第116話 揺蕩う幸せ

村が見えてきた。

実家に帰るのにちょっと緊張している俺、クルトンです。


遠目では何も変わっていない様に見える、それが何故かホッとする。

村に近づいてきたので馬車の速度を徐々に落とす。

カラカラと道の砂利を巻き上げる車輪は轍に取られることも無く進み、とうとう村に到着。

木の柵で作られた入口を通っていく。


この柵も大分傷んできたな。



「おかえり、クルトン。」

柵に目線を向けていたら、そこで待っていた父さんからそう言われる。

・・・ただいま、父さん。


村の入り口で笑いながら迎えてくれた父さんは少し小さくなったように感じた。

1年しかたっていないのに。



「おかえりなさい、どうしたのその馬車!それスレイプニルなの?。カイエンさんの言ってた事は本当だったのね!」

ただいま、母さん。

ちょっとカイエンさんが何を言ったのか気になるな(笑)


「ちょっとナニ、この子達!」

「可愛い~!」

狼達も何気に愛想振りまいて妹たちに取り入っているようだ。

あざとい。


「・・・スレイプニル、2頭も。すげえ」

実はもう一頭いるんだぞ、事情が有ってコルネンに置いて来てるけど。



「おい、そろそろ家の中に入れ。馬車を止める事も出来んだろう、始末がつかんぞ」

父さんから急かされ皆家の中に入る、俺は馬車からお土産を降ろす作業。クレスも手伝ってくれてる。


こんな事を言うのは何だけど皆1年見ないと変わるもんだな。

母さんは少しふっくらしたようだし弟、妹たちはかなり背が伸びた。

俺も変わったのかな。




家の暖炉には晩御飯のシチューが掛けられていたので、テーブルの上に五徳を取り出し炎の魔法を発動、鉄瓶を置きお湯を沸かす。

王都から買ってきた茶葉を俺が砂から抽出したガラスで拵えたティーポットに入れ、沸いたお湯を注ぐとフワッと香りが立ち上る。


「良い香りねぇ」

そう言えば母さんはお茶が好きだったな。


皆のカップへお茶を注ぎ、ラスクの入った箱を開けてテーブルに置く。

一通りの準備が終わり「お茶でも飲みながら」とコルネン、王都での出来事を話していく。


「へー!兄さんが騎士様だなんて本当だったのね!」

おう、国王陛下から直々の叙爵だぞ?、かなり珍しいらしいぞ?

「なんで『?』なのよ(笑)」

証明するような物は何も無いからな!


「はあ~王都民なんて夢のようねぇ、兄さんを袖にした村の女たちの顔が見ものだわ」

コレ、そんなこと言うんじゃありません。

「良いじゃない、あの娘たち兄さんの事になると途端に黙るのよ。まるでお伽話のオーガの様で恐ろしいって、失礼しちゃうわよ」

ちょっと待て、俺が泣きそうだ。



「スレイプニルにグリフォン、いいなあ・・・僕も乗ってみたい」

明日スレイプニルに乗ってみるか?馬具も積んできたから明日にでも。

「本当!ああ、楽しみだなぁ」


「本当に美味しいお茶ね、かなりいい値がしたんじゃないの?こんなに無理しなくてもいいのよ」

大丈夫だよ、母さん。

これでも皆を養っていける位の稼ぎは有るんだ、何ならクレスをコルネンの高等学校に通わせても問題ない位だよ。



晩御飯は俺が持ってきたマルケパン工房のパンを出し、さっきまで暖炉で煮込んでいたシチューを食べる。

その間、その後もずっと皆が俺に話の続きをせがみ夜が更けていく。


行商でやってくるカイエンさんから大まかな話は聞いてた様だったが、特に王都での公開訓練なんかの話は初耳の様で特に詳しい話をせがまれた。


父さんは相槌を打つだけだったけど、お土産のウィスキーをチビリチビリ飲みながら叔父さんからの手紙を読んで始終ニコニコしていた。


魔獣の話になると母さんが泣きそうな顔で俺を見る、この話は軽めに話したつもりだけどやっぱり心配なんだろう。

大丈夫だよと笑ってもその表情は変わらなかった。



「そう言えば」と、『インビジブルウルフ』の家名を陛下からもらった事も話すと

「家名持ちか・・・しかも国王陛下から、そうか・・・」と父さんがしんみりしだす。

孝行になっているかと心配になるが大丈夫の様だ。





夜の色が濃くなっていっても家の中を照らしている俺が灯した光の魔法が時を止めている様で、いつの間にか椅子に座ったまま寝ている妹たちに気付くまで土産話を続けたんだ。

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