第117話 気楽にいこう
村に帰り朝を迎えました、今日も皆は畑に行きます。
久しぶりの畑仕事、思っていたより仕事の手順を忘れていないもんだなと汗を拭きながらそう思う俺、クルトンです。
俺が畑の手伝いに入った事で本日予定していた仕事がいつもよりだいぶ早く終わった。
明日の分を先に進める事も考えたがクレスがソワソワしていたので切り上げた。
スレイプニルに乗りたい様だ。
「クレス、馬具を付けるから手伝ってくれ」
「うん!分かった」
嬉しそうに鞍やらを馬車から降ろし、俺が教えながら一緒に取り付けていく。
始終ニコニコして本当にうれしそう。
年の割には高身長のクレスだがそれでもスレイプニルの大きさにはかなりてこずっていて、急遽土の魔法で踏み台を作りそれに登る事でやっと馬具を取り付け、そのまま鞍に跨る。
俺はムーシカに跨りクレスに乗馬のコツをチラホラ教えていくがミーシカ・・・このスレイプニルたちが特別利口だからなのかは分からないがクレスの高い身体能力も相まって直ぐに乗りこなしていく。
まさに人馬一体と言った感じだ。
ほう、やるな。
俺より遥かに体重が軽いというのも有るのだろうが、クレスを乗せたミーシカはそれこそ新幹線のように滑らかに加速、そして直ぐに最高速に達しスレイプニル特有の上下運動の少ない姿勢で野を矢のように掛けていく、美しい。
・・・ほう、やるな(汗)
クレスが乗るミーシカに対し俺が乗っているムーシカはトルクに任せた様な走りで、加速の最中は蹄で地が抉れ、シフトチェンジを繰り返し速度のレンジがどんどん上がっていくオートバイの様な感じ。
エレガントさの欠片も無いが豪快さと楽しさでは引けを取らない、そんな走りだ。
村の周りの畑に迷惑が掛からない様にさらにその外周をクレスと一緒に走り続けているとだんだん村の人達が見物に集まってきた。
「レビンの倅がスレイプニル連れて帰ってきたって聞いたが・・・あれか、初めて見た」
「相変わらずね(笑)クルトンらしいわ」
「クレスも大したもんだな、あいつ馬に乗った事あったっけか?」
「あんなに速く走るのか、スレイプニルって」
やいのやいの見物している。
開拓村なんて娯楽はそもそも少ないからいい話のネタになるだろう。
やっぱりスレイプニルは珍しいもんな、王都でもいなかったもの。
こんな村の人達の反応見ているとちょっと気分がいい、スレイプニルを自慢出来てとても気分がいい。
徐々に速度を落としパカラパカラ蹄を鳴らして家に向かう。
当然村の中をこれ見よがしに自慢しながら。
もっと俺のスレイプニルを誉めそやしてもいいのですよ、さあ遠慮せずに。
・・・皆クレスしか見てないな。
認識阻害かけたままだったかな?・・・うん、かけてないな。
クレス大人気、ちょっと羨ましい。
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「ちょっと!兄さん宝石作れるんだって?なんで早く言ってくれないのよ!」
「そうよ、お母さんばっかりずるい!」
母さんに俺の仕事の成果、宝飾職人としての腕前を知ってほしくてダイヤのネックレスをプレゼントした。
レ〇ィー・ガ〇がなんかの賞の授賞式にしていたかなり豪華なデザインのヤツを参考にして設えた物。
デザインはうろ覚えだったが300個以上の大小さまざまなダイヤを使い、「多分、母さんは高価な物は身に付けないだろうな」と分かっていたので、どうせなら観賞用として派手に盛ってしまえと割り切って作った豪華でグラマラスな逸品。
首輪かと見紛うほどの厚みになってしまった。
王都生まれでコルネン育ちの母さんはすぐにこれの価値を理解した様で「なんなの、これ!こんな高価な物冗談じゃないわ」と頑なに受け取らなかったが、チェーンや台座にしたミスリルは俺が討伐した魔獣からの精錬品、ダイヤモンドは材料込みで俺が作れる事を説明。
だから実際の材料費は家族の一食分の食費よりもかかっていないんだよと説明すると今度は妹たちが口を出してきた。
成人前の女性の声は特に高いんだから、そんなに激しく問い詰められると耳が”キーン”とする。
と、返したら余計にうるさくなった。
いやいや、おこちゃまの君たちにはまだ早いですよ。
成人したらこさえてあげるから可憐な淑女になれるように精進しなさい。
「言質は取ったからね!成人したら絶対よ!」
こら、人に向けて指をさしてはいけません。
「私はダイヤのピアスと指輪が良いなぁ」
欲張りさんですね、まあ構わんが。
それよりその宝飾品に見合う格の家に嫁ぎなさいよ、嫁いで早々に質屋に流れたなんて事なったら俺、泣いてまうで。
・・・クレスもなんか曇りなき眼で見つめてくる。
うん、何とかするよ、スレイプニルが欲しいんだっけか。
うん、王都にそのための事業も立ち上がるから都合付けれると思うよ、おれそこのCEOだから、多分。
あ、CEOって言っても分からんよね。
一番偉い人?うんその認識で間違ってはいない。
しかし何気に俺の兄弟たち強欲なんじゃね?
「強い者が施しをしなければ開拓村では立ち行かない事も多いからな。当然強い者はその恩恵も受けるが」
父さんがそう言う。
はい、異性が寄ってくるそうです。
俺には寄ってきませんでしたけどね。
前世では自立しろだとか自己責任だとか色々言われるが、それを議論する際の前提が違うからなぁ、この世界。
来訪者の加護持ち程じゃないにせよ、ただそこに存在するだけでも難しい人が居る世界だから皆が皆に優しくなければ種として衰退していってしまうんだろう。
この事を皆が無意識に理解してるんだろうな。
もっと気楽に生きれる世界でありますように。
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