第115話 帰路
今日は故郷の開拓村に帰省する日です。
ちょっと朝から心が浮ついている俺、クルトンです。
まだ1年しか経っていませんが目標額も貯まったので一度報告に戻ります。
お土産も準備したし今から楽しみだ。
狼達と一緒に厩舎に向かいムーシカ、ミーシカを連れ馬車まで行く。
マーシカは以前からほぼパメラ嬢が占有してしまっているので今回は置いていきます。
訓練場に置いてある馬車にムーシカ達を繋ぎ、そのまま馬車で下宿先のパン工房に戻る。
王都への呼び出しとか留守にする日も多くなってきていたから省力化の為に魔力で回る石臼も作った。
これで揚げパン用のきな粉を作る手間も少なくなるだろう。
アイスクリーム用の保冷庫も既に製作、渡してあるし窯への火入れ以外は以前より楽になっているはずだ。
準備していた荷物を積んで忘れ物が無いか最終確認。
ベルケお爺さん含め叔父さん一家からの手紙も預かりそれも間違いなく持っている。
うん、大丈夫。
準備が整い叔父さん達に出発の挨拶をする。
「レビンたちによろしくな、たまには顔を見せろと言っておいてくれ」
はい、分かりました。
2週間後に帰ってくる予定でいますので何か俺宛に訪ねてくる人が居たらそう伝言お願いします。
「では行ってきます」
コルネンに来て凡そ一年、村は変わりないだろうか。
クレスは、イフ、エフは大きくなっているんだろうな、本当に楽しみだ。
・
・
・
通常の馬車なら2日掛かる道のりも、順調に進み昼ちょっと前には村までの距離半分を超えた。
少し早いがお昼ご飯を食べて午後も頑張って進もう。
この調子なら陽が沈む前には確実に到着するだろう。
昼食以降は狼達は馬車に乗せたので心持ち午前中より速度は上げているが至って順調。
何回か行商の馬車とすれ違うものの、俺の馬車はスレイプニルの馬力と馬車その物の頑丈さでかなりの衝撃を受けても問題ないから道を外れて譲る。
車輪がスタックしたとしても何とでもなるからね。
そうしてトラブルも何もなく進んでいる。
普通はこうだよな、今までいろいろありすぎたんだ。
ムーシカ達もかなり頭が良いので俺があれこれ指示しないでも自分たちでペースを調整、判断して走り続けている。
御者席に居る俺はする事も無くかなり楽ちんだ。
そんなもんだから色々考えてしまう、妹たちの嫁入り道具や持参金の件。
貯めたお金で家畜の準備もしようとしていたがどうしようか。
陛下からの依頼もあるしスレイプニルとはいかないまでも探索ついでに野生種の騎乗動物を捕獲しても良いかもしれない。
あまりに特殊な動物では維持管理も難しくなると思うから・・・そう考えるとやっぱりロバや牛、普通の馬が良いのかな。
馬なんかは所有しているだけで結構なステータスだからそれで充分かもしれない。
他に山羊や羊ならそこそこの数でも問題ないだろう、豚も良いな美味いし。
後は何かな、当初の目的とは違うがクレスが嫁を貰う様になればその返礼品が必要になるか。
お金は大きな都市以外だと思ったほど融通が利かないから品物でお返しした方がいいよな・・・。
やっぱり家畜かな、相手方の家業が農業なら農機具でも良いかな。
俺が作るステンレスの鋤とか鍬なんか結構喜ばれると思う。新品の金属製品の購入は行商人にお願いするのが殆どだから運搬費用も上乗せされて結果良い値段するからね。
舗装されていない村の中で使うために大きめの車輪を付けた台車とか有ると便利そう。
いや、それもあるけどナイフ、鍋、フライパン、鉄瓶なんかの金属製品や木製の桶や樽なんかも足りていなかったよな。
この世界にはバスタオルなんて無かったから手ぬぐいみたいな布で体拭いてたし前世の生活と比較すると日用品でも品質を上げたい物が色々ある。
ああ、実家も建て直した方がいいな。
何かあった場合、具体的には魔獣に襲われた場合を考えて開拓村の家は放棄すること前提で建てられてたから結構貧相なんだよな、大きさはそれなりに有るのに。
魔獣でもビクともしない、耐震、防火も考えて木材と石材両方使って。
それなら浴室も最初から作ってしまおう。
近くに温泉も湧いていたからそれなりに掘れば家にも温泉湧くんじゃないかな。
運良く温泉に当たれば沸かす手間も無いし・・・夢が広がる。
ああ、考えがとっ散らかるが何だかそんな事も楽しく感じる。
村を出て約1年、当然だが俺も19歳になった。
前世で言えば会社の社長と言える立場も手に入れたし、公に喧伝はしていないものの責任ある大きな仕事もやり遂げた。
最も下の爵位だが直接陛下から騎士爵を頂き、王族、公爵、侯爵、伯爵、男爵様などへの伝手も出来た。
その貴族様達からの注文も現在抱え、正式に発表されてはいないが陛下肝いりの騎乗動物の捕獲、繁殖事業も任されている。
ご都合主義全開の展開とも思えるが、よくよく思い返せばこの頑強な肉体が有ってこそのこの成果。
普通の人間なら死んでいただろう事は一度や二度じゃない。
物心ついた幼少期からのトレーニングが身を結んだんだと思う。
目的を定めずにただ漫然と日々を過ごしていたら得られなかったものばかりだ。
・・・いや違う、運が良かったんだな。
この身体で生んでくれた両親、育ててくれた両親、そしてその間を繋いでくれた狼達。
本当に運が良かっただけなんだ。
確かに人一倍努力はしたがそんな人間は他にも沢山いる、それに溺れちゃいけない。
多分、これからは予想もつかない事に抗い、立ち向かわなければならない時も有るんだろうから。
きっと有るだろうから備えはしておこう、後悔しない為にも力の出し惜しみなんてしない。
そうして皆で幸せになるんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます