第89話 納品に行こう(道中3)
少々厄介な事になってどうしようか思案中の俺、クルトンです。
あれから2日、認識阻害は解いていないのだがあの狼達がずっとついてきている。
俺たちを捕捉してる訳じゃないのについてこれている。
それに気づいたのは2日前、出発してすぐ。
軽めの足音が3頭分、後ろに近づいて来たから。
2日間観察しているとたいそう頭の良い狼だと分かる。
まず俺たちが街道を進んでいる事を理解している。
そこから大きく外れないであろう事も。
大体は街道から50メートル程離れた場所を並走する形で俺たちについてきて、たまに街道に入ってきて俺たち、実際はムーシカの蹄の跡を探しては俺たちが間違いなく街道を進んでいる事を確認している。
やべえよこの狼、認識阻害の効果なんて関係ねえよこれだと。
俺だけなら認識阻害の恩恵で足跡も匂いも残さずに移動できるが、その効果範囲内に入っていてもムーシカは無理。
いやあ、盲点だったわー。
この狼ハンパねえわー。
このままだと人の生活圏内まで入り込んできそうだ。
どうしよう、普通に人に狩られてしまう未来しか見えない。
俺がなんとかしなければならないんだろうなぁ。
肉やっちゃったしなぁ。
意図せずに餌付けしてしまったようなもんなのかな。
こと狼の事となると他人事には思えない俺がいる。
弟のクレスが生まれる前、俺が拾われた事を教えてくれたあの日から父さんは事あるごとにその時の狼の話をしてくれた。
狼アゲの話しばかりだったので幼少期の俺の中では「狼は友達」って刷り込まれていた。
流石に今は無条件で猛獣の狼を友達とは思わないが、積極的に駆除したい害獣とも思えない。
腹を括り世話をするか・・・。
そう考えが傾いたのもまた狼達の足取りがおぼつかなくなってきたから。
頭の良い狼だから子供のためにも餌を与えてくれるボス的存在が今は必要だと感じたんだろう。
あそこまで弱っていて子連れ、しかも本来なら縄張りを出たりしないのに明らかにそこから離れているだろうに。
群から追い出されたのか、もう狩りも満足に出来ない状態なのかもしれない。
なんかもう情が湧いてしまった。
認識阻害を解いて一旦止まる。
ぐるっと辺りを見回してあの狼達がいるのを確認して、さらに遠くに目を向ける。
300メートル程だろうか、今使っている弓では届かない場所にウサギが3羽いた。
ムーシカから降りて括り付けてあるもう一式の弓を取り出す。
ヒヒイロカネ製の弓だ。
普通なら人力で射る事は無理だが俺は出来る。
しかもスキル使うのであればその結果を発現させる為に弓を引く過程は物理法則を無視することすらある。
つまり力を使うことなく、なんなら弦が張られていなくても射る事ができて、矢がちゃんと飛んでいく。
一応今回は矢をつがえ、しっかり弓を引いて射る。
ただしつがえた矢は3本。
その三本が弧を描くことなくまるでレーザー光線のように一直線に飛んでいき3羽いっぺんに首の根元へ突き刺さった。
少し待っていると血の匂いを感じたんだろう、狼達がウサギの倒れている方へ走り出し、すぐに獲物を見つけると咥えて俺のところまでやって来た。
俺の2、3メートルくらい離れた場所にウサギを置いて「クゥーン」とか腹を見せて服従のポーズ。
ああ、やっぱり頭が良い。
獲物を奪わずにこうすれば、
俺の庇護下に入れば安全で食いっぱぐれないのを分かっているんだろう。
あざと可愛い。
近づいてひと撫でするとウサギを前に置いてやり「食べて良いぞと」と促すが3頭共になんかちょっとシュンとしている。
鼻を近づけスンスン匂いを嗅いでいるがチラチラこちらを伺う様子。
焼いてくれって事か、そうかアレそんなに美味かったか。
でもチップを燻してやるのに時間もかかるしそれまで待つのも酷だろう。
まずは捌いて火を通すか。
血抜きの後に皮と肉、骨に分け差し当たり内臓は消化器系のみ食用として塩で揉む。
内臓含め肉はぶつ切りにしてステンレスの串に刺して下準備。
あとは石で簡易の竈門を作り中央に俺の魔法で火を灯す。
この火は魔力が続く限り燃え続けるので俺にとっては何気に便利。
薪を拾わなくても良いから最初に王都へ行くまで往路で一緒だった商隊の人たちからも羨ましがられた、魔力量に。
じっくり焼いていると肉の焼ける良い匂いが漂う。
野豚も美味いがウサギもなかなかで、この世界では女性なんかはゲン担ぎで子供を多く産むウサギの方を好んで食べる人も多い。
ようやく肉が焼けて串から肉を外して3羽は狼へ、俺の分は野豚のハムを同じく串に刺して焼き、朝に半分残しておいたパンと一緒にたべた。
狼の食いつきは凄まじかったな。
骨も軽く表面炙って渡したらバリバリ砕いて食ってた。
喉に刺さらないよう気をつけてな。
昼食はこうして終わったが3頭の狼は久々の食事だったのだろう、満腹ではないだろうがどこか安心しした様に見える。
子狼も親狼に寄り添ってウトウトしだした。
幸いまだ時間の余裕はある、ここでバッグから鞣した皮と糸、ステンレスの串を取り出す。
今のうちに首輪を作っておこう、飼い主がいることの証明とリードを繋ぐために。
何度も言うがとても頭のいい狼だ、ちゃんと人間の怖さ、狡猾さは既に分かっているだろう。
さほど丈夫に造らずとも目印程度になれば問題ないと思う。
俺の腕時計で15時を回る頃、ようやく準備が整い出発する。
勿論今度は3頭の狼と共に。
今日も野宿だな、どうせなら晩御飯用の獲物を狩りながら進もう。
ムーシカの後ろについてくる狼たちの足取りは今までよりも随分しっかりしていて、
そしてその首には俺が作った茶褐色の首輪が巻かれていた。
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