第90話 到着
楽しい旅もとうとう終着点まで来てしまいました。
これからが本番と気を引き締める俺、クルトンです。
王都に入る際、当然だが狼の説明を求められる。
狩りの為の猟犬代わりだと説明、躾も問題ないと門兵さんからお座り、伏せの指示を出してもらう。
俺が側にいれば、関係ない人間でも決められた通りの合図を出せばこの通りと、狼が3頭共命令通りに動くさまを見て「「「おおおーー」」」と歓声が上がる。
これで問題ない旨理解してくれたようで通してもらったところ、門外警備担当のスージミ大隊長が寄ってきた。
「おう、久しぶりじゃないか、とうとう狼の親分になったか(笑)」
お久しぶりです、いや、ここに来る道中で懐かれてしまって、それで情も湧いてしまって世話することにしたんです。
子狼が「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」とスージミさんの周りを嬉しそうにはしゃいで回っている。
子狼可愛い。
「おお、えらい人懐っこいな」
スージミさんも笑っていてまんざらでもない様子。
「で、早速王城に行くのか?」
いや、一度宿に行ってから今日は謁見の手続きを済ませようと。
そう、本来なら国王陛下はとてもご多忙でおいそれ会えないんです。
今までも向こうの都合に合わせて俺が呼ばれていただけですから。
「そうか、今回は騎士の先導は必要ないか?」
大丈夫です、手続きだけですから。
「ああ、じゃあな。帰るときは声かけてくれよ、門兵には行っておくけども」
あと、今度は貴族用の入り口から入って来いと言われた。
そんなのあるんだ、へー。
いつも通りピッグテイルの宿泊施設にチェックイン、「狼もいるんですが・・・」といったら「インビジブルウルフだしね」とか妙に納得されていつもより広めの部屋に通された。
お値段それなりだがここなら狼と一緒で言いですよと、床への粗相はしない様注意してねと言われて砂の入った大きな桶を準備された。
それからムーシカを修練場厩舎に預けないといけない事もあり、すぐに王城に向かいます。
当然狼と一緒です。
とは言っても・・・謁見の手続きってどこでするんだ?
今までは呼び出されてたから気にしてなかったが、よく考えたらそんな部署有るのかな。
分からないので修練場に行ってそこにいる騎士団の人に聞いてみよう。
やって来ました久々の修練場。
と、言う訳で今更で申し訳ないんですがどういった手続き必要なんですかね?
「ホント今更だな。でも仕方ないか、その感じだと騎士爵になる教育も受けていないんだろう?」
狼をワシャワシャ撫でながらそう言う騎士さん。
そんなの有るんですか?
「ああ、まあ一番多いのはそうだな・・・12歳から騎士の侍従として色々教わっていくというか主人の騎士から教育してもらうんだがお前は武功だけで騎士に成ったからなあ、そういうの結構珍しいもんな」
修練場に入ってすぐ、一番近くにいた騎士さんに聞いてみた。
お名前はアウレイトさん、30代前半で細身の長身だが盾とフレイルを巧みに使うなかなかの強者。
初見での対戦では必ず苦戦させられるタイプ。
基本騎士爵は世襲ではないので自分の息子を騎士にしたい場合は他の騎士の侍従にしてもらい武具の手入れ、野営時のテント設営、食事の準備など色々な仕事をこなしながら礼儀作法、戦闘方法を教えてもらう。
そして成人後に十分な力が備わったと判断されたらその領地の騎士団内で協議、領地持ちの男爵以上の爵位の貴族から叙爵されるとか。
ただし騎士団に籍を置く伯爵以上の爵位の持ち主にとって『騎士』の称号は王都の騎士という事。
因みにデデリさんとフォネルさんは『王都の騎士』でカンダル侯爵家の要請により出向してきているのだとか。
ややこしい。
ん?フォネルさんは男爵だったような・・・
「フォネル男爵は特別だ、精霊の加護持ちだからな」
マジで!いや、失礼。
そんなつもりで言ったわけではありませんよ。
パメラ嬢を手玉に取るくらいは強いですし、でもそんな雰囲気は全然なかったもんですから、威圧感とか。
確かに、とアウレイトさんも笑いながら合意してくれます。
「でも、そんな中でもお前は近衛だもんな」
ん、近衛?
「ん?だって国王陛下からの叙爵だったじゃないか、あの時の公開訓練俺も参加していたからよく覚えているよ。近衛の叙爵なんて俺達騎士爵は普通見れないから感動したもんだ」
ま、まあ、それは良いでしょう、聞かなかったことにします。
多分勘違いだと思いますし。
それで窓口はどこですかね?
「陛下への謁見申し込みは基本近衛騎士団の広報部門が窓口になっている、クルトンがよく話しているアスキア殿に対応してもらえばいいんじゃないか?」
そうなんですね、有難う御座います。
広報部門の事務所?の場所を教えてもらいそこに向かいます。
王城内になる近衛騎士団広報部門の事務所前まで来ました。
扉をノックします。
「コルネンのカサンドラ工房所属のクルトンです。あ、一応騎士です」
なんか間抜けな言い方になってしまったが、ほんの少しの時間の後に内側から声がするのと同時に扉が開いた。
「どうぞ、お入りください」
かなり身長の高い女性が扉を内側から引き俺を招き入れる。
中に入るとカウンターが有り、仕切られたその奥にデスクが10前程並んでいて皆書類仕事をしていた。
お、アスキアさんもいる。
「どういったご用件でしょうか?」
先ほどの女性が俺に問いかけ、
国王陛下への謁見の申請に来ましたと告げる。
入室時に告げた俺の名前と、今の用事にピンときたようで
「アスキアを呼んでまいりますね」
と呼んできてくれる。
あ、先にアスキアさんが気付いてこちらに来てくれた。
「クルトンさん、ご無沙汰しています。謁見の申請という事はもう完成したので?」
途中から音量を落としてアスキアさんが聞いてくる。
ええ、それで納品と内容の説明、最後の仕上げをしたくて。
「でしたら謁見ではなく内謁で申請しましょうか、その方が格式張らないですし申請も承認されやすいでしょうから」
でしたらそれでお願いします。
「じゃあ、申請書類持ってきますのでちょっと待っていてください」
心なしか声が弾んでいるアスキアさん。
とうとうこの仕事も物語で言う終盤にさしかかった。
大団円に向かって行く一歩手前、幸せなエピローグが歴史に刻まれる様に仕上げにかかろう。
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