第356話 凪の時間

とは言え、なかなかに感動的な絵面だったので早速撮ったスクリーンショットをペンを持った俺の腕から出力する。


少し大きめの羊皮紙を準備しておいて良かったと自分を褒めている俺、クルトンです。




「ほうほう、良いではないか」

デデリさんからもお褒めの言葉を頂戴する。


覗き込んでた領主様も「今回の訓練が終わったら追加で頼む、画材はこちらで準備しよう」とか言ってる。


『戦争』ではなく『訓練』と言っている当たり、領主様にも大分余裕が出てきたみたい。



「インビジブルウルフ卿、私にも一枚書いてはもらえんでしょうか。

ええ、勿論報酬はお渡しします」


「儂にももう少し大きな物で・・・額で飾れるように」

「俺も1枚・・・いや、3枚」

「儂も・・・」


ハイハイ、記念になりますもんね。

老騎士の皆さんからのご注文承りました、と言ってもこれに関しては俺の労力は微々たるもの。


今回の稀に見る大規模な討伐作戦は後世に記録に残されるだろうから、試料用としてこのほかにも何枚か書き残すつもりだ。


取りあえずスケッチ程度の物をササっと書いて渡す。

正式な物はこれが終わってからじっくり描きましょう。



そんなこんなで本日も班ごとの討伐訓練が粛々と行われ、皆の実戦経験が積まれていく。

途中老騎士班含むベテラン班も何班か討伐を行い、昨日よりかなり良いペースで討伐訓練が進んでいった。



たまに出てくる当たりの魔獣、見た目で判別は出来ないが明らかなイレギュラー個体と対峙した班には俺、又はデデリさんがヘルプで入り大きな怪我をする人も出さずに夜を向かえる。


今日はここまでとし、討伐した魔獣を材料にシチューを作って皆で夕食を取る。

肉は業者に卸し一般販売する分を除いて幾分使用するが、このままでは皆には行き渡らない。

内臓系は直ぐに痛むからこの場で処置(料理)してしまう事もあってシチュー具材として、汁物にして皆へ公平に行き渡る様に工夫した。


「旨い・・・」

「これ本当に俺たち食って良いのかな?」

「いや、特に内臓は足が速いし仕方ないよな、うん」


臭みさえうまく処理できれば枝肉部より潤沢な魔力を含む内臓は旨味の塊で、煮込む事で他の具材までその旨味が浸透し、すこぶる好評なシチューが完成した。


下拵えは少々面倒だけどただ煮込んで塩と生姜、ニンニクと少々の香辛料で味を調えただけでこの旨味。

料理スキルの出番無くても関係ないな。



俺も「うめ、うめ」とシチューをモリモリ食べているとデデリさんが話しかけてくる。

グー握りで持ったスプーンでシチューを掻き込みながら。


「今日まで何体討伐した?」


えーと・・・累計で21頭ですね。

索敵とハウジングで確認すると、地中に潜んでいる魔獣は間違いなく32頭だったから。


「脅威的な討伐実績だな、しかも重傷者が出なかった事は奇跡だ」

まあ、『訓練』になる様にお膳立てしましたからね。


「それでもだ。

しかし、少し気が緩みだした若手がいる、魔獣に対しての緊張感が薄れてきている。

訓練だから大事にはならんだろうが、本番ならこれは致命的な被害を出す予兆に他ならない」


そうですね、慣れは慢心を引き寄せ、結果『運』も見放し去って行きます。



「もう少し難易度上げますか?リスクは当然増えますけど」

単純に1回に出現させる頭数を増やせば危険度は跳ね上がる。

どうしようもなくなった時に手を貸すタイミングを俺たちが調整すればいい。


「効果は薄いように感じるなぁ。

おそらく魔獣の恐ろしさを、本来ならどうしようも無い位の力の差が有る事を本当の意味で正しく認識できていないんだろう。

でだ、質問だが技能無しでだとお前なら何頭と渡り合える?」


ん?

そうですねぇ・・・傲慢に聞こえるかもしれませんが多分全頭いっぺんに対峙しても問題無いと思います。

特殊な能力持った魔獣でもない様ですし。


それを聞いてコクリト頷くデデリさん。

「なら10頭だ。10頭と対峙して討伐の見本を見せてやってほしい、さっきの通り技能無しで」



なんかよく分かりません。

そんな事で魔獣への認識が変わりますかね?


「変わらんかもしれんが・・・本来最下級のあの魔獣でも5頭もいれば小規模の都市なら1日掛からず壊滅してしまう程なんだよ。

それが10頭ともなれば群れで一つの生命体として機能して、ベテラン50人でも対処出来ない程の・・・そうだな、災害の様な物になる。

それ程に危険な状態の魔獣を間近で安全に観察できるんだ。

それで危機感を覚えない様ならそいつらの今後は考え直さにゃならんだろうな、早死にさせたくはない」


んー、まあ良いですけど。


じゃあ明日の初回は俺が対応する事にしましょうか。

少し体を動かしたかったってのも有りますし。



「ただ、ちゃんと我々に理解できるような戦い方をしてくれよ。

無茶言っているのは自覚してるがこれは若手への教育、訓練の一環だ。瞬殺なんぞされたらますます舐めて掛かるかもしれん」


承知しました。


さて、そうすると武器はどうしようかな。

基本弓で戦うつもりだったから弓と解体用ナイフしか持って来ていない。


弓で討伐するのは騎士さん達に見せる戦闘の手本として少し違う様な気がする。

有効な攻撃手段ではあるし、接敵前に弓で戦力を削ぐのは魔獣討伐戦のセオリーではあるんだけど。


「俺の槌を貸してやろうか?予備でもう二つ持って来ているしな」

お気遣いありがとうございます。


折角ですけどもうちょっと考えてみます。

そう言えば今まで使った弓、ナイフ以外の武器は杖とか天秤棒とかだったからもう少しカッコいい武器を使いたい。


とは言ってもクラフトスキルで拵えるにも金属素材は少ししか持って来ていないしなぁ、どうしよう。

ここいらで日本刀とか使わないともう一生チャンス無いかもしれないし。

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