第114話 宝石鑑定士の休息

話しをまとめると至ってシンプル。

力で解決してもらう事にした俺、クルトンです。



その無茶を言ってきている貴族様への返事は『インビジブルウルフと戦え』と伝えてもらおう。


「どどど、どういった理由でこのような話になるのでしょう?」

少しニココラさんが混乱している様なので説明しよう。



まず、実績として王族との結婚が確定している事、インビジブルウルフとの模擬戦で生き延びた事、この二つの内どちらかの条件を満たしたときに俺があのダイヤを譲渡しています。

結果的にですが。


「なるほど、そういう事ですか」

え、もう分かっちゃいました?俺説明しなくても分かっちゃいました?


「つまり『インビジブルウルフ』との模擬戦で生き延びることを条件とするわけですね、絶望的ですな」

オウム返しの説明ですがその通りです。


あのダイヤモンドについての正式窓口は『インビジブルウルフ騎士爵』、ニココラさんは『たまたま』事情を知っていた、という事にしてしまいましょう。

無理やりにでも、そうした方が後腐れないと思いますし。

何しろ実績、前例が有るのですからそれに従えという事で押し通しましょう。


もしそれを受けるのであれば魔獣の頭蓋骨をかぶった『インビジブルウルフ』が模擬戦を受けますので。


「そうですな、クルトン卿の・・いや『インビジブルウルフ』のお力なら無理も通せますな」


なんだかカイゼル髭も『ピン』としてきた。

解決に向かいそうで安心したんだろう。



そうだ、せっかく来てくれたんだ。

今のうちに注文を聞いて作ってしまおう、ダイヤモンド。



「あ、いや、お願いはしましたがこんなにすんなりと・・・護衛も十分ではないのですが、どうやって持ち帰ろうか・・・」

頭を抱えるニココラさん。


あの後、用意してほしいダイヤモンドは何かを聞いていつも通り薪を準備、製作した。

通常のダイヤとレッドダイヤ、ピンクダイヤの3種類。

大きさは2カラット強と言ったところだろうか、カットは何とかブリリアントって言うんだっけか、あの有名なカット。

指輪用で10個ほど作り置きしていた外装箱、あの手のひらに乗る位の大きさで蓋がパカッとする奴に1個づつ詰めて渡します。



それで当然と言うかニココラさんが王都までの復路の護衛を気にしだしたので、ちょっと騎士団に行って王都に向かう任務がないか聞いてみよう。





コロッセオにニココラさんと移動、王都まで行く騎士団の任務が無いかフォネルさんに確認してもらいました。


「確か来週で良ければあるね、深層魔獣のサンプル運搬と学者連中の護衛任務が。一時的に隊に編入させようか?」


「大変助かります。宜しくお願い致します」

カイゼル髭を靡かせホッと胸を撫でおろしています。


運ぶ物(ダイヤ)が物だけに出発までの警備も考えフォネルさんが気を聞かせて団員宿舎の空きを手当てしてくれたのも有難い。



話しもまとまった事ですし護衛の方も一緒に今晩食事でもどうですか?

近場の食事処なのですけど、と誘いましたら

「喜んで!」

との返事。


今回の騒動の責任の一端は俺にもあるのでご馳走しよう。

そんな洒落た物はないんだけど美味い店だから大丈夫だろう。



今晩の会場は下宿のパン工房からもほど近い食事処『ダンデライオン』

この店、初めてだと少々単価高めに感じる人もいるが味とボリュームを考えればコスパはかなりいい店だと思う。

ワインもエールも薄めてないのもあって職人の人達に人気の店だ。


それで俺、ニココラさん、護衛の4人、そしてなぜかアイザック叔父さんとカサンドラ親方も一緒に飲んでいる。




「いやー、甥っ子がご迷惑おかけして本当にすみません」


「いえいえ、今回など私共の力不足で却ってご迷惑をお掛けしたところでして・・・・」


「あいつは吹っ切れると手加減しねえからな」



初対面なのにニココラさんとアイザック叔父さん、カサンドラ親方はすぐに打ち解け、楽しそうに談笑している。


護衛の人達も最初は「え、インビジブルウルフ卿?え、本物?」とか言ってたけど飯の旨さも相まって今は話に混ざってリラックスした様子。


俺はと言うと招待した側なので、料理や酒の選別、注文を含め楽しく飲んで貰う様にホストに徹する所存。


(今は)金ならある。

これからはこういった生きたお金の使い方もしていかなければ。


アイザック叔父さんは店の都合で早めに引き上げたが、ニココラさんと親方は騎士団宿舎の門限に間に合う時間までそれは楽しそうに宝飾品の話で盛り上がっていた。





翌日から出発までの間、ニココラさんは何回か俺の作業場に足を運び作業を見学、サイズ調節機能付きの銀の指輪を2個注文してきた。


なんでも二人の奥さんへのプレゼントなんだそうな。

そう嬉しそうに話し出すが、第一夫人とは結婚して15年、第二夫人とは9年経っているにもかかわらず未だ子宝に恵まれていないとの事。

この話をする時のニココラさんはちょっとしょんぼりしていた。


意匠が決まればスキルの恩恵をフルに受け1個/日程度で十分仕上げられるので、サイズ調節機能の他にサービスで奥様達の為に疲労軽減機能も付与しておこう。



そして注文の指輪2個を納品するときになって、もう一つ作っておいたステンレスの指輪を渡す。

「あと、ニココラさんにはこの指輪をプレゼントします」


「え?あ、ありがとうございます。しかし宜しいのですか」


はい、奥様と一緒の時にこれを付けてください。

男性ホルモンが強烈に分泌されるはずなので奥様と一緒の時にしかつけないでください、絶対に。


「男性ホルモン?はあ、承知しました」

(多分)禿げるけどな!!



そして出発の日、騎士団に混ざり王都への復路に就くニココラさん。

俺と叔父さん、親方が見送る中、元気に帰って行った。



この半年後にニココラ氏の妻二人がほぼ同時に懐妊、そして元気な子供が無事産まれる。


後に第三夫人も娶り、更に兄弟は増え続け成人した子供達総勢12人はニココラ氏の商会を今以上に発展させると共に、(後に産まれるクルトンの二人目の弟)ラスクルが諜報活動を行う際のサポート組織として機能、活躍していった。


これに携わるニココラ氏の子孫達は『ウルフパック(群狼)』と呼ばれ、民間組織でありながら国内治安維持の一端、諜報と兵站を担う重要な組織として認知されていく事となる。

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