第93話 スキルの力
薪を用意してもらっている間にこちらの準備の為に携帯用金床をムーシカに取りに行く。
これから起こるであろう事の着地点をどこに持って行った方が良いか悩んでいる俺、クルトンです。
前世ほどではないにしろこの世界でもダイヤは高価な宝石。
それをスキルありきとはいえ本物と寸分違わない素材として製造できるヤバさを公表しないといけない。
腹を括ったとはいえ宝石業界への影響を考えると一般公開は慎重にならざる得ないだろう。
まあ、対応は国に丸投げするけど。
執務室に戻りすでに準備されている薪を確認、養生の為のマットを敷いて携帯金床に置く。
金床である必要はないのだけど、『作業台』などの道具に相当する物が一つあるだけで効率が全然違う。
これから振るう力がゲーム内のスキルだからなのだろう。
「ではダイヤのもとになる材料を精製します」
そう言って薪に触れて魔力を込めながら炭素のみを抽出。
見た目は完全に木炭が出来上がるが大きさは当初の4分の1以下になっている。
これを準備された薪分すべて行いさらに粉末状に加工。
ここまで陛下とニココラさんはじっと見つめたままで一言も発しない。
・・・先に進めます。
念のために5種類のダイヤを作ります。
ここでも力の出し惜しみはしません、お披露目する今できる最大限の能力を使って俺の力を正しく認識してもらいます。
国家元首たる国王陛下の目の前でそれを証明すれば、これから発生するかもしれない仕事の障害もかなり減ると確信して。
炭素のみで形成される所謂代表的なダイヤモンド(カラーレス)。
炭素から黒鉛を製作、それを内包した炭素の結晶ブラックダイヤモンド。
ダイヤの中ではかなり安価な部類だが天然石しかないこの世界ではそれなりに高価。
空気中の窒素を抽出して炭素と一緒に形成したピンクダイヤモンド。
これは物凄く人気らしい。
同じく窒素を含むがピンクダイヤモンドとは違う分子の構造から強く赤色が発色するレッドダイヤモンド。
ダイヤの中では一番高価
レッド、ピンクダイヤと同じ窒素を使うが特定箇所の炭素原子が欠落する事で緑色を発色するグリーンダイヤモンド。
珍しさで言えばこの中ではこれが一番との事。
大きさは20カラット程度(大きさは揃えたが適当)を作り出す。
これだけの大きさだと指輪にするのもどうかと思ってサンプル様にとオーバルカットの形状に整えている。
「完成しました」
腕時計のケースを閉じてそのわきに布を敷き5種類の各ダイヤを並べて置きます。
慣れたと言ってもここまで2時間近くかかったでしょう。
国王陛下、ニココラさんはその間ずっと黙って作業を見ていた。
「ニココラ、これをどう思う?」
「・・・まずは鑑定させてください」
陛下からの問いかけに鑑定の審議を確認してからという事だろう、ニココラさんが各々のダイヤを手に取りおそらく技能を発動して鑑定している。
じっくり時間をかけ5個すべての鑑定を終えた後に
「間違いありませんな」
と答える。
「信じられませんがすべてダイヤモンドです、しかも5個中4個はカラーダイヤでカットの技量も申し分ない・・・いやはやこんな物を鑑定することになろうとは」
「と、なると」
「目の前で見ていたのです、疑いようもありません。未だに信じられませんが」
ふうと息を吐き陛下が話し出す。
「とりあえず今この部屋にいる者はこの事を口外することを禁止する。何れ公開することになるだろうがそれまでこの情報を漏らすことはならん」
「「「はっ」」」
陛下以外すべての人が返事をしました。
壁の外側からも聞こえたよ、そこに人居るんだね。
「それでどういたしましょう。今さらですがこれほどの物の情報を秘匿して保管するなど新たに別予算を計上して倉庫を確保しないと現実では不可能でしょう」とニココラさん。
宝物庫だけでなく食料庫、武器庫等々必ず在庫管理の為の目録が作成されているらしい。
出ていく分だけでなく納めた物も必ず記録される。
かといって陛下が個人で保管するわけにもいかない。
国と国民の財産を守る事は国家元首の責務だが、所有者を明確にしないままクルトンがホイホイ作ってしまったせいで宝石を守る為の前提になる口実を見つけられない。
いや、公表してしまえば簡単にできるのだが、小国の国家予算レベルの宝石が一人の男によってほぼ制限なく量産できる現実を考慮し、業界への、しいては税収、国庫への悪影響を抑える為の口止めの意味がなくなってしまう。
「そうじゃのう・・・クルトンいい案は無いか?」
「面倒事になるならもとの材料に戻しましょうか?炭素・・・あの黒い粉に」
「「なんてことを!!」」
ニココラさんとロルシェさんが同じリアクションで声を上げます。
「私が製作しましたが材料の薪は準備して頂いたものですから木炭に戻しても良いんですけど」
「面倒事は片付くのでしょうがこれほどの物です・・・お願いです、何とかなりませんか」
泣きそうな顔でニココラさんが懇願してくる。
・・・俺が持ってればいいですかね?
皆の首が縦に揺れる。
・・・無くしても構わんのでしょう?
皆の首が横に揺れる。
そうですか、金庫でも作って保管しておきましょう。
一つ一つ違う布にダイヤを包み、バックに入れていく。
その間ニココラさんが
「ああ傷が」とか「そんな適当な扱い・・・」とか言ってたが知りません。
「しかしのうクルトン、カラーダイヤの作り方なんぞどこで得た知識じゃ?以前から思ってはおったが平民だったお前がどうしてこれほどの知識を知り得る事ができた?」
まあ、不思議でしょうね。
どう答えた物か。
悩むまでもない、そのまま答えよう。
「信じて頂けるかは別としまして、正直申し上げて物心ついた時からぼんやりと記憶の底に知識が沈んでいる様な感覚が有るのです。必要な時にその記憶を引き上げると言いますか・・・」
ほうほう、と興味津々で聞いている陛下。
「今回のダイヤモンドで言えば知識はありましたがかなり曖昧なのです、欠落している知識も多くあったでしょう。でも完成状態を思い描き技能に任せて力を、魔力を使うと世界が足りないところを穴埋めしてくれるようなのです」
世界が辻褄を合わせる様に補完してくれる、この世はこの様に都合の良い、曖昧な世界のようなのです。
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