第354話 パワーレベリング

程なくして皆が到着、そして野営のテントを準備している最中の俺、クルトンです。



デデリさんの提案も有り、俺のハウジングのアシストの下で魔獣討伐の実戦訓練を開催する事となった。


その為、本来後方支援の為に召集された戦闘力的には序列下位の騎士さんも戦闘に加わる事となった、ご愁傷様。



「なんで私がこの班になるのよ」

パメラ嬢もいらっしゃるが特例として扱われる事無く若年班に加わっての戦闘参加となる。


精鋭を集めたと思ったが後方支援部隊以外も結構新人、若手が混じっている。

直ぐ動ける人員が足りなかったのかな?



「パメラ、お前の力は加護持ちの中で比べても決して弱くは無い。むしろ14と言う年齢を考えれば同年代なら頭一つ、二つ抜きん出ているだろうよ。

しかし圧倒的に振舞いが未熟なのだよ、早死にする典型だ。」


自分が尊敬する曾爺さんのデデリさんにピシャリとそう言われて押し黙る。

パメラ嬢はとても頭が良い。実はちゃんと分かっているんだろう、それ以上は何も言わなかった。




「デデリ、本当に安全なのか?油断せず守ってくれよ。

情けない事だが私に騎士の素質は無いのだから、この歳で死にたくはない」


今度は領主様がお道化たようにそう言うが、実際は言葉の通りかなりビビっているのは良く分かる。

上に立つ以上弱音を吐くにも冗談にしないと格好がつかないんだろうな。


何とも難儀なものだ。


「ああ、油断はしない。しかしこれ以上ない教材が目の前に居るのだ。

この機会は余すことなく利用させてもらう」


デデリさんがそうニヤリとして俺に顔を向けてくる。



はいはい、じゃあ説明しましょうか。


”パンパン、パンパン”

テントの設営をいったん中断し皆の注目を集める為に手を叩く。


「えーそれでは今回の魔獣討伐作戦、オペレーション『windfall (ウィンドフォール)棚から牡丹餅』の説明を行います」


「何よ、ウィンドフォール棚から牡丹餅って」


ほらほらパリメーラ姫様、話の途中にチャチャ入れない。

挙手を伴わない質問は無視しますから注意してください、あまり煩いとコルネンに追い返しますからね。


こんな事言うと危険を避けるためにコルネンに戻りだがる人が出てきそうだが其処は統率の取れた騎士団、そんな輩は一人もいない。


流石だ、面構えが違う。



「では続けます。

向こうに見える杭・・・ちょっと遠いですか?うん、なら後で皆で確認しましょう・・・合計8本の杭で区画を囲んで準備しておきました。

この区画内の地中、地面から凡そ1m~3m下付近にネズミ型魔獣の巣が有ります。

数は53頭です」



「「「53?」」」


”シュタッ”

ここで挙手した小隊長のサムエリド・ブレーカー男爵を指し、質問を促す。

王都に行った時、シンシアの護衛隊隊長だった人だ。


はい、質問どうぞ。

「インビジブルウルフ卿は今魔獣の数を53頭と申されたか?」

はい、言いました。


「正直信じられません、納得・・・とはいかぬまでも、我々が推察できる程度の根拠、情報は無いでしょうか」

俺の技能に関わるのでその辺も併せてこれからの説明を聞いて判断いただけないでしょうか。


納得いただけなくても結果として行動に移さざる得ない状況になりますし。

ですのですみませんが今の質問の回答の為に話を進めさせてください。

「仰る事ももっともです、俺もここまでの数は経験した事ありません。

ですので杭を打っている区画内を俺の技能で支配下に置きました。討伐開始に合わせて俺が任意の数の魔獣を地上に追い出します。

それを皆で狩っていく事で”安全”に魔獣討伐の経験を積み、熟練度を上げてもらいます」


「「「「???」」」」


「では1時間後、今回班分けした1班から順番にあの区画内に入ってもらう。

最初は1頭づつ魔獣を出してもらう、今の内に班内で役割分担等調整しておく様に!

