第20話 就職活動、再び
今日の為にとっておきのパンを作りました。
やり切った俺、クルトンです。
早々に禁じ手を使ってしまいました、揚げパンの誕生です。
原初の菓子パンと言ってもいいでしょう。
砂糖はお値段が高くおいそれ使えないので村からお土産として持ってきた大豆を使わせてもらい、煎って臼で引いてきな粉を作ってまぶした。
勿論調理スキル全開だ。
きな粉はたっぷりめで。
小麦の甘さにきな粉の香ばしさが際立って何だか素朴で飽きない味。
揚げるための油もそこそこのお値段なのでお詫びで回る宝飾工房2件分をササッと作りすぐに油を落とそうとしたら、叔父さん一家が食わせろと言うので急遽追加でパンを焼き油で揚げ完成。
こちらもきな粉たっぷりで出しましたらモッシャモッシャ食べてました。
美味しかった様です、良かった。
工房の方も喜んでくれるでしょう。
やって来ましたカサンドラ宝飾工房。
俺が一番最初に訪れた工房です。
2件目に行った工房には先にお詫びとお土産渡して来ました。
揚げパン好評でしたよ。
さて、一通りのお詫びを伝え揚げパンを渡す。
こんなパンですが酒精の強いお酒と合わせて食べても美味しいですよと唆したら親方が午前中から飲み出した。
「大丈夫、味見だけだ」
そうですか、では改めまして自分こう言った技能を習得しておりまして・・・
と、サンプルの指輪を取り出して渡す。
親方が揚げパン摘んだベッタベタの指で受け取ろうとして、
あっ、ちゃんとタオルで拭きました。
そしてガン見してます。
「この光沢、鍍金か?」
違います、研磨でこの光沢出しました。
俺の鼻穴が膨らみます。
「・・・」
黙り込みました。
「まずは話を聞こう」
やっと口を開いてくれたので促された通りサンプルの説明をおこなう。
昨日おじさん達を前にして行ったプレゼンをテンション5割引きで、しかしゆっくり丁寧に。
「・・・試していいか?」
どうぞどうぞ
親方が女性の名を呼びます。
あっ、奥さんですか、どうも先日はご迷惑おかけしまして。
「これ、はめてみろ」
親方が奥さんに指輪を渡し、俺が使い方の説明をする。
サイズの調整機能付き、こんな感じで魔力を込めますと任意のサイズに・・・と、一通り説明、試してもらう。
「あらあら、あらあらあら」
右中指にしたサンプルの指輪をうっとりと一頻り眺めた後にじっと親方を見つめる奥様。
いつの間にか奥様の後ろに別の女性もいて見るからに羨ましそうにしています。
え、こちらも奥様ですか、そうですか・・・親方男前ですね。
ここは一夫多妻制の『制度』はありませんが、一夫一妻制もありません。
この国では養えるのならば基本何人でも娶っても構いません。
当然子供も一緒に養えるのであれば、です。
沢山の奥さんを娶り沢山の子供を育てる。
それができる富裕層の旦那さんは尊敬されます。
この場合、二人目以降の奥さんは若い娘を手籠めにするって事ではなく、未亡人や何かの理由で婚期を逃している女性を娶ることが大半で、その子供達を含め彼女らのセーフティーネット的な風習であり基本異論を唱える人は居ません。
そして二人とも銀製のチョーカーをしています。
この世界も結婚の証として指輪がポピュラーですが基本リング状の宝飾品であれば何でも構いません。
指輪が多いのは単に貴金属の使用量が少なくて他と比較して安価だから。
財力のある人はネックレス。
これ、指輪と比べて材料の量が多いってのもありますがチェーン製作の自動機なんて無いので造る手間がべらぼうにかかる為に高価。
後は単純に材料を多く使う腕輪、正直これは見た事ないです。
例外は足輪、結婚の証の宝飾品は上半身に身に着けるので足輪は除外されます。
そして親方の奥さん二人がしているチョーカー。
材質は銀ですけど材料を繊維状にして編み込んで作ってます。
幅も30mmはあり、かなりの手間がかかっています。
という事はかなり高価な代物です。
見た目似ているプラチナはより繊維に近い扱いが可能な金属ですが、それはこっちの世界でも金より高価。
だから銀製なんでしょうが親方、やりますね。
そして奥さんたちは愛されてますね。
あっ、照れてる。
「と、ともかく、これはこいつ・・・クルトンの作品だ。技術の見本品だから売り物じゃねぇ」
そうです、作るの結構大変なんですよ。
材料の都合で1個しか作れませんでしたし。
「「材料有れば作ってくれる?」」
二人とも仲いいんでしょうね、完璧にハモりました。
でもこれには親方がストップをかけました。
「駄目だ、これ一個でいくらすると思うんだ?多分オークションに出せば・・・一等地って訳にはいかねえが王都近郊に家が建つくらいの値が付く」
これには奥さんたちの目が丸くなりました。
俺もです。
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