第110話 助けられてばかりです
ようやく馬車の製作に取り掛かろうとして早速躓いている俺、クルトンです。
・・・馬車を置く、作る為のスペースが無い。
こんなのばっかりだな、俺。
チョット考えれば分かる事じゃないか、作業場も保管場所も一番最初の方で確保しておかなければ仕事が始められないじゃないか。
材料の木材を買いに行ってお金を支払い、店の人からいざ「どこに運べばいいですか?」って聞かれて気が付いた。
全部ではないにしろ結構な量の板材なので当然お店が運んでくれる。
有料だけれども。
どうしよう・・・仕方ない、お金は支払い済みなので夕方もう一回来ると伝える。
コルネンは交易都市と言われるだけあって大きな街だ。
当然交易に必要な物はすべてこの街でそろうから工房もきっとあるんだが・・・。
念のため店の人に聞いてみる。
馬車を作りたいのだけど工房ってどこにありますかね?
「作る?お客さんは車大工でしたか」
いえ、宝飾職人なのですけど仕事の都合も有って自前の馬車を持とうと思いまして。木工の技能も持っているのでせっかくなら『僕が考えた最強の馬車』を作ろうと。
「最強・・・だと?」
ええ、最強です。
「・・・イイネ!!」
でしょう?それでどの辺にありますか、馬車の工房。
「ちょっと待っててください」
一度店の奥に入って紙とペンを持って戻ってくると簡単な地図を描いてくれた。
「この区画が木工でも車大工の工房が有る所です。でも多分作業場は貸してもらえないと思いますよ」
ですよねー、部外者ならなおさらでしょう。
「なんでも領主様から幌付の荷馬車の注文が結構な数入っている様でね、この前その分の木材をまとめて買い上げていったんですよ。おかげで店頭の在庫がなくなって、一昨日補充の商品がやっと入ってきたんだ。品切れ前に店に来たお客さんは運が良かったよ」
ほうほう、なんか景気のいい話ですね。
あやかりたいものです。
でもその話ぶりからするとますます無理そう。
(´・ω・`)
あんまり迷惑かけたくなかったが騎士団の訓練施設(コロッセオ)の一角を間借りできないか相談してみよう。
そういや俺、騎士だし。
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「良いよ、前例ないけど多分問題にする者はいないだろうしね。正直私もクルトンが作る馬車に興味が有る」
「私も見てみたいわ、きっと普通の馬車ではないのでしょう?」
フォネルさんに打診しているとパメラ嬢も寄ってきた。
更にセリシャールさんも寄ってきた。
「うちでも荷馬車を発注しているのだが今後の参考にさせてほしい」
構いませんが結構な大きさになりますので時間もかかります。
良い所まで行ったら事前に完成予定日をお伝えしますよ。
「ああ、頼むよ。じゃあ・・・あの辺、あの東屋のわき辺り使っていいから」
有難う御座います。
フォネルさんには助けられてばかりです。
なんか苦笑いしてる。
取り合えず東屋のテーブルに馬車とスレイプニルの模型を置き完成見本を眺める。
遊んでいる訳ではない。これを十分頭に叩き込み、詳細なイメージを記憶に擦り込む。
ドアの開閉、シートの質感、板バネを使用したサスペンション、車輪、車軸の精度。
もちろんベアリングを使用するが以前の急ごしらえの物とは一線を画す物を設える。
お互いの部品同士が反発し合い外輪を基準に、内輪、コロ、保持器が宙に浮いている状態。
本来ならガタが大きすぎてベアリングの様を成さないがグリスを必要としない夢の様な構造。
当然予想される最大負荷がかかっても隙間が死んで部品同士が接触しない様に反発力を調整、その為の付与を部品1個1個に刻む。
コロと保持器は無くても良いかと思ったが、以前の腕時計製作時の検証結果の通り意味のある部品の組み合わせは効果を爆上げするのであえて手間をかける。
車輪のない宙に浮く馬車なんてのも考えたが想定した重量を必要な高さに浮かせる為の部品で客室のスペースがかなり無くなるのが分かったので諦めた。
動かしたときの挙動も車じゃなくて船のようになって馬で御するのが難しそうでもあったし。
こういった事は模型を製作して検証する事が出来た。
シミュレーション本当に大事。
後は原寸大の部品を製作、組み立てる。
ここまでくればポカミスでもない限り大きく遅れる事は無いだろう。
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あれから2週間経ちました、馬車製作に全リソースをつぎ込み外装の一部を除いてほぼ出来上がりました。
感無量です。
「スレイプニル2頭立てって聞いていたから大きいのは分かっていたけど、地味じゃない?」
なにをおっしゃるパメラ嬢!
馬車、車の基本性能である『走る』、『曲がる』、『止まる』を今できる極限まで研ぎ澄ませた馬車ですよ!
ロマンの塊なんですよ!
「でもモスグリーンの外見なんてちょっと・・・」
いや、それは好みの問題じゃないですかね。
この色だと色々都合が良いんですよ?
ほら、御者席のここ、ここのミスリル板に魔力を込めると光学迷彩が起動して見え難くなるんですよ、ほらほら!
「ちょっと、ちょっと!クルトン何なんだい、消えたわけじゃないけど遠目じゃ馬車が分からなくなるよ!」
フォネルさんがアタフタしています。
そうでしょう、そうでしょう。
これなら野盗に気付かれる危険もかなり下がるはずです、面倒事はご免ですからね。
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