では準備にかかれ!!」


少々戸惑いながらも返事をする総勢200名ほどの騎士さん達は、デデリさんの指示に従って班内で打ち合わせを始めだした。



53頭もいるんだ、今回の戦いは長丁場になる。

早くテントを立てて野営の準備を済ませよう、晩御飯には魔獣も加わる事だろうからその準備もかな。


炊事場も必要か、とりあえず土魔法で早々に済ませてしまおう。



「ではこれから魔獣討伐の実戦訓練を行う!

まずは合計二班の10名で1頭の魔獣と戦闘を行い討伐する事。

後詰にインビジブルウルフ卿と私デデリが交代で付くが、当然のことながら自分たちの力のみで討伐できる様に良く考えて挑む様に、以上!」


まず先発として新人の班二組が杭の内側、ハウジングの区画内に入る。



取りあえず始めようか。


「まず1頭引っ張り出します、ほぼ真正面に現れますので準備しておいてください」


俺の言葉が終わるとほぼ同時に正面の地面が丸く陥没、そこから魔獣が飛び出してくる。


「キィーーー!!!」

魔獣は短い脚を思いっきり蹴り出して騎士たちにかなりの早さで突進して来た。


シルエットだけで言えば大きなカピバラの様なのに、赤く光る3対の目と唇でも隠れない大きく鋭い牙が嫌でもそれが魔獣である事を認識させられる。



「ヒイ!」

一番前に出ていた盾持ちの人が悲鳴を上げて竦んでいる。

同じく楯を持った別の騎士がすかさず両脇に入り、お互いの体を支え守りの体勢を取るが少し間に合わなかった。


魔獣は弱いと判断した真ん中、悲鳴を上げた騎士に最初から狙いを定めていたのか怯む事なくそのまま体当たりで突っ込むと、騎士たちの防御が崩れ3人そろってたたらを踏む。


それとは対照的に寸胴な体形に短い脚、コミカルな姿に似合わず華麗に着地した魔獣は、その瞬間直ぐに切り替えし狙いを定めていた騎士の喉元目がけて噛みついてきた。


かなり速い。

最下級の魔獣でもこのクラスなのか、これが群れになったら確かに脅威だわな。


噛みつかれそうになっている事も認識できずに、体勢が崩れたままの騎士さんはこれでジ・エンドとなる。



”バタバタバタバタ”

「キィ!キィィィィーーー!!」


宙に浮かされた状態の魔獣が一生懸命足をジタバタ動かすがその場で空回り。

ハウジングの機能で魔獣を空中に固定し、騎士さんが体勢を整えるのを待つ。


「おい、今ので1回死んだぞ。

怯むな、ちゃんと楯を構えろ、顎を引いて顔を上げろ!

もう一回やり直しだ」

デデリさんからのダメ出しを喰らいもう一度二班合同で魔獣1頭に挑む。


最初の組が1頭の魔獣を討伐するまでに軽く3時間を要し、それを見学していた若手の騎士たちの顔は段々青くなっていく。


その内に班内でこのネズミ型魔獣に対しての最適な連携、討伐方法についての打ち合わせが再開され、次の組、その次の組と回が増すごとに討伐時間が短縮されていった。


ハウジングの昼夜時間調整機能を使用して区画内は夜中でも昼の明るさで討伐演習していたが流石に日をまたぐ時間となり本日はこれで終了する。


「ほぼ半日かけて5頭がやっとですか・・・本当に自分が情けない」

俺の治療を受けている騎士が俯きながらそう呟くが、そんな事は無いと思うよ。


最初から上手くいく事なんて稀だし、安全に失敗できるこんな時だからこそトライ&エラーを繰り返して自分の経験につなげていけば良いと思う。




偶然ではあるが、

今、ここはそれが許される場なのだから。

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