第112話 戦闘用馬車(チャリオット)も良いね
明るく陽が降り注いでいるのに暑くも無く絶好の試走日和。
デデリさんを馬車に乗せてコルネン郊外へ移動途中の俺、クルトンです。
フォネルさん達にもお声がけしたのですが試走は断られました、残念。
なのでデデリさんと3頭の狼が客室を占領しています。
一応想定している設計の最大重量になる様にウェイト(砂袋)を積んでますが。
「しかしすこぶる快適だな。今でもそれなりの速さで走っているのに馬車の中でグラスでワインを飲めるとは思わなんだ」
でしょう、そうでしょう。
せっかくなのでちょっとお高めの赤ワインと俺謹製の野豚のハムを準備、寛いで頂いています。
狼達には表面をこんがり焼いた骨を準備。
最高速の7割を超えるスピードになるとさすがに厳しいですが、通常の速度であれば書類仕事していてもペンが乱れませんよ。
あ、因みに御者席と客席は区切られていますが伝声管で普通に会話可能です。
ノイズを除去する様に付与、細工をしているので風切り音や反響音も気になりません。
もう少ししたら郊外に出ますのでそこから街道脇にそれます、それなりに揺れますのでその際はお手数ですがワインとグラスはセラーにしまってください。
「分かった、しかし手加減してくれよ」
大丈夫です、横転しても命は保証します。
「物騒な返事だ(笑)」
それから15分程だろうか、準備ができたのでムーシカ達に合図、徐々に速度を上げていく。
ほどなくして最高速度に到達、俺から手綱を通してムーシカ達へ魔力を送り疲労軽減等の魔法を掛けながら最高速度を維持したまま走り続ける。
30分、60分、90分。
ここで少し開けた休憩場所に到着、以前と同じように減速せずにドリフトUターンを披露する。
ただし最高速度のまま減速せずにUターンしたので盛大な土煙を巻き上げた、人がいない事は目視で確認しています。
「おおおおう」
デデリさんなんか嬉しそう。
そうして折り返すと速度を維持したまま来た道に沿ってコルネンに向かって行く。
合計で2時間ほど、流石に最高速度かつ最大まで重量カサ増した馬車引いているとムーシカ達も疲れを見せてきた。
なので速度を落としムーシカ達にペースを任せ、デデリさんには「最高速での走行はここまでです」と知らせる。
「おう、分かった」
そう返事が来ると早速セラーからワインを出して飲みだしたみたい。
本当に楽しそう。
速度を落とすと言っても従来の馬車の2倍以上の速度で走り続け、陽が傾き始めるころにはコルネンに到着した。
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コロッセオに戻り下車、デデリさんに講評を頂く。
「良い馬車だ、とても良い馬車だ。広い客室に少ない振動とあれだけの静粛性。かなりの速度でもミシリとも言わない剛性・・・これも俺が1台注文しよう。だがその前にカンダル侯爵にも報告した方がいいな」
なぜでしょう?一応セリシャール様は報告するような事言ってましたけど。
「光学迷彩?はとりあえず無視するが、これが有れば村程度の人口数であれば魔獣襲来時の避難が容易になる」
なるほど・・・。
「馬車ではなくチャリオットにすればちょっとした物資なら積んだ状態で街道警備もかなり広範囲まで、短時間で行える」
そういう使い方もありですね。
「そして何よりこれが嫌いな男はおらんぞ?なあフォネル、お前はなんで今回の試乗を断ったんだ、理解できん」
同感です。
「あんな速度で走らなければ喜んで試乗しましたよ」
コロッセオに到着するとすぐに寄ってきたフォネルさんが苦笑気味にそう言います。
「でも馬車としての出来は隊長に同意します。値段次第では私も購入を検討したい、
でも馬車ともなると結構な買い物だからね、どうしようか」と。
・・・儲かりますかね?でもこれにつきっきりになる訳にもいかないし。
「設計図を渡してライセンス料を貰えばどうだ、付与が必要な部品だけクルトンから供給する様にして。車大工のメンツも守れるだろう」
なるほど、そうですよね。その方が良さそうだ。
カーボン繊維の再現とかは無理だろうけど、その辺の工夫は車大工の腕の見せ所だろう。
ではこれで試走は完了、もう一度バラして組み直し完成としよう。
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1週間後。
最終仕上げを施した馬車のお披露目を行う。
修練場の一角を長い事間借りしたお礼も兼ねて、希望者を募って騎士団員さんに試乗してもらう催しだ。
今回は無茶な速度は出さずにコルネン外周を回る遊覧みたいな物だと説明したら20人ほど集まってくれた。
実際はもっといたらしいが団内で調整してくれたみたい。
今回はフォネルさん、セリシャール様、パメラ嬢も試乗に手を上げてくれた。
まあ、開発時の様な無茶はしませんから。
御者をする俺を除いて5人×4回試乗を行う、この馬車のデモンストレーションから需要が刺激されれば理想的だ。
まだ話はまとまっていないが車大工職人への技術供与も視野に入れ、デデリさんが言っていたチャリオットの製作もしてみたい。
それでは最初の方からどうぞ
果実水とつまみになるラスク、ハム程度の簡単な肴を準備しているので楽しみながら景色でも見て寛いでください。
ムーシカ達は軽く走っているがそれはスレイプニル、車軸に使用しているベアリングの働きも有って従来の馬車とは比較にならないスピードで進み、乗車している人たちの予想より早く外周を走り切ってしまった。
2回目、3回目とサクサク試乗を進め、6回目は時間の都合が付く人へ再度希望を募り試乗を行う。
「この位の速度ならとてもいい馬車ね・・・曽祖父様が一台購入するって聞いた時は冥途に行く為かと思ってたけど」
物騒なこと言わんでください。
そこいらの馬車より頑丈で安全ですよ。
光学迷彩だけじゃなく、矢避けの付与もしたので長旅での野盗対策もバッチリです。
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