第158話 追加
切り身で30cmは有ろうかという大岩魚のムニエルを堪能していたところ、陛下に話を振られキョトンとしている俺、クルトンです。
だって頬袋いっぱいにしてモッシャモッシャしている最中ですもの。
マジ旨いよ。小骨も気にならない、このムニエル。
「締まらんのう・・・」
陛下がそう呟くとシンシア、チェルナー姫様、ソフィー様がクスクス笑いだしました。
そして、
「できますよ」
口の中の物を飲み込み何事も無かったかの様に真顔で答える俺。
「ん?おおう、そうか、出来るか。
ならば王命じゃ、『来訪者の加護』持ちの為の腕輪の開発に取り掛かってくれ。
開発期間は12ヶ月、その最初の4ヶ月で第一試作を完成させる事。
そして16ヶ月以内に試供品として最初の量産品をベルニイスへ輸出する事を目指す。
詳細は別途協議する故、追って知らせる」
「・・・」
「?・・・クルトン、返事は無いのかのう?」
「・・・2ヶ月ですね」
「ん?」
「第一試作は2ヶ月で仕上げます。量産まで16ヶ月って本来ならそんな悠長な事言ってられないのでしょう?しかも重要度で言ったら王笏以上じゃないんですか?」
「確かにそうじゃが、大丈夫か?期待させて駄目でしたでは心の落ち込みようがハンパないぞ」
「姫様の腕時計の実績が有りますので新たに開発する内容は少ないでしょう。
なので廉価版の試作であれば製作その物は問題無いと思います。むしろその後の耐久試験や効果の調整なんかの検証作業の方が手間かかりますよ、今までの経験上。
それに量産の際は俺以外でも製作可能な様にしなければならないのでしょう?
その為の製造装置の製作、製作工程と内容の洗い出しと作業の標準化、品質確保の為の検査体制を整える・・・こちらの方が大仕事ですね」
これも直接人の命が掛かっている仕事です。
本気で行きます、腕時計と同じく力の出し惜しみはしません。
「お、おう・・・いつになくやる気じゃのう」
勿論、正しく俺の力が振るわれる仕事ですから。
「では頼むぞ。
と言ったところじゃ、16ヶ月とは言ったが早まりそうじゃ(笑)」
陛下がそうハーレル王子に向かい伝える。
「・・・はい、信じてお待ちしております。帰国の後には我が国王陛下にこの旨正確にご報告させていただきます。
まずはタリシニセリアン国の善意に感謝を」
特使3人が椅子から立ち上がり深く膝を曲げると合わせて目を伏せる。
「では引き続き食事を楽しもう、そのムニエルなどは絶品の様であるし気になって仕方ない」
珍しく空気を読んで言葉を発しなかったフンボルト将軍がここからおしゃべりに加わる。
話しの内容を聞くに何気にフンボルト将軍も教養高いな、貴族ジョークがキレッキレで笑いを誘い会話が途切れない。
マジで教養一番低いの俺かもしれない。
こうして先ほどにも増して賑やかになった食事会は無事終了した。
王都に連れてきたスレイプニルの話は上手い事スルーされた様だ。
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食事会の後に1時間ほどの休憩、仮眠をとる。
休憩に入った時点でシンシアはメイドさんに連れられてベッドも完備している専用応接室へ移動、そこで待つことになる。
待つと言ってもメイドさんがボードゲームのお相手をしてくれたり、書庫から希望のジャンルの書物を持ってきてくれたりするので読書など貴族ロールを味合わせてくれるらしい。
これも経験、慣れてもらおう。
「さて、続きの話をしようか」
休憩の後、特使さんと別れ執務室内で陛下が午後の内謁開始の宣言をするとチェルナー姫が「よろしいでしょうか」と話を遮る。
「なんじゃ?」
「先にインビジブルウルフ卿にお礼を伝えたいのです」
そんな~いいですよう。
仕事でやった事ですし対価も頂いていますから。
「それでもです。この度の国王陛下からの贈り物の製作にあたってはインビジブルウルフ卿が仕事を引き受けていなければ、そのお力が無ければ私は今の様に補助なしで城内を歩く事も食事の本当の味、楽しさを知る事も無かったでしょう。本当に感謝しています、有難う」
・・・どういたしまして。
「ふふ、こんなに大きな体ですのに照れ屋さんですのね」
そう優しく微笑むともう一度「有難う」と俺に頭を下げてきた。
王族なのに腰の低い方ですね、本来の自分の力を正確に理解して他者への感謝を忘れない。
生かされている事に卑屈にならず、背伸びをせず、しかしいつも一生懸命。
だからこそなのでしょう、ずっと姫様を支えてきたであろうメイドさんの瞳に涙が溜り、
俺はそれが溢れる前に窓の外に視線をずらした。
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「クルトン、2ヶ月との事だったが本当に大丈夫か?」
これは宰相様、陛下より慎重な性格なのでまだ心配の様です。
材料さえあればチェルナー姫様に拵えた腕時計でも1週間あれば完成しますよ。
一度製作した物の複製なら時間の短縮度合はかなりのものです。
増して廉価版ならなおさら。
先ほど申し上げたように検証作業の方が時間かかると思います。
「では頼む。予算の見積もりは早々に提出してくれ、王家としても可能な限り協力する」
承知しました。
コルネンに戻ったら早速取り掛かります。
王笏も並行して進めますのでご心配には及びません。
陛下がちょっと複雑な表情をしていたのですかさず王笏の件もフォローします。
取りあえずこれからの件で一番大変になるであろう事を確認していきたいのですけど。
「なんじゃ?」
被検体として協力して頂ける加護持ちの方を紹介、確保いただきたいのです。
「そうじゃのう・・・確かに必要じゃのう、加護持ちの協力が」
姫様の腕時計は俺の技能で何とでもなりましたが量産品はちょいと勝手が違います。
特出した性能よりも0歳児からあの世に片足突っ込んでいる人まで全ての年代をカバーできるような間口の広い性能と耐久性、そして生産効率を追求した生産数量の確保とコストの低減。
そのどれにも加護持ちの方の協力が必要になるでしょう。
さすれば聖別された方へ協力要請の交渉をお願いできませんでしょうか。
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