第111話 疾走
高速で景色が後ろに流れていく現状に大満足の俺、クルトンです。
あれからムーシカ、ミーシカを馬車につなぎ試運転。
前世と違い認可なんて何もないから許可取らなくても公の道を走れるのが楽。
乗員は俺が御者でフォネルさん、パメラ嬢、セリシャール様と他に騎士団員さん2名。
俺を含め6名で街の中を移動、かなり目立つがここで光学迷彩を使うと逆に危ないのでそのまま街の外まで我慢。
「すごいわ、全然揺れない」
「そうですね、このシートもそうだけど車輪から伝わる振動そのものがかなり少ない、?このベルトは何に使うんだ」
「でもクルトン、言っては何だが思ったより普通に感じる。光学迷彩だったか?あれのインパクトが強烈すぎたのか・・・」
安心してください、この馬車の真価はこれからです。
基本性能を突き詰めたと言ったでしょう。
手綱を操作しスピードを上げる様にムーシカに指示をするとミーシカもそれに合わせて徐々に速度が上がってくる。
なんだかんだ言って設計期間は別として作るのに一番時間がかかった部品は車軸と車輪。
高速で回転しても振動が起こらない様に芯出し、バランス取りがかなり面倒だった。
「おお、結構な速さ、しかも揺れが少ない、いいね」
フォネルさんもご満悦、でもさっきも言ったようにこれからです。
限界の確認もこの試走の目的なので。
「「「「「え?」」」」」
揺れが少ないのであまり速度を感じなかったかもしれないですが、今でも結構な速さ。
これから更に上げていきます。
「ちょっと!こんな速さ、大丈夫なの!」
大丈夫です、もっとスピード出しますのでシートに座ってベルト絞めててください。
「・・・このためのベルトか」
誰かがそう呟く。
ますます速度を上げていく馬車。
道は既に石畳からダートに変わってはいるが、そんなことは問題ないとばかりにムーシカ達は疾走する。
前世の自動車や新幹線なんかの速度を経験していて、尚且つこの馬車を操縦している俺は恐怖を感じないが客室の皆は静かになっている。
大丈夫ですよ、この位何の問題もありません。
スピードを上げると緩いカーブでもGが強くかかり、これも経験したことが無い人は怖いんだろうな。
走り続け道が少し広くなり、休憩用の広場が有る場所に到着すると止まることなくドリフトでUターン、なるべく速度を殺さずにコルネンに向け復路を突き進む。
こうしてトータル90分程度の試走は何のトラブルも無く終了した。
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「クルトンが言っていたこの馬車の基本性能、それは良く分かった。これで車軸と車輪が無事なのが凄まじい。・・・しかし疲れた、乗り心地はあれ程良かったのに」
「もう少し手心とか・・・女性にはもっと気を使いなさい。だからモテないのよ、自覚してるの?」
「・・・父上に報告するが良いか?さすがに黙っている訳にはいかない」
一部俺の心をえぐる不穏な感想がありました、参考にはしませんが。
でもへこたれない。
このあとも試走を繰り返します。その後一度バラして各部品へのダメージを確認。
問題なければ再組立て、問題確認されれば対策を行い再試走。
「・・・どれだけ繰り返すつもりなのよ、私はもう付き合わないわよ」
当然問題が解決されるまでですよ、命を乗せてあのスピードで走るのです、妥協はできません。
「そもそもあんなにスピード出さなきゃいいじゃない。出さなきゃいけない理由でもあるの?」
ロマンです。
「あ、そう・・・」
この日から昼夜を問わす凡そ10日間、3頭の狼と一緒に2頭立てのモスグリーンの馬車が街道の脇を沿うように爆走しているのを行商人はじめ街道を行き交う人々が目撃する。
この自動車レースのラリーにも似た高負荷走行のおかげで馬車は繰り返し改良を受け、急速に完成度が高まっていく。
そして一個人が所有する『馬車』の域を確実に外れていくが、フォネルはじめ初回の試走に関わった人たちがそれに気づいた時にはもう引き返せないところまで来ていた。
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出来た。
これ以上を求められても俺に出来る事はもうない、多分。
いや、希少金属を使用すればこれ以上の物は出来るかもしれない。
でもそれに意味はない。
希少金属はいつでも入手できるとは限らないから。
オリハルコンなんかは国王陛下でも勝手出来ない素材だ。
しかもそのような希少金属で製作した部品は俺なら破損しても治せるかもしれないが、走行中に落下、紛失してしまえば替えはすぐには用意できない。
そこで詰んでしまう事も十分考えられる。
なので付与は盛れるだけ盛り、姫様の腕時計で蓄積されたノウハウも惜しみなく使って何かあった時の為のスペア術式も再設計したが、それを組み込む材料は俺が調達できる材料に限った。
改良する度に増えていく重量も素材と構造を工夫していき金属と木材、ドライカーボンの複合材を製作、使用する部位毎に各素材の割合、厚みを調整。
客室内には違和感を感じない様に工夫してロールバーも取り付け、最高速時に馬車が横転してもシートベルトをしていれば人命に影響がない所まで突き詰めた。
一部ガラスをはめ込んでいるから、安全のために何かあった時は前世の自動車で使用している物の様に粉々になる様にもしてある。
客室に俺が乗り、御者の代わりに狼達にムーシカ達を先導させて最高速アタックさせているときにたまたま派手に横転してしまった時が有ったから検証済みだ。
そんな時でも俺は大丈夫だったので問題ないだろうとの見解。
・・・問題無いよね?
予めムーシカ、ミーシカと馬車を連結している部品は、もしもの際には強度をワザと落としている部品が真っ先に破損し馬車と分離する様に設定していたから、横転時にはそれが正常に作用して馬躰へのダメージは全くなかった。
お陰で馬車を2台ダメにした。痛い出費ではあったが必要な犠牲、しょうがない。
それも有って木材を必要な量なかなか調達出来ずに、改修毎にドライカーボン製フレームの割合が多くなってしまったのは仕方ない。
「それで仕上げに俺に乗れと」
はい、デデリさんなら何か有っても問題無いでしょうから。
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