第19話 事前準備(全力)

 明日の準備に余念がない俺、クルトンです。


 宝飾工房を2件訪問したが向こうからしたらアポなしで突然の事だったろう。

 冷静に状況を振り返り、断られて当然だと納得する。


 なんか悪い事したな。

 お詫びにパンでも持っていこう。



 初めに訪問したところは下宿している伯父さんのパン屋さんから歩いて20分くらいの所。

 その一角に宝飾工房は5件纏まってあったんだけど何処が良いかなんて分からないからとにかく一番近いところにアタックした。


 結果は断られたんだがお詫びのパンを持って行くのと一緒に俺の宝飾技術が判断できる品物を作成、見てもらって再チャレンジさせてもらおうかな。

 あ、アイザック伯父さんの甥だって事も言った方がいいな、伯父さん顔広いみたいだからそれだけで信頼されるかも。






 俺の技量を測ってもらうサンプルとして、指輪が良いだろう。

 鉄でたけど何回か作った事あるし。


 パンではちょっと失敗してしまったが、同じ過ちは繰り返さない。

 故に全力で挑む所存。




 出来た・・・。

 とにかく頑張った、今できる俺のすべてをつぎ込んだと言ってもいいだろう。

 前世の記憶をもとに自作したちょっと不恰好なノミや小型のプライヤー等々の宝飾作業用道具を駆使して指輪が完成した。


 美しい。



 自慢したいので早速叔母さんとお祖母さんに見せ、「どんなもんですかね?」と出来塩梅を評価してもらったらじっと見つめられた。

 ・・・欲しいんですか?



 二人とも物凄い速さでヘッドバンキングしてる。

 いや、でもそれ明日の就職活動用の商品サンプルなんですよ。

 1個しかないし材料もほとんど使ってしまったのでちょっと勘弁してください、ホント。


 とっても残念そうにしていて、俺悪くないのに罪悪感を覚えてしまう。



 コレ、派手目な銀色で光ってますけど銀じゃなくて鉄、ニッケル、クロムの合金なんですよ。

 そう、前世で言うステンレスです。

 錆び難い金属として有名なあれです。


 当然材料は存在しててもステンレスとしての合金はこの世で開発されていません、多分。

 だからイイ!

 自重しないと決めたから、これで暴利を貪るのだ。



 ・・・冗談ですよ。

 鉄はともかくクロム、ニッケルなんてのは10歳位から出稼ぎに出るまで、採取スキルフル活用しても親指の先ほどしか集められませんでした。

 鉱山なら別だろうけどそもそもそんなにある金属じゃないんです。

 異世界だからもしかしたら埋蔵量ハンパない鉱山が有るのかもしれないけど村近辺には無かった。



 合金にする技術もそうなんですが俺一番のアピールポイントは指輪への魔法の付与。

 魔法陣を描いたり彫り込んだりして魔法の効果を付与する技術は既にあります、普通に。

 高価ではありますが一般にも出回っている商品もあります。

 保冷庫とか。


 ただ宝飾品、今回は指輪という極めて小さな物へ『俺ならば』魔法陣を彫り込めるという事を押していきたいのです。




 伯父さん一家を前に俺が作った指輪のプレゼンの練習をしましょう。

 付き合って頂くお礼に今回はラスクを用意しました、摘みながらどうぞ。

 では始めますね。


 このステンレスを直径3~4mm程度の棒に加工、それを3本準備。

 はめる指の太さをある程度選定し必要な長さにカットします。

 そして1本づつ魔法陣を彫り込んでいく。

 材料はもう無いので細い木の棒をそれに見立てて説明。


 1本は主に魔素吸収。

 魔素ってのはこの大気に充満していると言われている謎エネルギー、体内に取り込むと魔力なんだって。

 未だに良く分かんねぇや。


 2本目は主に魔力変換。

 魔素吸収で取り込んだエネルギーを魔力に変換する。

 魔法に使える燃料に精製する工程。


 3本目は主に質量変換。

 もうわけ分らんよね?

 俺も分からんけど質量変えると大きさ変わるんだってさ、込める魔力に応じて。

 何その無理やりな理屈。

 なお、元の大きさより大きく重くはならないが、小さく軽くはできる。


 この他に指輪に魔力を循環させる魔法陣、循環している魔力量を測定する魔法陣、循環している魔力を一定量に調整する魔法陣、諸々の魔法陣を統制する魔法陣等々・・・を隙間に、お互いの魔法陣が干渉しない様に組み込みました。

 プログラムのように一つの事象ごとに一つの魔法陣必要だから結構な量になる


 これらをちょっと深めに掘り込み研磨。

 ミクロン単位の作業です。



 これを三つ編み、リボン状にしてからくるっと巻いて両端をロウ付け、指輪の形に形成。

 編み込んだ棒同士のガタを無くすため心持ち圧縮の魔法でキュっとする。

 狭い範囲へのちょっとした魔法は割と無茶な事でも融通が利く、便利。

 スキルを使うとまるで粘土で陶芸でもしているような感覚に陥りますが金属を加工してます。


 そして仕上げの研磨。

 設備は無いので魔法で。

 研磨のプロセスは電解研磨のイメージ。

 いやぁ便利だわぁ。



 と、いう事でできました。

 サイズ調整機能付き指輪(ステンレス製)


 込める魔力でお好みのサイズに調整、一度調整したら自動でサイズを維持します。

 そして奥様の体形がポッチャリしてきても魔力を込め直す事で何回でもサイズ調整可能。


 いやー良いものを造ったわぁ。

 結婚指輪にしたら出産後体形が変わっても愛着ある指輪を仕立て直さなくてもよくなるんですよ、奥さん。

 画期的じゃないですか?



 こんな感じで伯父さん一家にプレゼンしたら

「ふざけてんのか、技能の無駄遣いだろ?」

 って言われた。


 うん、分かってる。

 でもこれに関しては自重しないと決めたからね。


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