第355話 老騎士

寝る前に今回頑張ってくれた若手騎士さん達に魔獣の料理を振舞う。

餌に群がる池の鯉の様に壮絶な食事風景を眺めている俺、クルトンです。


討伐を行った班以外は既に就寝している。

食事が終わればこの騎士さん達も泥に沈む様に眠りにつく事だろう。


明日は更に苛烈になっていくから俺も始末がつき次第寝てしまおう、この身体になってからは徹夜も辛くは無いが不確定要素は潰しておいた方が良いだろうしね。



おはようございます。


既にデデリさんとベテラン騎士数人は起きていて、軽く準備運動をしている。

今日は見本を見せるとか張り切っていたから、皆溌溂として魔獣討伐だというのに笑顔が絶えない。

100歳近いデデリさんも相変わらず若いなぁ・・・改めて凄い人だよ。



「デデリ隊長、わがままを申し上げるが今回は私から行かせて頂きたい。

承知いただけないでしょうか」


「ははは、孫の前で良いところを見せたいのか。

構わんぞ、だがしくじったら孫に何言われるか分からんが良いのか?」



ん?あの騎士さんのお孫さんがこの隊に居るのか、そうかそうか。

なら張り切っちゃうよね、分かる。

俺、応援しちゃうよ。



そんな同窓会でのおしゃべりの様な雰囲気のままデデリさん達が準備運動を進めていると段々皆が起床して来る。


今朝は昨日の急な準備と訓練が有ったから起床時間は決めていない。

因みに昨日頑張った合計10班(50人)は本日休暇にしている。

治療はしたがそれ程精神が疲弊していたから。


こんな訓練を開催していてなんだが安全第一、訓練なのに体調不良のまま魔獣とは戦わせられない。



とは言ったがさほど時間を置かずに全員起きてきた。

流石にぐったりしている人は居るがデデリさん達の戦う姿を見学する為だろう、既に鎧も装着している。


朝食を済ませ30分ほど体を休ませた後、早速ハウジングの区画にデデリさん含む合計5名のベテラン騎士が入る。


デデリさん程ではないにしろ、皆が皆老齢と言われてもおかしくない年齢らしいのにその出で立ちは堂々としていて、更にその雰囲気から実際より一回り大きく、まるで岩で作られたゴーレムの様にも見える。



ちょっとやそっとじゃ倒せそうにない、そんな風格がある。何気にカッコいい。


デデリさんは両手持ちの大槌、他は全員右手に楯を装着している。

左手にはそれぞれ剣だったり棍棒だったり。


扱いに癖があるフレイル型のモーニングスターを持っているニッチな人も居る。



「クルトン、準備はいいぞ!」

デデリさんからの号令がかかった、ではポチッとな。(雰囲気)



事前に打ち合わせしていた通り今回は2頭いっぺんに出現させる。

10m程だろうか、昨日空いた地面の穴からほぼ垂直に打ち出された魔獣は最高地点に到達すると、位置エネルギーを運動エネルギーに変換しながら・・・つまり落ちてきた。


「「キイイイイイイーーーーーー」」


ただの自由落下なので騎士たちの居る所に丁度良く落ちる訳ではない。

なので楯を構えて落下地点に予め走り込んだ2名の騎士さん達は、盾で魔獣を受ける瞬間RPGで言う所のシールドバッシュの様に楯ごと体当たりを行う。


「フン!」

「ハッ!」


”ガコン!!”と、生き物にぶつかった様には到底思えない音が鳴って魔獣が吹き飛ばされるが・・・、

ダメージは無い様だ。



派手にゴロンゴロン転がったが抑々丸っこい体が衝撃を回転運動に変えてしまったみたい。

体形を利用した綺麗な受け身と言ったところか。


「まあ、これで終わるとは思っておらなんだが」

「さすが人類の捕食者と言ったところか」



そこから一進一退の攻防が続く。


傍から見たら丸っこい巨大カピバラが短い脚を忙しなく動かし騎士さんにじゃれている様にも見えるが、綺麗に二匹が連携をりながら体当たりや爪、牙の攻撃を放ち、その一撃一撃が重く、段々と楯には凹み、鎧には傷が増えてくる。



至近距離で振るわれる前世のバドミントンのラケットより遥かに素早い騎士たちの武器を、変則的で華麗な体捌きで躱す魔獣を見ていると、

自然界では完全に人の上位の存在である事を改めて思い知らされる。



ってか・・・昨日より強くね?

見た目で違いは分からないが明らかに昨日の魔獣と動きの質が違う。

人に例えればまるで武芸の達人の様な感じ。


そりゃそうか、53頭もいて戦闘力が均一な訳ないもんな、今回は当たりを引いてしまったか?




「ホッ!」

「セイ!」

「シッ!」

「フン!」


でもね、お前たちは凡そ1万年の間、ただ本能に身を委ね自らの進化を停滞させているその間、

人類はほんの僅か・・・そう、雲母の様に薄く、摘まめば砕ける程度であったとしても上を向き続け、研鑽を重ね積んできたんだよ。


「隊長!!」

「任された!!」


生物で有る以上、骨格、関節の稼働範囲、筋肉量と魔力量から予測できる、一定時間内で移動できる距離の限界、それは必ずあるんだ。



”バゴン!!”

「キュ・・・」


行動を誘導、予測してそこに置くように武器を走らせる。

まるで魔獣が自ら飛び込む様にデデリさんの大槌に向かって行き、叩き付けられハジかれる。


流石に加護持ちの攻撃は堪えた様で、立ち上がるのにかかる数瞬、その隙に剣を持った騎士が首を切り裂き絶命した。



1頭目が倒されると後は詰将棋の様に淡々と魔獣の行動の先を潰し、危なげなく2頭目の討伐が完了する。



「「「「「おおおおお!!!」」」」」

見学していた騎士たちの歓声が上がる。


それを聞いて振り向いた5人の老騎士たち。

その立ち姿も中々絵になる構図だ。




デデリさんが勝鬨に合わせ持ち上げ、掲げた魔獣がカピバラじゃなかったらもっと良かったのにな。



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