた。とぼけている様で自分の望む話に誘導している様だった。
ただの平民がそんなことを出来るのだろうか。
詐欺師なのではないかと少し警戒したがその後の振る舞いに悪意は感じられず、謁見後の面会での腕時計の提案についても素人の我々にも理解できるかなり分かり易い説明を披露してくれた。
改めて高等教育を受けていない平民にこんな事が出来るのだろうかと別の意味で疑ってしまう。
その後の話としてはフンボルト将軍を蹴散らした事、スレイプニルとグリフォンを捕獲した事、鉱山都市ハルメルでのミスリルの精錬、アダマンタイトとオリハルコンの加工方法の発見と加工機の発明。
ああ、その前に『二つ脚の魔獣』討伐(笑)、サンフォーム侯爵様を倒した事も有った様だ。
未だに信じられませんよ、あの御仁を拳一発でとか。
そして何よりも姫様への腕時計の製作、国王陛下からその機能の説明を受けた時は涙が止まらなかった。
これで・・・姫様はこれで私たちと同じ生活を送れる。
徐々にとの事ではあったが一緒に庭を散歩するくらいは全く問題ないだろう。
ああ、夢の様だ。
コンコン
「アスキア、まだ部屋にいるの」
ソフィー様だ。
「はい、おります」
「入るわよ。それで『光る棍棒』のこれからだけど名称を目録に登録しないといけないから呼称を決めようと・・・」
そうですね、どんな名前にした方がいいでしょうか。
分かり易ければなんでもいいと思いますが、後程変更もできますし。
ん、ソフィー様どうしたのですか?
「アスキア、そのテーブルの宝石は?」
あ、クルトンさんから結婚の前祝との事で先ほど頂戴しました。
姫様の格に見合う資産が必要だろうと、お恥ずかしい話ですが大変助かりました。
そんなところにまで気が回りませんでした。
しかしこういった物の税金ってどうしたら良いんですかね。
「・・・・見せてもらってもいいかしら?」
はい、どうぞ。
見るだけなら全く構いません。
テーブルに敷いた布の上に乗った宝石を、同じ目線まで姿勢を屈めて凝視しています。
手にとってもらって構いませんよ。
「とんでもない!」
ヒッ!
「ごめんなさい・・・それでクルトン卿はこれを貴方への祝いの品だと言ったの?」
はい、そうです。
大変な品物を頂いて、この御恩は生涯かけてお返しします。
あ、でも最優先は当然チェルナー姫様ですよ。
「そんな惚気はどうでもいいわ、これの価値は分かっているの。あなた」
ん?どういう事でしょうか。
「価値よ、このレッドダイヤの」
「え?」
「え?」
「なによ、知らないで貰ったの」
いや、ガーネットですかと聞いたら否定しませんでしたよ!!
「その話しぶりだと肯定もしなかったのでしょう?レッドダイヤと言ったら受け取らないと思ったんでしょうね」
レッドダイヤって、あの、あの通常のダイヤより高価だと聞いたことあるのですが・・・。
「ええ、高価よ、物凄~く。しかもこの大きさでこのクラリティ、傷も無いしカットも完璧・・・小国なら国ごと買えるわ、これ一つで」
「えええええええ!!!!!!!!!!」
「今日はもう帰って良いから!早く実家に持って行って!こんなところに置いとかないでよ!!」
その後フォークレン伯爵家邸宅ではクルトン謹製金庫を購入するまでの間、警備の兵士の人数が倍に増えたとか。
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