第91話 形にする思い
申請から4日後、ようやく内謁の日になりました。
ちょっとおめかししている俺、クルトンです。
ムーシカが引く王家の紋章入り馬車が俺の宿泊している宿まで迎えに来た。
うん、馬車の格を上げる為スレイプニルに馬車を引かせたいとの王室からの要望、依頼で俺が貸し出した。
俺が貸し出した俺のスレイプニルが引く馬車に乗って登城している道中です。
ダメもとで「狼も一緒」って申請したら許可された。
なので馬車に一緒に狼も乗ってる、良いのかな・・・。
運んでいる物も大層な物(陛下が下賜する腕時計)なので乗馬した8人の騎士が馬車を警護しながらの登城である。
良かった、一張羅作っておいて。
いつもの革の軽鎧だと馬車にも乗せてくれなかったかもしれない、マジで。
おめかしといっても上等な生地を使って仕立てた襟のついた服にボタン、カフスなんかを貴金属で拵えた物を付けているだけなんだがね。
一応ボタンとカフスには狼を意匠で刻んだ、カッコいい。
パカラパカラと城に向かい街を通過していく。
以前と違って馬車から景色を眺める余裕もあり意外と楽しい。
こうしていると馬車も作ってみたいなとふと思う。
キャンピングカーみたいなコンセプトの馬車でムーシカ、ミーシカのスレイプニル2頭立てなんかしたら結構快適な旅ができるんじゃないかな。
なんかワクワクしてきた。
絶対作ろう、家族でコルネンまでの小旅行なんてできたら楽しいだろうな。
夢が広がる。
こんな妄想をしていると王城に到着、王家の馬車なのでスルーで門を通りぬけた。
内謁だが控室は以前と同じところに通された。
またメイドさんが6人もいる、未だに慣れない。
「何なりとお申し付けください」
と、言われお茶と茶菓子を出され、ちょっと深呼吸。
狼と一緒だからメイドさん達怖がるだろうなと思ったら滅茶苦茶モフッてる。
3頭共腹出してゴロゴロしてる。
あるえぇ・・・。
聞くところによると内謁とは言ってもやる事は陛下の執務室での面会らしい。
丁度お茶も飲み終わった頃、秘書みたいな女性が部屋に来て「それではこちらにどうぞ」と執務室まで案内してくれる。
狼は未だにモフられているのでこの場で待機だ。
促されるままに部屋に入り、部屋の中央テーブルを挟んで陛下と面談。
「よく来た、待たせてスマンの。まあ座ってくれ」
いえいえ、とんでもございません、では失礼して。
「祝いの品が完成したとの知らせを受けたが早速見せてくれ」
「はい、こちらになります」と専用の皮手袋をはめてカバンの中から箱を取り出し、中に入れてある深緑の腕時計ケースを陛下の前に置く。
そして蓋をそっと開き腕時計が見える様に陛下にケースごと差し出した。
「・・・触っても良いか?」
どうぞ
そっと腕時計を持ち上げ目の前で凝視している陛下。
「付与内容を説明してもらおう」
そこでカバンから今度は取扱説明書を取り出し陛下に渡し
「これの内容に沿ってご説明いたします」
そう、告げると表紙を捲って各部位の名称、時間調整方法など、時計の基礎的な取り扱い方法を説明してから魔法付与の内容に触れていく。
チェルナー姫様が我々と同じように生活できることを主目的として付与を施したことを説明。
内容は解毒、日焼け止め、身体強化補正、循環器系や消化器系含む内臓に関わる能力の底上げなどの代謝能力の向上等々、依頼の通り盛れるだけ盛った。
特に解毒と日焼け止めには力を入れた。
魔獣は美味いとよく言うがその美味さは何なのかと調べてみると、前世で言う『毒』が旨味の正体。
魔獣でなくても通常の食材にも普通に毒が入っている。
俺達『新人類』は全く問題ないが『来訪者の加護』を持つ者には耐えられないのだろう。
結果的に毒の無い、又は少ない俺達からしたら味気ない食事しかとってなかったと聞いた。
美味しくもない食事しか食べれないのは本当に悲しいのでこれを解決する為に内臓の機能を上げて解毒するのではなく、毒を摂取したらそれを検知、直接解毒するようにした。
そう、いつでも解毒魔法が発動する様にスタンバイしている状態。
これで美味しく食事がとれる、間違いなく。
次に日焼け止め。
チェルナー姫様など『来訪者の加護』を持つ者は日光に当たるとすぐに肌が赤くなるそうだ。
毒の件もあり、この世界の紫外線は俺が思うより、前世の日本よりもかなり強いのではないかと推測。
外に出る時、顔を含めた全身を覆う黒いベールを着用すれば問題ないとも聞いたから。
これには体に膜を張る様に結界を展開、この結界には光の波長の短い不可視光線、つまりは紫外線を乱反射させる機能を盛り込む。
結果、肌に到達する紫外線量が減り屋外でも活動できる様に調整した。
この機能の検証で黄色の塗料を塗った紙を西日の差す窓辺に3か月ほど放置し、その色の飛び具合を検証したところ、少なくとも肉眼では色の飛びは分からなかったので9割以上は紫外線減衰してるんじゃないかな、多分。
王族の『来訪者の加護』を持つ者として初の外遊も視野に入れ念入りに付与を施した。
「・・・と、これらの付与術式を5重に施し、何かの事故で一つの術式が効果を発揮できなくなったとしてもスペア術式にすぐさま切替わって機能停止に陥る可能性を出来るだけ減らしました」
一番拘った機能です。
将来の拡張機能の余白を残したうえで腕時計のスペースギリギリまで機能維持の為のスペア術式を詰め込みました。
限界は確かに有りますが、今できる万が一に備えた最大限の保険です。
「なお、魔素を魔力に自動変換する機能が付与されていて、通常はそれをエネルギーとして常時術式が起動しています」
「魔素のかなり薄い場所であったり、何らかの異常で正常に働かなくなった場合はケースとベルトに充填してある魔力を供給します」
うんうんと頷いている陛下。
「ただし強すぎる付与は病弱とお聞きした姫様のお体が耐えられない場面が生じるかもしれません、なのでお体を直接強化する付与は補助程度に、解毒や日焼け止めなど原因に直接作用させる付与は強めに調整しています」
「分かった、正直良く分からん話もあるが、成人の祝いの品としてはこれ以上ないものが出来上がったという事で良いのだな?」
おっしゃる通りでございます。
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