第92話 現実逃避

引き続き国王陛下へ腕時計の説明をしております。

こんなに真剣な陛下を見たのは初めてでちょっと戸惑っている俺、クルトンです。


次に使用した素材の話をします。

これは説明というより報告で、流石にこのタイミングで伝えておかないとまずい案件てんこ盛りですので。


「それでですね、使用した素材なのですが・・・」

ステンレス鋼、クロムバナジウム鋼、青銀、魔銀、ヒヒイロカネ、アダマンタイト、オリハルコン、ダイヤモンド、ブラックダイヤモンド


「ちょっとまて、アダマンタイト、オリハルコンは聞いておる、倉庫からの払い出しとその使用許可の申請書に儂もサインしたからのう。しかしダイヤモンドはどこに使っとるんじゃ?」


「はい、こことここがダイヤモンドで、このケースとバンドをコーティングしている暗色のガラスっぽいのがブラックダイヤです」

言われないと気付かないさり気なさがイカスでしょ。


ずっと空気に徹していた秘書さんが「え?」って声出した。


「何バカな事言っておる・・・本当か?ロルシェ、宝石の鑑定士を呼べ、大至急だ。この命令でその者に損害が生じたら儂の資産から補填して構わん」


秘書さんの名前はロルシェさんですか、そうですか。


すぐさまロルシェさんが外にいる衛兵さんに伝令を依頼、当人も部屋から出ていきました。


鑑定士が来るまでオリハルコン、アダマンタイトの加工機を製作した旨も報告。

それを一旦カサンドラ工房に貸し出している事も併せて説明しているとドアがノックされ室内に待機している衛兵さんがドアを開けロルシェさんと鑑定士の人だろうカイゼル鬚を生やした小っちゃいおっちゃんが入ってきた。


「お呼びとの事で参りました。宝石鑑定士のニココラ・コールマンでございます」


「うむ、いきなりでスマンのう、早速だがこれを見てほしい。こことここに宝石を使っているとの事なのだがそれが何か分かるか?」

「おお、慎重に取り扱ってくれ」と陛下。


ニココラさんが絹かな?手袋をはめて腕時計をガン見している。

その後そっとケースに腕時計を戻すと、腕を組んでうなりだす。

何事?


「陛下、恐れながらこれは時計でございますか」


「おお、そうだ。見事な物だろう?」

ニコニコしてる陛下。


「こんな事を申し上げるのはどうかと思いましたが・・・あえて申し上げさせていただきます」


「何じゃ?」


「陛下、国を売ったのですか?」


「「?」」




「それ程の物ですよ、まず間違いなく表と裏の透明な部品はダイヤモンドです」

静かに説明しているがニココラさんの目力がハンパない。

カイゼル髭も鼻息でなびいてる。


「そして表面のこの暗色の宝石、これはブラックダイヤモンド。かなり薄いようですがこれほどまでに薄くするとは!なんという加工技術!どれだけ削ったのだ!幾ら無駄にしたのだこの職人は!」

いや、削ってません。

ってか褒めてるのかディスってるのか分かりません。


「そして双方ともこの純度・・・傷も全くない・・・初めて見ました完璧な結晶・・・故に無駄に削った職人が憎い!いや、削っているのに傷が無いなんてどうやって研磨したのか・・・」

いや、本当に削ってませんって、炭素積み上げてったんですよ。


陛下も「マジかぁ」とか目のハイライト無くなってます。



「ドッキリ成功!(´∀`)b」

「「そういう事じゃない!」」

二人からキツめに突っ込まれた。



「のうクルトン、手を抜かずお前の力をいかんなく発揮してくれたことはこれ以上ない位に感謝しとるんじゃ。本当にそう思っておるよ、来訪者に誓っちゃってもいいよ。でもやりすぎたとは思わんかったか?製作途中で止める者はおらんかったのか?カサンドラ工房の奴らの中に」

はい、全然。

皆ノリノリで作業しておりました。

何なら腕時計とまではいきませんが懐中時計を開発中でじきにお披露目されると思います。


「そうかー、ならしょうがないのー」

そうです、しょうが有りません。

この事業には姫様のお命がかかっていると言っても過言ではないのでしょう?

その為に私は自分の能力を出し惜しみすることなく全力で取り組みましたよ。


「それを言われると返す言葉もないのう、うむその通りじゃ」

吹っ切れたご様子。


「しかし材料費だけでもかなり足が出たんじゃないのか。大金貨500枚じゃったろう、全然足りんのう」


大丈夫です、自前で準備した高額な材料は希少金属のミスリルくらいですし。

ヒヒイロカネは購入しましたけど問題なく予算内です。


「いやいや、ダイヤモンドは?ダイヤモンドですよ、あれだけ大きくて高品質の物なんて!」

未だにニココラさんのカイゼル髭が鼻息で揺れてる。


「そうよのう、そもそもそのダイヤはどこから調達したのじゃ。鉱脈発見したなら国へ報告しなければ犯罪じゃぞ」


自前で製作しました。

「「ん?」」


「もう一回言ってくれんか」

自前で製作しました。


「・・・そうかー、自前でかー」

「陛下!そんなことはあり得ませんぞ!希少金属と同じで宝石の製作など。錬金術はまやかしだと太古から言い伝えられておるではありませぬか」


「そうじゃな、ではクルトン、説明してもらえるか」

はい、しかし製作工程を見て頂いた方が早いでしょう。

材料を準備して頂きたいのですが宜しいですか。


「分かった、何を準備させればいい」


はい、薪を一抱え程。



「「薪?」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る